新興国危機が沈静化?

現在、ウクライナ問題や中国の信用不安問題が市場に大きな影を落としており、相場の見通しが晴れない状況が続いている。そのため、ファンド勢もポジションを縮小する動きが顕著で、金融市場は出来高やポジションが縮小傾向にある。

しかし、ロシアや中国の市場を売り叩くような動きは既に峠を越えており、新興国危機相場は沈静化している。

下のチャートを見ていただきたい。現在、ロシア市場はルーブル高・国債高(金利低下)・株高のトリプル高となっているのである。売りトレンドは消滅し、売られすぎの調整によるリバウンド相場を展開中だ。

ドル/ロシアルーブル(日足) 強いルーブル売りトレンドは消滅し、調整相場に移行

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

ロシア10年国債金利(日足) 金利上昇も一服…

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

ロシアRTS株価指数(日足) 強い売りトレンドは消滅し、21日移動平均線を上抜く

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

中国は経済成長が鈍化し、地方財政をめぐるデフォルト観測が根強い。シャードーバンキング問題やデフォルト問題が毎日のようにニュースで取り上げられている中国だが、上海株はリバウンドに転じている。

上海総合指数(日足) 調整相場

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズは、3月24日にブラジルのソブリン格付けを「BBB」から投資適格級で最も低い「BBBマイナス」に1段階引き下げた。格付けがBBBマイナスとジャンク債の一歩手前まで下がってきたブラジルだが、ブラジル株は怒涛のリバウンド相場となっており、ポベスパ指数はV字反発となっている。

ブラジルポベスパ指数(日足) 金属相場高をうけてV字反発

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

新興国危機がなくなったわけではない。BRICSなどの新興国から先進国にマネーが回帰していく大きな流れに変化はないものの、新興国危機は相場的にはいったん織り込み済みになってしまったのである。その結果、市場参加者が新興国危機に対して〝大騒ぎ〟しなくなったので、これまで「売り」で勝負をしていたファンドは買戻しを余儀なくされているという。

現在、市場で起きている現象は、新興国危機の沈静化によるショートカバー(買い戻し)相場である。買戻しという<需給相場>なので、ファンダメンタルズ的な要素はほとんど相場に反映されない。

豪ドルも買い戻しで大幅高

オーストラリア準備銀行(RBA)は2月4日の政策決定会合後に発表した声明で、「豪ドル相場が不快なほど高い」との文言を削除した。ここが豪ドル相場の大きな転機だった。豪ドル売りの投機筋の拠りどころとなっていたのは、「豪ドルは不快なほど高い」という声明文と、スティーブンスRBA総裁の口先介入だったからだ。

3月6日のレポートで、「主要なクロス円通貨の中で、唯一、10月末買い・4月末売りの循環から取り残されている豪ドル/円も93円を伺うところまで戻してきた。ナショナル・オーストラリア銀行(NAB)発表の企業景況感指数は、昨年9月から今年1月まで5か月連続で上昇しており、豪州経済も徐々に回復してきている」と書いたが、3月初旬の段階で豪ドルを売っている運用者は、筆者の周辺ではいなくなっていたように思う。

豪ドルのチャートを見てみよう。豪ドルという通貨は明確なトレンドが発生しにくいトレンドフォロワー泣かせの通貨であるが、現在は豪ドル/ドル、豪ドル/円のいずれも買いトレンド相場となっている。

豪ドル/ドル(日足) 買いトレンド相場 13日移動平均線+2%乖離(緑のライン)に到達

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足) 買いトレンド相場 13日移動平均線+2%乖離(緑のライン)に到達

逆張りの豪ドル買いはストキャスティクスのボトム圏で…
上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)・2シグマ(赤)
下段:ストキャスティクス5.3.3


(出所:石原順)

豪ドル/NZドル(日足) 調整相場 NZドルも強いが、直近の相場では豪ドルの買い戻し圧力が勝る

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

この豪ドル高相場の原動力は、豪ドルの売り方の買戻しである。買戻しが上げの原動力である以上、売り方の買い戻しが終われば豪ドルの買い戻し相場は勢いを失う可能性があることに留意したい。

シカゴIMM 豪ドルのポジション 売り方の買戻しがじわじわと進行し売りポジションが減少 (CFTC発表 3月18日時点)


(出所:石原順)

一方、豪ドル/ドルと豪ドル/円の週足をみると、明確な方向性は見当たらず、次のトレンド待ちの状況となっている。週足に買いトレンドが発生しない限り、上を買い上がるような相場展開ではない。

豪ドル/ドル(週足) 豪ドル売りトレンド消滅後の調整相場

上段:14週ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21週ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

豪ドル/円(週足) 相場はかなり煮詰まってきたが、方向感の示唆はない

上段:14週ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21週ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

豪ドル相場の先行きは?

豪ドルがさらに上がるかどうかは、4月の米国株相場次第といえよう。豪ドル相場は薄れていたNYダウとの相関関係が戻りつつある。

『ニューヨーク・ダウ工業株30種平均の過去の推移を振り返ると、4月は上がりやすい月だ。「1900年から直近まで」「1945年9月から直近まで」「1990年から直近まで」の3段階に分けて調べたところ、4月のダウ平均の月間上昇率の平均値は1945年9月以降だと1.86%、1990年以降でも2.37%と、ともに12カ月中首位だ』(2014年3月26日 日経新聞電子版「マーケット反射鏡」前田昌孝)という4月高のアノマリーが実現すれば、豪ドルはもう一段の上昇が期待できるだろう。

日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。