信用収縮によるマネーの逆流が一服

米国の出口観測が5月に浮上してから新興国中心にドル高が進んだ。新興国は資金流出を防ぐため、介入で通貨防衛に動いた。ブラジルなどの経常赤字国は保有する米国債を売って自国通貨を買い支えたため、米国の長期金利は5月の1.6%から7月の2.7%まで急上昇した。

ブラジル1年物金利(左)とドル/レアル(右)の日足

海外マネーを呼び込むには、2桁の金利と2.4以上のレアル安が必要?


(出所:石原順)

ブラジルボベスパ指数(日足) ブラジルからの資金流出は一服…

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

介入などで一旦信用収縮圧力が弱まり、また、7月19日のG20会議で米国が「QE縮小を穏やかに注意深く行う意向」を示したことから、新興国からのマネー流出懸念は一旦後退しつつある。新興国危機の後退によって米金利の急騰が収まりつつあり、ドル相場もドル上がり過ぎの修正となっているのが今の相場である。

米10年国債金利(日足) 歴史的なノーマルレンジ(黄色)を逸脱する金利の急騰は一旦収束、しばらくレンジ相場に移行か?


(出所:石原順)

米金利の急上昇が一服したことから、対ドルでユーロ、ポンド、豪ドルなども買い戻し気味の相場となっている。強いトレンドが出ている訳ではなく、ユーロの上昇の原動力はユーロを売っていた投資家の買い戻しだ。

ユーロ/ドル(日足) 米金利連動相場

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

豪ドルは米金利と上海株次第

新興国からの資金流出と中国の景気後退懸念で売られていた豪ドルも、米金利急騰が止ったことと、上海株の落ち着きから横這い推移で落ち着いてきている。8月6日や9月3日のRBA理事会での追加利下げの有無が当面の焦点となりそうだが、豪州や中国の景気指標の悪化でも豪ドル安に反応しなくなってきている。

結局、今の豪ドル相場は米金利と上海株の動向次第だろう。豪ドルが7月安値で当面の底を打ったかどうかの判断はまだ出来ないが、投機筋は豪ドル/ドルが0.93米ドル、豪ドル/円が93円を上抜けることが出来れば、もう一段の買い戻し相場があってもおかしくないとみているようだ。

豪ドル/ドル(日足) 上海株連動相場

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足) 典型的なレンジ相場・抵抗となっている200日移動平均を上抜くことが出来るか?

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

上海総合指数(日足) 貸付金利自由化はシャドーバンキング問題の先送り?

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

ドル/円は米金利と日経平均に連動

ドル/円はADXや標準偏差の低下傾向が継続しており、典型的なレンジ調整相場となっている。相場に方向感がなく、トレーディング・ベースの短期売買が続いている。ファンド勢は7月8日高値101円52銭か7月11日安値98円22銭をブレイクしない限りは、大きな相場に発展しないと観ているようだ。

ドル/円が想像以上に底堅い動きとなっているのは、日経平均が堅調だからだ。海外投資家の焦点は「成長戦略の第二弾」に移っており、成長戦略が出てくるまではNYダウ次第の動きとなろう。

現在、ドル/円が買われる材料は米金利上昇か、日経平均の上昇しかない。しかし、日経平均もドル/円もテクニカル指標が上値の重さを示唆しており、高値を買い上がるような相場でないと思われる。レンジで日柄調整が必要な局面のようだ。

ドル/円(日足) 典型的な調整レンジ相場

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)・MACDの売買シグナル


(出所:石原順)

日経平均(日足) 買いトレンド消滅で調整相場に移行か…

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

NYダウ(日足) 出来高が薄いなかでのサマーラリーはいつまで続く?

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

次期FRB議長の最有力候補にサマーズが浮上

これまで次期FRB議長の本命はFRB副議長ジャネット・イエレン(66・民主党)であった。他の候補としてローレンス・サマーズハーバード大教授(58・民主党)、ティモシー・ガイトナーNY連銀総裁(50・民主党)、大穴候補としてロジャーファーガソン元FRB副議長(62・民主党)、スタンレー・フィッシャーイスラエル中銀総裁(69)、アラン・ブラインダープリンストン大教授(67・民主党)、アラン・クルーガー大統領経済諮問委員会委員長(52・民主党)、ジェレミー・スタインFRB理事(52・民主党)、マイケル・ブルームバーグNY市長(71・無党派)などの名前があがっていた。

誰もが「イエレンが本命」と思っていたが、オバマ政権関係者らの話からオバマ大統領がサマーズ起用を考えていることが明らかになってきた。サマーズも「FRB議長職に少なからぬ関心がある」とやる気をみせている。次期FRB議長候補はイエレンかサマーズの2人に絞られたようだ。

ワシントン・ポスト紙が7月23日に「サマーズ氏がイエレン現副議長をリード」と報道して以来、メディアの追随報道が続いている。ゴールドマン・サックスの予想では9月後半から10月にかけて新FRB議長が発表されるようだ。

サマーズは強烈なワンマンで失言が多い。クリントン政権のルービン~サマーズ時代を振り返ると、ルービン時代は良かったがサマーズ時代はメキシコ危機、アジア危機。ロシア危機といった危機の印象しかなく、筆者もサマーズには良い印象を持っていない。

ロイターのコラムでは「もしも私が崖っぷちで銃口を突き付けられ、米連邦準備理事会(FRB)の次期議長をラリー・サマーズ氏とティム・ガイトナー氏のうちから1人選べと迫られたら、崖から飛び降りるかもしれない」(「次期FRB議長、サマーズ氏かガイトナー氏なら悪夢に」7月19日ロイター)と揶揄されている。

これまで、「高金利で米国(ドル)への資金流入を誘い、ドル高傾向を促すことで資金流入による株高と債券高を狙う」という2期目のクリントン政権の政策を、2期目のオバマ政権もコピーしている可能性があると申し上げてきたが、サマーズが新FRB議長になれば、「強いドルは米国の国益」というクリントン2期目の政策をコピーするのはほぼ確実であろう。

ドル/円アナログチャート(1995年相場との比較)は、5月までの急激な円安から現在は穏やかな円安へと移行しているが、新FRB議長就任以降はよりドル高基調が鮮明になってくると思われる。

クリントン政権とオバマ政権のドルインデックス(月足)

1期目はドル安政策・2期目はドル高政策(1期目=黄色・2期目=緑色のゾーン)
(*ドルインデックス:ドルインデックス(US Doller Index)は、米ドルの総合的な価値を示す指標。下のチャートはニューヨーク商品取引所が算出しているドルインデックス)


(出所:石原順)

ドル/円(日足)のアナログチャート(2013年7月24日現在)

2013年相場は1995年相場との類似性がみられる。2012年9月からの上昇相場と95年4月からの上昇相場の比較(95年は4/18、2012年は9/13が起点・横軸は起点日からの経過日数)


(出所:石原順)