ドル/円はオプションの防戦売りが焦点に

G20で先進国から日本に対する円安誘導批判は出なかった。黒田日銀の量的緩和政策はバーナンキFRBと同じなのでロジック的に攻めようがないし、日本の量的緩和マネーは欧米の出口戦略に欠かせない政策である。米・欧は産業界の不満はあるものの、金融当局は日本の異次元緩和を歓迎しているのである。

G20を120点満点で通過した週明け22日の相場はマド空けで始まった。ここで100円を突破するかと思われたドル/円相場だが、100円をつけると困るオプション保有者の防戦売りで阻まれ、99円90銭レベルで円安は止まってしまった。

22日の東京時間の相場は99円80銭超で防戦のドル売りが出て、99円60銭レベルではその買い戻しが行なわれるという<ガンマ・プレイ>の応酬だったが、100億ドル規模の防戦売りが出ていたようだ。その後、24日に再び100円トライの動きが見られたが、この日も上値は99円75銭で抑えられた。近くて遠い100円に市場は辟易してしまったようだ。

ドル/円(1時間足) 22日のオプションの防戦売り相場(黄枠)

上段:14時間ADX(赤)・26時間標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21時間ボリンジャーバンド1シグマ(茶)


(出所:石原順)

目先、満期を迎えるオプションは本日25日と明日26日に集中しており、東京カット(午後3時)とNYカット(日本時間午後11時)のものが多いと言われている。投機筋はオプションのエクスパイアー(満期)までは100円を攻めても上値が重いとみている。「100円トライがあるとすれば、26日のNY時間から週明けの29日だろう」との声が多い。

オプションの攻防については店頭取引で実態もわからないのに、いろいろな噂やガセネタが飛び交っている。それらはあくまで憶測報道である。しかし、リスク許容度や資金量から察すると、オプションの防戦売りの主役は(この手の商いが好きな)中国勢ではないかともっぱらの噂だ。

ファンド勢は100円を挟んだ両面作戦へ

現在のドル/円相場は、

  1. オプションの防戦で99円後半~100円が重い
  2. 仮に相場が100円のトリガーをタッチすると、相場は101円半ばまでオーバーシュトする可能性がある

という環境にある。

仕方がないので、投機筋は現在、下のドル/円(日足)チャートの緑のゾーンで「レンジ売買」を行なっている。13日移動平均線を背に押し目を買って、オプションの防戦が出てくる手前の99円台の後半では利食ってしまうという戦法だ。

一方、ドル/円の100円は重そうだが、100円がつけば相場は100円~101円50銭の真空地帯を駆け上がる可能性がある。円売りポジションを持っていないと機会損失のリスクもあるので、ファンド勢は100円20銭レベルに逆指し値のドル買いを入れているようである。

100円の攻防を考えると、投資家は「近くて遠い100円を挟んだ両面作戦」で相場に対処するのが無難であろう。

ドル/円(日足) 支持・抵抗線 今週は緑のゾーンでレンジ売買

13日移動平均線(青)・21日移動平均線(赤)


(出所:石原順)

ドル/円(月足) フィボナッチのリトレースメントも一目均衡表雲の上限も100円近辺

100円~101円50銭までは真空地帯? (黄色のゾーン)


(出所:石原順)

実需の動き

4月23日に発表された日本生命の2013年度資産運用計画は、国債を中心とした国内債券の購入をこれまでより減らすものの、 外債投資もデフェンシブな内容だった。「ザ・セイホ」が外債投資を増やすという観測で、日銀の異次元緩和発表の4月4日以降世界中の国債が買われ利回りが下がるという現象が起こっていた。それだけ期待は大きかったのである。この日は生保の外債購入観測で前のめりに動いていた投機筋から「失望売り」が出たと言われている。

日本国債を買ってもインカムゲイン(金利)もキャピタルゲイン(売買益)もないので、日本の投資家は外債投資を増やさざるを得ないだろう。こうしたロジックから、「日本勢の外債買い」に対する期待感は失われていない。いずれにせよ、生保の実弾がでてくるのは毎年5月の連休明けからだ。

毎年5月のゴールデンウイーク前(今週の後半)から実需(輸出)の円買い注文が出てくる。実はオプションの防戦より、こうした実需の動きのほうが相場の重石になってくるのかも知れない。

「5月に売り抜けろ」(Sell In May And Go Away)

「5月に売り抜けろ」(Sell In May And Go Away)の季節が到来した。下の日経平均(日足)のチャートを見れば、「買うから上がる、上がるから買う」というバブル相場が展開されており、「5月に売り抜けろ」という雰囲気ではない。しかし、日経平均株価は100日間では戦後2番目の上昇率を記録している。注意すべきはこのスピード(買われすぎ)と、現在の株高はカネ余り相場に過ぎず、世界の景気が低迷しているということである。

日経平均(日足) 強い相場の定義である18日移動平均線+3%乖離の外での相場

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:18日移動平均3%乖離線(赤)


(出所:石原順)

日経平均の戦後62年間の月別変動では、株は10月末に買って4月末に売るのがベストとなっている。また、2000年代をみれば日経平均の年間高値の4回が4月であったことを考えると、4月は確率論から利食いの月である。毎年5月から10月の相場は難しい。レバレッジがかかったポジションを持っている投資家は、株やクロス円のポジションを利食うのも一考だろう。

豪ドル/円(月足) 10月買いの4月売り 青は成功の年、赤は失敗の年

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:18日移動平均3%乖離線(赤)


(出所:石原順)

2015年10月まで「ABE(アセット・バブル・エコノミー)相場」は続く?

筆者の知るファンドは、いったん株やクロス円の4月売り(利食い)を考えているところが多いが、日本株に対する長期的な見方は非常に強気である。

4月11日に「黒田バブルは福井バブルの再来か?」というレポートを書いたのでここでは繰り返さないが、「このバブル相場は2015年10月まで続く」という見方が多い。なぜ、2015年10月なのか? それは消費増税が10%になるのが、2015年10月だからだ。

今週、グローバルマクロ系のファンドと意見交換したが、アベノミクスが成功するには「財務省の虎の尾を踏まないこと」が必要だと言う。財務省の利権を侵害する行為、即ち、「消費増税を延期しない」「日銀に外債購入をさせない」を守っていれば、安倍政権はうまくいくだろうという見方だ。2015年10月の消費増税までに景気が腰折れしそうになれば、「追加緩和」や「追加の財政出動」が行なわれるに違いない。

一方、米国としては、なんとしても日本の国策バブル期間中に「出口」に向かいたい。塩川=溝口コンビで2003年初めから2004年にかけて35兆円規模の円売りドル買い介入が行なわれたが、この資金は全部米国債に化けて、日本は海外勢の米国債保有総額の4割を占める猛烈な米国債買いを行なった実績がある。アベノミクスで日本勢に米国債を買ってもらわないと、FRBは出口や資産売却に動けない。

財務省の増税と米国の出口という事情から、アベノミクスの政策は日米にとってウィンウィン・シチュエーション(お互いが得をする状況)なのである。だから、「ABE(アセット・バブル・エコノミー)相場は今後2~3年続いてもおかしくない」と海外勢は強気である。

日経平均(月足) 今回のバブル相場の賞味期限は2015年10月か…?

福井日銀による量的緩和期間(2003/3~2006/3)


(出所:石原順)