シカゴを取引の舞台としているファンドの動向を聞くと、これまでの円売りポジションの利食いに動いているところが多い。そして、利食いのあとはレンジ内での短期取引に徹している運用者がほとんどだと聞く。一昨日や昨日のドル/円相場で言えば、93円台の低いところを買って、93円50~70銭ではその日のうちに利食いに動いている。
通貨オプション市場ではボラティリティがピークを付けて下落中で、円売りの方向に偏っていたリスク・リバーサルの偏りがやや解消されている。また、シカゴIMMの投機筋の円売りポジションも減少中だ。投機筋が一旦利食いに動いているのは、「日銀総裁人事を待っている」からである。
ドル/円(日足)とオプション・ボラティリティ(赤)と支持抵抗線
移動平均リボン<1~3カ月の市場参加者のコスト>(水色)
2月12日時点のシカゴIMM 円のポジション
日本円は61,306枚の売り越し。売り越し幅は縮小傾向。
海外の投機筋が日本に期待しているのは「大胆な金融緩和」、即ち、「円安・株高」である。
アベノミクスの「3本の矢」は、
- 大胆な金融政策
- 機動的な財政政策
- 民間投資を喚起する成長戦略
であるが、「グローバル・マクロ」と呼ばれるヘッジファンドは②と③についてはあまり期待していないらしい。
本来、アベノミクスの一番の看板は③の「成長戦略」である。しかし、日本の事をよく知る運用者ほど、行革が行なわれていない日本で大胆な規制緩和を実行するのは難しいとみている。
「規制緩和というのは官僚の予算が減ることであり、予算を担保とする利権や裁量が減るような政策を官僚が推進するわけがない。また、日本は政府のバラマキ金や規制に守られている民間企業が多く、既得権を離すことには賛成しないだろう」とあるマクロ・ファンドの幹部は語っている。
②の「機動的な財政政策」にも限度がある。参議院選挙対策もあってか、今年度の補正予算は13兆円という大きな規模となった。しかし、来年度予算では財政規律重視の予算編成となっており、大規模な財政政策が打たれるとは投機筋も考えていない。GDPの2.5倍という巨額の財政赤字を抱える日本経済の命綱は低金利の日本国債であり、財務省が大規模な公共事業(借金)を許すはずがないのである。1990年代には130兆円もの公共事業が行なわれたが、日本経済が回復することはなかった。マンデルフレミングの法則で円高になったのと、借金が増えただけである。
こうなると、アベノミクスの中で一番実現性の髙いのが、①の「大胆な金融政策」である。金融政策は「カネがいらない」ので、最も手っ取り早い景気対策だ。政府と日銀がしっかりしたアコード(政策協定)を結んでくれたら誰が日銀総裁になっても同じだったが、「共同声明」という意見交換文書となったことで、次期日銀総裁の裁量の部分が大きくなっている。
市場が新日銀総裁を「デフレ脱却に積極的でない」とか「従来型の天下り人事」と受け取れば、短期的に相場が円高・株安に反応する可能性がある。投機筋が相場の上値を買えないのは、日銀人事への不安があるからだ。それでも参議院選挙まで相場はなんとか持ちこたえるだろう。しかし、現在調整している日経平均株価やドル/円が長期的に上昇していくかどうかは、安倍首相の決断と新総裁のやる気にかかっている。
日経平均株価(日足) 調整(レンジ)相場継続中
上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド0.6シグマ(緑)
日本の貿易収支は赤字傾向が続いており、実需の円高圧力は軽減されている。ECBの総資産はLTROの返済で減少している。昨日のFOMC議事録では複数の委員から「経済見通しやコスト評価に応じて資産購入のペースを変更すべき」との予想以上にタカ派な意見も出ており、このところFOMCは出口戦略を市場に徐々に折り込ませる作戦に出ている。米10年国債金利も2%を超えてきており、円安が進みやすい状況にある。新日銀人事の下での次元の違う金融政策に期待したい。
仮に日銀人事が市場の期待にそぐわない結果となった場合、ドル/円相場は95年相場に倣ってしばらくレンジ相場を継続するだろう。
ドル/円(日足)のアナログチャート 2013年相場は1995年相場との類似性がみられる
パターン的には調整相場に…ここからの相場は次期日銀総裁次第?
2012年9月からの上昇相場と95年4月からの上昇相場の比較(95年は4/18、2012年は9/13が起点・横軸は起点日からの経過日数)
日本の貿易収支(通関ベース 単位:10億円)
貿易赤字で実需の円高圧力は減少中
ECB(左)・FRB(右)の総資産(2005年1月~2013年2月)
単位 ECB:10億ユーロ・FRB:100万ドル
ECBやFRBの出口観測?で円安のチャンス!
米10年国債金利(日足) レンジ離れから2%乗せに…ドル高要因
上段:14日ADX(赤)・13日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:26日ボリンジャーバンド2シグマ(緑)
円相場は調整相場を継続中である。日銀人事が明らかになるまで、この傾向は変わらないだろう。ここから日米首脳会談、イタリアの選挙などのイベント、日本の3月決算動向(邦銀が米国債で損を抱えている)など神経質な相場が続くが、相場の大局を決定するイベントは24日以降に発表される日銀人事案である。それまでは短期的な売買に徹したい。下の日足チャートの黄色い部分が、筆者が複数の運用者にヒアリングしたレンジ相場の目安である。現在、通貨ファンドの多くが押し目を待っている(だからシカゴの円売りポジションが増えない)状況である。
ドル/円(日足) 調整(レンジ)相場継続中
上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)
ユーロ/円(日足) 調整(レンジ)相場継続中
上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)
豪ドル/円(日足) 調整(レンジ)相場継続中
上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)
ニュージーランド/円(日足) 最強通貨キューイも当局から牽制が…
上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)
ランド/円(日足) 悪材料にもしっかり? 調整(レンジ)相場へ…
上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)