オリンピックは経済の祭典? 安倍政権は「気分」の売り込みに成功

2020年夏季オリンピック開催地が東京に決まって以降、「五輪経済効果は150兆円」、「日経平均は年内16,000円」「日経平均は今後30,000円から40,000円を目指す」などの景気のいい話が飛び交っている。TVや新聞は連日のオリンピック報道で大はしゃぎだ。競技施設、鉄道、道路、空港などのインフラ整備が予測されることから、1980年代後半か?と思うようなウォーターフロントのバブルが囁かれ、建設株や不動産株などが賑わっている。

このように、日本は「空気」で動く国である。オリンピック招致に失敗すれば、期待の反動から「がっかり感」が日本を覆い、アベノミクスも腰折れするのではないかとの懸念もあったが、招致が決まってからは「五輪開催という目標に向ってまっしぐら」という雰囲気となっている。

安倍首相は強運の持ち主と言えるだろう。五輪招致が決定した事による「浮かれ気分」で、消費税問題をはじめ、全てのことが「まあ、しょうがないか…」といった「気分」でうまく進むのではないかとみられている。

五輪決定で消費税増税と異次元の財政出動へ

「増税による財政再建」と「経済成長」が両立するかどうかは疑わしい。消費税増税は日本経済に「増税→消費減→生産減→所得減→消費減」という負のスパイラルを起こさせる可能性があり、リフレ派の論客は「やるのは今でない」という意見だ。しかし、日本の財政破綻を危惧する米国は日本の消費税増税には賛成だし、自らの裁量権が増える官僚も賛成だ。東京五輪決定で国民の気分が高揚していることもあり、10月1日に消費税増税が決定されるだろう。

可処分所得が年々減少しているなかでの消費税増税は、日本の景気が失速し財政も更に悪化するというリスクを抱えている。しかし、どういうわけか市場は消費税増税に賛成している。「消費税増税見送りなら、8月初旬にみられた投機筋による円買い・株売りが出る」と噂されているので、増税に賛成なのだろう。

消費税増税が決定されれば、間違いなく追加の財政出動が行なわれ、消費税増税との合わせ技で法人税減税も浮上してくるだろう。自民党の選挙での大勝を受けてただでさえ「バラマキ」が復活しやすい環境となっていたが、東京オリンピックが決定したことで90年代のような「異次元の財政出動」が復活する。前の政権で「コンクリートから人へ」などと言っていたのが嘘のようだ。オリンピック開催を大義名分に財政再建も行革も歳出削減も当面は棚上げとなろう。

黒田日銀による2014年末までの270兆円異次元緩和に加えて、これから五輪決定による「財政の大盤振る舞い」が出てくるだろう。「アベノミクス第2幕」と称する「バブル環境」が整いつつあるのが今の状況だ。

日本株上昇の思惑

海外ファンドの注目点は、「日銀の異次元緩和と五輪決定による財政の大盤振る舞いによって、比較的短期間で1996年からの上値抵抗線を抜いてくるのではないか?」ということである。この抵抗線を上抜ければ相場上昇に大きなはずみがつく可能性があり、「この秋は日本株の仕込み場か?」との強気見通しが増えている。日経平均の日足はまだ強い買いトレンドが発生していないが、三角保合いを上抜いてきており、チャートの教科書的な解釈では長期的に17,500円を狙える型となっている。

日経平均(月足) 1996年からの長期抵抗線(赤のライン)が視野に

日本だけの要因で観れば、大相場の準備が整っているが…


(出所:石原順)

日経平均(日足) 三角保合いを明確に上抜け

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

日銀の総資産(単位:10億円)2013年9月1日現在205兆円

2013年末には220兆円、2014年末には290兆円へ拡大


(出所:石原順)

異次元緩和+財政の大盤振る舞い相場の賞味期限は、とりあえず消費税10%が予定されている2015年10月までがメドとなろう。それまでは財務省も景気を維持しようとするからだ。「ここから2年くらいは日本の期待インフレ率が高まり、バブル的な相場環境となる」とみるファンド運用者も多い。日本国内の材料からは、日本株高・円安が進みやすい環境が整った。

日本経済のリスクは「コストプッシュ・インフレ」と「悪い金利上昇」

円安が良いか円高が良いかは立場によって異なるが、円安は今の日本経済全体にとってはプラスであろう。2012年~2013年の日本の株価上昇は為替の円安効果だけだと言い切ってよい。筆者は日本の高コスト体質を是正するには為替(円安)で調整するしかないので、円安に賛成ではあるが円安はよいことばかりではない。

現在、アベノミクスで日本経済が強くなっているとしても、それは家計から企業・国への所得移転が行なわれているだけで、日本の中間層は没落の流れにある。円安で株が上がったのはよいが、円安による物価上昇によって家計は苦しくなっている。五輪決定で安倍政権が財政の大盤振る舞いに踏み切れば、五輪開催を大義名分にあらゆる政策が同時多発的に動き出し、場合によっては物価上昇懸念が高まるだろう。「アベノミクス第2幕」のリスクは「悪い金利上昇」であろう。

政策のバラマキで景気が良いうちは金利が多少上がっても、景気回復による「良い金利上昇」だと市場は解釈するだろう。しかし、日本の長期金利が2%を超えてくると、こんなはずではなかったという「悪い金利上昇や悪い円安」が始まるかもしれない。スタグフレーションである。ただ、マクロ系のファンド運用者に聞くと、「日本の金利が2%を超えてくるのはまだ2年くらいかかる」と観ているようである。

日本10年国債金利(月足) 財政の大盤振る舞いでさらに財政は悪化しそう?

