昨日、電車の吊り広告を見ていたら、「安倍バブル完全対応マニュアル」の見出しが躍っていた。「金融政策と財政政策、成長戦略の3本の矢で、強い経済を取り戻す!」との安倍首相のアピールは、日本がヘタクソな海外へのアウトプットとしては例外的に機能し、海外のファンド勢は例外なく「ABE(アセット・バブル・エコノミー)」相場に参入している。

もともとマネーは単純なロジックでしか動かないが、米国人は特に単純なロジックを好む。彼らの頭の中は「ABE政権=円安→株高」という単純な構造になっているのだ。一方、日本勢は「ギリシャ問題」や「財政の崖」が心配で、円安・株高の序盤で「やれやれ」と手仕舞いをした人が多いようだ。

機関投資家や実需筋でもこの円安相場に乗れていない人が多い。「明確な円安相場なのに、なぜ相場に乗っていない!」と上司からどなられている運用者も多いようだ。某銀行の話によると、「輸入出企業は来年1~3月期の予約を78円後半から指し値しているが、全く予約が取れず、今日現在では84円50銭までビットが上がっている」との事である。

現在の円相場は「デフレからインフレへの政策転換相場」である。政策転換相場はすごい角度で相場が上がるから、なかなか押し目がない。海外ファンドの運用者の多くは、「1%の物価目標でもおぼつかない日本が、2%となるとある程度の期間は円安が続くだろう」とみており、この相場に乗らないリスクのほうに敏感になっている。

ドル/円(月足)と長期トレンドライン

デフレ政策からインフレ政策への転換で、1995年以来の円安誘導相場に…1月22日の日銀金融政策決定会合はどうなる?


(出所:石原順)

12月21日のレポートでゴールドマンのジム・オニール氏は「もし、日銀が、過去20年間に、インフレ目標2%を設定していたとしたら、米ドル/円の公正価格は136円であった」「ゴールドマン・サックスの米ドル/円の均衡点は104.6円」「日銀が2%のインフレ目標に真剣であるなら、今後1~2年で100~120円」と述べており、投機筋の欲望を刺激している。

一方、日本のメディアではあいかわらず相場の行き過ぎや(ハイパー?)インフレを心配する声が多い。しかし、日本のインフレを心配しているのは日本人だけある。海外ファンド筋の間では、「インフレを心配するのはドル/円が100円、10年国債が2%を超えてきてから」とにべもない。今は「日本売り」ではなく、「よい円安」の過程だと言うことだ。

12月23日にNHKが「日本国債」という番組をやっていたが、日本国債が史上最大のバブルであることは間違いないと考えられる。長期金利の上昇(による邦銀の評価損失)が懸念されているが、さりとて、イールドカーブが立たない(長短金利差のない)現状では、銀行のビジネスモデル自体が成り立たないのである。

では、どうやって日本の1,000兆円の借金を減らしていくかと言えば、

  1. GDP2%成長を30年複利で続けていく
  2. インフレで借金の実質価値を下げていく

という2つしかないのである。

「2%のインフレターゲット政策」は、インフレ政策の第1弾だ。筆者はアベノミクスの「公共投資」の部分については賛成しているわけではない。行革が行なわれていない日本で公共事業をやると、1990年代の繰り返しでザルに水を入れるような「死に金」になるからである。しかし、「アベノミクス」のような経済パッケージで景気刺激策を行なって経済を成長させなくては、消費税など中途半端な増税をしても埒があかないだろう。

日本がデフレ不況から抜け出すのは簡単なことではない。バーナンキのFRBが金融政策で従来の「テイラー・ルール」を放棄し「エバンス・ルール」を採用しているのは、日本のように一旦デフレに陥ってしまうと、失われた何十年になるからである。

オバマ政権の経済顧問ケネス・ロゴフは「バブル収穫期に必要なことは意図的にインフレを起こし、債務の価値を減らすことだ。6%程度のインフレが2~3年続くのが望ましい」と述べていたが、現在の米国はデフレ回避の為にインフレを狙っているのである。

日銀(中央銀行)のETFやリートを購入するという政策も驚きであったが、今度、日銀が新たに行なう貸出支援制度では、貸出増加額を算出する融資先として「ヘッジファンド」を加えている。円安誘導としては通常ありえない政策だろう。もう、なんでもありの世界に入っている。

