「財務省」と「安倍政権」の利害が一致

4月入って早々に本邦機関投資家の「新年度分の益出し」が出て、相場は株安・円高に振れた。「前期(3月)に益出しを抑えていた分を、新年度に出してきた」というサラリーマン的な一斉行動の動きである。また5月中間決算のヘッジファンドも45日ルールで利食いに動くなど、相場は高値波乱的な動きとなっている。

バーナンキFRB議長が「経済は春先に落ち込む傾向がある」と述べているように、米国の経済指標は季節調整のバイアスがあり、4~6月期の数字は弱めに出る傾向がある。特に過去3年間は「欧州で危機が4月に起こった」ことから、4月以降の経済指標は弱かった。過去3年間のトラウマから、4月に入り利食いが出てくるのは致し方ないだろう。

一方で「今年は過去3年とは違う」との声も多く、米・欧・日の緩和マネーでバブルが夏場まで続くとの声も多い。特に注目を集めているのは「日銀の歴史的な政策転換」だ。

財務省の悲願である2014年4月の消費増税は、「2013年4~6月期の数字」で決まる。また4~6月期の数字が悪ければ、参議院選挙を控える安倍政権には大きな打撃となる。「4~6月期の景気を良くする」ということでは、財務相と安倍政権の利害や思惑は一致している。4~6月相場は「なんでもあり」の日銀マネーが円安・株高を支える可能性が大きい。

3月20日発足の黒田日銀の緩和策に対して「織り込み済み」とか「材料出尽くし」とかいう観測が多く出ているが、筆者はブログ『日々の泡』に書いたように、「黒田日銀は意図的に期待値を下げているところがあり、4日の会合ではまずまずの緩和策を出してくるだろう」と考えている。財務官僚をなめてはいけない。彼らは政治的な能力や世論操作には長けているのである。

消費税や選挙の事情を考えると、「アベクロ連合」は4~6月期の大幅な円高や株安は容認できない。この時期に円高や株安になるようでは、アベノミクス頓挫の可能性が高まる。株価に敏感な安倍政権は、7月の選挙までは悪くても「横這い相場」を維持しようと動くに違いない。したがって、7月の参議院選挙までは「意図的な好景気」が演出されるだろう。

過去60年の循環と確率

とはいえ、筆者は「相場観」より「確率」を重視する。2011年までの過去62年間の検証では、「日経平均やNYダウのインデックスに半年程度投資するなら、10月末に買って4月末に売った場合のリターンが最も大きい」という結果が出ている。この確率を重視するなら、4月末は「利食いの時」だ。

筆者の独断と偏見で言えば、株が下がりやすい月というのは「5月」・「9月」・「10月」である。そこが逆張りの買い場となる(ただし、“半年間保有する場合”の「5月の買い」は9月・10月の下げ相場に巻き込まれてしまう)。

少し早いが、筆者の推奨してきた「クロス円相場の10月末買い4月末売り」を検証しておこう。2013年10月末に買った場合の4月4日AM10時現在の結果は、豪ドル/円が+14.45円、カナダ/円が+12.05円、ユーロ/円が+15.89円、南アランド/円が+0.87円となっている。株は日経平均が+3,226円、NYダウが+1,511ドルの上昇となった。今年は良好なパフォーマンスだが、この売買手法は「損益の大小に関係なく4月に手仕舞う」のがセオリーである。

日経平均(月足)と10月末買い4月末売り 2000年~2013年(赤は失敗の年)

昨年10月末から3,226円の上昇(4月4日 AM:10時 現在)


(出所:石原順)

NYダウ(月足)と10月末買い4月末売り 2000年~2013年(赤は失敗の年)

昨年10月末から1,511ドルの上昇(4月3日現在)


(出所:石原順)

豪ドル/円(月足)と10月末買い4月末売り 2000年~2013年(赤は失敗の年)

昨年10月末から14円45銭の上昇(4月4日 AM:10時 現在)


(出所:石原順)

カナダ/円(月足)と10月末買い4月末売り 2000年~2013年(赤は失敗の年)

昨年10月末から12円05銭の上昇(4月4日 AM:10時 現在)


(出所:石原順)

ユーロ/円(月足)と10月末買い4月末売り 2000年~2013年(赤は失敗の年)

昨年10月末から15円89銭の上昇(4月4日 AM:10時 現在)


(出所:石原順)

南アランド/円(月足)と10月末買い4月末売り 2000年~2013年(赤は失敗の年)

昨年10月末から87銭の上昇(4月4日 AM:10時 現在)


(出所:石原順)

株の循環を利用したクロス/円の売買は今月で終わりである。この手法での次の買い場は、今年の「10月末」である。

今後の投資スタンス

相場のボラティリティ・レベルが相当高く、相場は明確な方向感を失っている。ここからはしばらく短期勝負を主体とした売買戦略をメインとしたい。ドル/円(週足)のトレンド指標(14週ADX・26週標準偏差)はピークアウト感が出ており、ユーロ/円、豪ドル/円の週足も同様の状態となっている。

円高トレンドが出ているわけではないが、相場が乱高下の日柄調整相場に移行した確率は高い。ドル/円が3月12日高値96円70銭を上回るまでは、この見方は変わらない。

ドル/円(週足) トレンド指標はピークアウト?

上段:14週ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21週ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

豪ドル/円(週足) トレンド指標はピークアウト?

上段:14週ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21週ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

ユーロ/円(週足) トレンド指標はピークアウト?

上段:14週ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21週ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

日足チャートも調整相場を示唆している。目先は昨年9月からの上げ幅の23.6%押しである92円水準がサポートであり、上限は3月12日高値の96円70銭である。しばらくはこのレンジをコアとした調整相場となるだろう。

ドル/円(日足) 明確な方向感はない(4月4日 PM:3時 現在)

上段:標準偏差ボラティリティ 55日(緑)・26日(青)・13日(赤)
下段:フィボナッチのリトレースメント


(出所:石原順)

このレポートを書いている途中に、日銀金融政策決定会合の結果が飛び込んできた。黒田日銀はやはり積極的に動いてきた。意図的にバブルを起こすポジティブな内容だ。4~6月の景気を重視している証拠である。

2013年のドル/円相場は、やはり1995年相場とよく似ている。

ドル/円(日足)のアナログチャート(4月4日 PM:3時 現在)

2013年相場は1995年相場との類似性がみられる。
2012年9月からの上昇相場と95年4月からの上昇相場の比較(95年は4/18、2012年は9/13が起点・横軸は起点日からの経過日数)


(出所:石原順)