今後2%を超えてきたらバブル崩壊に要注意!


(出所:石原順)

アベノミクスは「デフレ脱却と成長戦略」を掲げているが、投資を行なわず何もしなければインフレ分だけ資産は目減りしていくだろう。円を売るか株を買わないとアベノミクスや東京オリンピック開催の恩恵は廻ってこないと思われる。また、今は棚上げとなっているが、「財政再建」は負債の国民への分配であり、将来は家計から国(国債)への大きな所得移転が起こるだろう。我々はそのヘッジを考える必要がある。

いよいよ来週18日はFOMC

米雇用統計の悪化でQE縮小が12月にずれるとの思惑、中国の好調な景気市場、早期のシリア攻撃観測の後退、日本の五輪決定などを受けて市場はリスク・オンに動いている。この動きが続くかどうかは、ファンドの間でも意見が分かれている。

注目は来週18日のFOMCだが、「Tapering(資産買入れ縮小)」は金融引き締めではなく、縮小額も小幅にとどまる」「18日のFOMCでQE縮小が決まれば、モヤモヤが続いてきた相場があく抜けする」などの楽観的な見方が多い。

しかし、ファンド勢の半分は「この楽観が恐い」と言っているようだ。「何のためにQEを縮小するのか?それは現在のQE政策をこのまま放置しておくとバブルになるからである。そうであるなら、QE縮小は下げ相場にならないとしても、上げ相場の要因ではない」「QEはマーケットには効果はあったが、雇用は改善しなかった。バーナンキはもうレームダックであり、次のFRB議長の政策転換や舵取りの困難さを市場は織り込んでいない」「イエレンは市場関係者の5割以上が支持しているが、サマーズを支持しているのは3%に過ぎない。サマーズがFRB議長に指名されれば利上げが早まるだろうし政策も変わるだろう。オバマがサマーズを指名した場合の市場の反応は不確実性が高い」など、FOMCや新FRB議長の指名待ちのファンドも多い。

1990年以降の米国株の相場は大きなバブルとその崩壊の繰り返しである。リーマン・ショック以降の相場は中央銀行バブルであった。その中央銀行が資産縮小に動くのだから、過度な楽観は禁物だろう。

FRBの総資産(単位:100万ドル) 内規の上限である名目GDPの20%に接近

7~8月の雇用統計の数字は9月18日の縮小に決め手を欠くとの見方もあるが、既定通りQE縮小を実施か?


(出所:石原順)

米国の全人口に対する民間労働者の比率 これ以上QEを続けても雇用は回復しない?

ベビーブーマーの退職を割り引いても、リーマン・ショック以降の米国の雇用はそれほど改善していない


(出所:セントルイス連銀)

NYダウ(月足) 1990年以降の米国株の相場は大きなバブルとその崩壊の繰り返し

中央銀行バブルの崩壊は何時か…
(米国の景気低迷期=水色のゾーン)


(出所:石原順)

NYダウ(週足)と米国の量的緩和政策=中央銀行バブル

QE縮小は織込み済み? サマーズは? QE縮小でも株は上がるのか…?


(出所:石原順)

為替市場はFOMCの結果と新FRB議長指名後にトレンド発生か?

これまでのレポートに書いたように、9月は相場材料がてんこ盛りである。その中でも、18日のFOMCと新FRB議長の指名は2大イベントといえるだろう。

ドル/円は三角保合いを上抜け、上値トライの動きとなっているが、どうも上昇に力強さがない。100円超の本邦企業のドル売りの重石もあるが、上に書いた2大イベントを通過するまでは、短期売買中心の取引者が多いからである。それに加えて、9月3日時点のシカゴIMMの円のポジションは円売りポジションが高水準となっており、利食いや損切りが出てくるので、円安が連続した方向性を持ちにくい。

米国が「出口」に向う一方で日本は「異次元緩和」に動いており、大局観での円安見通しは動かないが、ADXや標準偏差の形状を見てもまた上値を追いかけるような相場にはなっておらず、まだドル/円相場は押し目買いに分があるようだ。

利下げ観測の後退や中国経済指標の好転から、豪ドル相場は「売りポジションの買い戻し」が出ている。豪ドル/円(日足)は上値抵抗線を上抜き、4月からの8月までの下げ幅の38.2%戻しを達成したが、「200日移動平均線を上抜くことが出来るか否か?」が投機筋の焦点となっているという。200日移動平均線を上回れば、半値戻しがターゲットとなろう。

ドル/円(日足) トレンド指標にまだ力がない

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日時間ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

シカゴIMM 円のポジション(9月3日時点)


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足) もう一段のショートカバーで、抵抗となっている200日移動平均を超えられるか…?

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日時間ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

シカゴIMM 豪ドルのポジション(9月3日時点)


(出所:石原順)