今後、「アベノミクス」でも日本経済が立ちゆかないとなると、将来的には「マイナンバー制度(国民総背番号制度)が導入され、強制的に景気をよくする「貯蓄税」のような「禁じ手」が登場する可能性もあるだろう。「そんな無茶な政策が出来るのか?」という意見が多いが、「インフレターゲット」もつい最近まで日本では「禁じ手」だったのである。

「貯蓄税」はまだ噂に上がっているだけだが、「預金や貯金のような元本が保証されている金融資産に対してだけ課税する」というもので、株式投資や不動産投資、あるいは対外投資などには課税されない。しかも、少額の預貯金には課税せず、たとえば3,000万円を超える預貯金の部分に対してだけ課税するということで、老後の生活に必要な預貯金は除外されるという話である。

3,000万円以下の少額の預貯金しか持っていない一般庶民には課税されないので、消費税のような逆進性はない。また、多額の預貯金を持っている人は税金を取られるのが嫌なので、預貯金を取り崩して消費を増やしたり、株式や不動産に投資しようとするだろう。あるいは、非課税の外貨建ての資産や海外へ投資しようとする人も増えることになり、円安になって、日本の輸出も増える。

貯蓄税は景気を悪化させるどころか、経済活動が活発になって景気が良くなる可能性が大きいのである。一方、消費税増税の方は、国民の購買意欲を落とし、その結果、企業も儲からなくなって雇用も減る、というデフレを深刻化させる恐れが大きい。

この先、どうせ増税するなら、今の経済の悪循環を好循環に変える可能性を秘めた貯蓄税の方がよい、となる可能性があるだろう。また、大多数の一般庶民は非課税限度額以下の貯金しか持っておらず自分の懐は痛まないために、賛成に回る可能性が大きいのである。

話が脱線してしまった。相場の実践論に移ろう。

ドル/円相場に大きな変化が起こっている。リーマン・ショック後のドル/円相場は、毎年前年の円の高値を更新してきた。2012年はあと数日を残すのみだが、2011年の円の高値75円57銭を更新せず、2012年の円の高値は76円03銭で終わるだろう。リーマン・ショック後はドルの高値も毎年切り下がってきたが、昨日2011年のドル高値85円52銭を上回ったのである。上記の理由で、2011年の75円75銭および2012年の76円03銭でドル/円は数年周期の安値を付けたという認識が拡がっている。

ドル/円(月足)2007年~2012年 高値も安値も切り下げる循環からようやく離脱した

国策に売りなしか…


(出所:石原順)

円がらみの通貨ペアの中で、現在、最も安定的な相場推移となっているのはドル/円である。筆者は現在、豪ドル/円、カナダ/円、ユーロ/円、ランド/円、ノルウェークローネ/円などを手掛けているが、どの通貨も結局はドル/円の動き次第と言えよう。毎日、「買われすぎ相場」とか「過熱相場」とか言われているが、買いトレンドは買われすぎの先に発生する現象である。日足相場では相場が21日ボリンジャーバンド+1シグマの上で推移している限り、利をのばし放置しておくしかない。

ドル/円(日足) 円安トレンド相場継続中

上段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)
中段26日標準偏差ボラティリティ(緑)
下段:14日ADX(赤)


(出所:新楽天FX マーケットスピードFX)

ドル/円(週足) 円安トレンド相場継続中

上段:21週ボリンジャーバンド1シグマ(緑)
中段26週標準偏差ボラティリティ(緑)
下段:14週ADX(赤)


(出所:新楽天FX マーケットスピードFX)

ランド/円(日足) 円安トレンド相場継続中

上段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)
中段26日標準偏差ボラティリティ(緑)
下段:14日ADX(赤)


(出所:新楽天FX マーケットスピードFX)

ノルウェークローネ/円(日足) 円安トレンド相場継続中

上段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)
中段26日標準偏差ボラティリティ(緑)
下段:14日ADX(赤)


(出所:新楽天FX マーケットスピードFX)

カナダ/円(日足) 円安トレンド相場継続中

上段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)
中段26日標準偏差ボラティリティ(緑)
下段:14日ADX(赤)


(出所:新楽天FX マーケットスピードFX)

豪ドル/円(日足) 円安含みの調整相場

上段:21週ボリンジャーバンド1シグマ(緑)
中段26週標準偏差ボラティリティ(緑)
下段:14週ADX(赤)


(出所:新楽天FX マーケットスピードFX)