バーナンキ最後の証言は玉虫色

世界中が注目していたFRB議長の議会証言は、6月FOMC会見とほぼ同様の内容となりサプライズはなかった。「資産買い入れは経済・金融動向に左右される。それらは決して既定路線ではない」とややハト派的トーンで、「資産購入の見通し示さないとリスクが増大する恐れがある。市場はFRBの政策意図を理解し始めている」とQE縮小をマーケットにうまく織り込まれているという感触のようだ。

バーナンキFRB議長は「失業率は通常よりはるかに高い。5.2%から6.0%が通常」といいながらも、「FOMCでQE終了の目安として失業率7%を用いることに幅広い支持を得ている」と述べ、「失業率7%で量的緩和終了」となることを明確にした。

「FOMCは年末にかけて景気が上向くと予想する」と米国経済に対する自信を覗かせており、本音は余程の金融危機が発生しない限り、QE縮小(とりあえず月額850億ドルから750~650億ドル程度へ減額)を9月か12月に始めたいということだろう。

9月まで何をする?

議会証言を受けたファンド運用者の多くの反応は、「9月までどういう戦略でいこうか?」というものだった。最近の相場は「噂(思惑)で買って事実で売る」というより、「事実で買って事実で売る」という反応が多い。QE縮小の最短日程は9月であり、それまでどういう方針で対応するかをまだ決めあぐねているようである。

米国の出口観測が5月に浮上してドルの上昇を促したが、そのドル高はあくまで新興国中心のドル高であった。FTや日経新聞が報道しているように、新興国は米金利上昇による急激な資金流出を防ぐため介入で通貨防衛に動いている。経常赤字国は保有する米国債を売って自国通貨を買い支えているため、新興国の外貨準備は急減している。

ドル/ブラジルレアル(日足) ドル売り介入で通貨安も一服…

BRICSは人件費の高騰で苦境に…
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

新興国の外貨準備急減の影響で、米国の長期金利は5月の1.6%から7月の2.7%まで急上昇した。介入の影響で短期的に新興国通貨安は一服しており、米長期金利も短期的な上がりすぎの修正局面に移行しているように見える。

米10年国債金利(日足) 歴史的なノーマルレンジ(黄色)を逸脱、上がりすぎの修正局面に移行か?

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

一方で米金利がどんどん低下していくという展開も考えにくい。世界的な景気低迷の中で米国経済は比較的堅調だからだ。表面上の数字に過ぎないが、住宅関連の不良債権が銀行の帳簿からなくなり、雇用統計の数字も拡大している。米長期金利は中長期の上げ基調入っている可能性が大きい。

米金利がしばらく上がりすぎの修正でレンジ相場に移行するなら、ドル/円相場も基本的にレンジ相場で推移するだろう。そうした米金利市場の観測を反映して、ファンド勢のドル/円相場の見立ては、当面102円~95円のレンジ推移となっている。

日本や欧州の出口は遠く米国だけが出口に向っている現在、ドル高がどんどん進んでもおかしくはないが、その局面は米国のQE縮小が実際に開始される9月以降となるのではないか。より本格的な大ドル高相場への以降は失業率6.5%をターゲットとする米国の利上げ時期以降となるだろう。

相場の攪乱要因は日米の株価

「ドルの動きを説明できるのは米国の金利のみである」「ドルは米金利が各国金利に比べて相対的に高い時期に買われる」という金利要因から考えると、ドル高は当面穏やかに進みそうだが、相場の攪乱要因は日米の株価である。

NYダウは7月10日のバーナンキ講演が「ハト派」的と受け止められ、調整相場から息を吹き返しミニ・サマーラリー相場となっている。日本株の方は「長期政権は株高」との歴史的事実や小泉郵政選挙後の相場の連想から、「株高・円安」を期待する声が多い。

NYダウ(日足) 日本の異次元緩和で今後はQEなしに株価を上げることができる?

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

日経平均(日足) 安倍トレード復活なら目先のドル/円のレンジは日経平均が決める?

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

この日・米のサマーラリーがどこまで継続するのかはわからないが、日・米株高が続くようなら「安倍トレード(円売り・株買い)」の復活でドル/円は下値が堅くなるだろう。ただし、参議院選挙の結果を受けての円安は一時的なもので終る可能性もあり注意が必要だ。より重要なのは日・米の金利動向である。

テクニカル分析

ドル/円相場は日足・週足ともにトレンド指標(ADX・標準偏差)に明確な方向感がなく、レンジ調整相場となっている。ファンド勢のドル/円相場の見立ては当面102円~95円のレンジ推移と述べたが、目先は101円50銭~98円となっている。オプションボラティリティやアベレージトゥルーレンジ(ATR)の低下からそのような見方になっているようだ。通貨ファンドの円売り再開が言われているが、ファンドの主戦場は現在<1時間足>相場であり、腰の入った円売りは出ていない。基本的に回転売買相場である。

ドル/円の日足(左)と週足(右) レンジ調整相場

上段:ADX(14)・標準偏差ボラティリティ(26) 下段:ボリンジャーバンド(21)1シグマ(緑)


(出所:石原順)

ドル/円(日足)

上段:ストキャスティクス5.3.3
中段:21日ボリンジャーバンド
下段:20日ATR(赤)・オプションボラティリティ(青)


(出所:石原順)

ドル/円(日足) 支持・抵抗線


(出所:石原順)

ドル/円(1時間足)

上段:14時間ADX(赤)・26時間標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13時間移動平均線(赤)・21時間移動平均線(青)・21時間ボリンジャーバンド1σ(茶) 9時間RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ユーロ/ドルの日足相場も方向感を欠いている。三尊天井崩れが噂されているが、底堅い印象すら受ける。ECBが本格的な緩和に動き出すとしたら、それは9月のドイツの連邦議会選挙後にあるだろうとの観測が多い。ドイツの選挙が終れば、ECBが一段の緩和に動き出す「大義名分」として、ユーロ圏で債務懸念が出てくるのではないかと噂されている。

ユーロ/ドル(日足) 三尊パターンか?

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:トレンドライン


(出所:石原順)

基本的な円安方向に変わりなし

バーナンキFRB議長は昨日の質疑応答で、「円相場の変化は米製造業の競争力向上のトレンドを妨げるものではない。日本の国内経済の押し上げ目指した金融政策は適切である。日本と中国では為替政策が異なる。日本経済の回復は米国にも利益となる」と述べたが、4月4日の黒田日銀による異次元緩和でFRBの出口戦略を決定したと思われる。今後、新興国危機に伴う米国債の売却があった場合、その受け皿となるのが日本の緩和マネーである。

米国の出口とその補完装置であるアベノミクスは親和性が高く、米国はアベノミクスを支援するだろう。6月30日現在187兆円の日銀の総資産は2013年末に200兆円、2014年末には290兆円まで拡大していく。目先の相場は方向感を欠いているが、余程のことがない限り円が売られていく構造に変わりはないだろう。

日銀の総資産 6月30日現在187兆円 2014年末には290兆円まで拡大していく


(出所:石原順)