豪ドルという通貨はトレンド(方向性)の出にくい通貨である。トレンドフォロー(順張り)が機能しにくい通貨なので、通貨ファンドも「レンジ戦略」をとるところが多い。豪ドル/ドル相場は今年の8月以降レンジ相場が続いており、通貨ファンドも“相場が一定のレンジの中に入っていれば儲かる”「ショート・ストラングル」というオプションのポジションを組んで収益を上げてきた。

豪ドル/ドル(日足) 上値抵抗線(赤)を上抜け、黄色のレンジをブレイクする可能性が出てきた

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

ところが今週に入り、レンジ相場で儲ける戦略をとっていたファンドが一斉にオプション市場で手仕舞いを行なっている。トレンドが出にくい豪ドル/ドルだが、通貨ファンドの間では「上の相場(豪ドル高)になるかもしれない」とのレンジブレイク観測が出てきている。

豪ドル/ドル(日足) ここからトレンド指標(ADX・標準偏差)が上がってくれば面白い展開に…

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

通貨ファンドは11月以降、ドル/カナダに対してもレンジ相場で儲かるポジションを組んでいた。こちらもポジション解消の動きが出ており、今週からシカゴではカナダ買いに動いているファンドが増えている。

ドル/カナダ(日足) 今週から通貨ファンドはカナダ買いに動いている

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

仮に上記のような通貨ファンドの相場観や動きが正しければ、今後のクロス円相場で上昇相場が有望なのは、「豪ドル/円」と「カナダ/円」ということになる。この2つの通貨が「餅代稼ぎ銘柄」や「お年玉銘柄」に発展するのかどうか、興味深いところだ。

豪ドル/円もカナダ/円も「強いトレンド」相場は21日ボリンジャーバンド+1シグマの外側で展開される。これが筆者のトレンド相場の定義だが、相場が21日移動平均を維持している限りは大局的な円安トレンドは維持されるだろう。21日移動平均線をストップ・ポイントとして押し目買いを狙うのも良いだろう。

豪ドル/円(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

カナダ/円(日足) レンジブレイク相場はさらに発展するか?

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

ドル/円は昨日相場が21日ボリンジャーバンド+1シグマの内側に入ってきたが、NY市場の引値では+1シグマの外側に復帰した。利食いをするかしないかの分岐点にさしかかっていると考えられるが、NY市場の引値で+シグマの内側に入ればシステマティックに利食いを敢行したい。

ドル/円(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

筆者の周辺のファンドで、既にドル/円の利食いを入れたところは結構ある。しかし、運用者達は一様に「また円を売る」と言っている。週足ベースの円安トレンド相場に変化はなく、「円売りポジションを持たないリスク」も感じているという。安倍自民党を中心とした連立政権が誕生する限り、大局円売りの流れは変わらないとみているようだ。

ドル/円(週足)

上段:14週ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21週ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

日本では既得権を脅かされたくない人達が、安倍自民党総裁が主張する「大胆な金融緩和政策」に対して一斉に反論している。しかし、海外勢は「日本は大胆な金融緩和政策をやるだろう。金融政策はカネがかからないからだ。政治家は脅したりなだめたりしながら、日銀に緩和をやらせるだろう。今、中央銀行の資産が拡大しているのは日本だけだ」と、日本のマネタイゼーションの流れは変わらないと考えている。

「ここから円高になったとしても、それは円買いトレンド相場ではなく円安調整相場である。仮に21日移動平均線レベルや80円台までドル/円が下落すれば円を売りたい」という見方のファンド勢が多く、ドル円の下落は限られるのではないかと思われる。

日銀の総資産 2005年~2012年 ルビコン川を渡ることになるだろう

(データは11月11日まで)


(出所:石原順)

日本人の所得は下がる一方なのに、「税金」や「公共料金」は値上げばかりである。やはり、この国は何かがおかしい。既得権を持っている人にとっては円高・デフレは「天国」であるが、ミドルクラス(中間層)はどんどん没落していく。労働分配率を上げて給料を増やすか、円安で高コスト体質の是正をしないと、日本経済はガタガタになっていくだろう。

今年、日本が「消費税」増税路線に踏み出したとき、海外ファンドから以下のようなレポートが筆者のところに届いた。

『今後、大規模な増税が実施されるなら、景気を更に悪化させて日本経済のパイ(GDP)を縮小させ、ひいては個人金融資産などの国内の運用資金も減ることが予想されます。また、増税は政府が民間からお金を奪い取ることですから、経済が成長しない限り、少なくとも民間の余裕資金は減ります。更には、日本に対する不安が高まれば、資金を国外に出そうとするキャピタル・フライト(資金逃避)が大規模に起こることも予想されます。

したがって、日本国債を日本人だけで消化することができるタイムリミットは、長くてもあと5年から6年くらいしかないと考えておくべきではないでしょうか。日本国債の金利上昇が非常に心配されているのですが、日本銀行が2011年10月に公表した金融システムレポートによると、金利が1%上昇するだけで、銀行が保有している国債などの評価損は6兆円にも上ります。

こうした事態に陥ることを、日本の財務省も政治家も当然のことながら心配しています。それどころか恐怖に慄いていると言ってもいいでしょう。ですから、増税に血眼になっているのです。

消費税を5%上げたとしても、10兆円程度の税収増にしかすぎません。新規に発行しなければならない国債の4分の1から5分の1程度です。それよりも、むしろ消費税増税を強行すれば、景気を更に悪化させて逆効果になる恐れの方が強そうです。ですから国民が生活防衛のために消費支出を減らせば、税収増もわずかなものにしかなりません。

中途半端な増税をしても埒が明かないとなれば、通常ではありえないような政策が登場する可能性が高まってきます。その一つはインフレを誘導する政策です。

インフレになればモノの値段が上がりますが、借金の額は変わりませんから、相対的に借金が小さくなります。またインフレになると名目GDPが膨らみます。インフレを調整した実質GDPは増えなくても、税収は名目GDPに比例しますから、税収も増えます。中途半端なインフレでは借金の負担は大して減りませんが、1年で物価が倍以上になるようなハイパーインフレになれば、借金の負担を大きく減らすことができます。

かつての日本は第二次世界大戦で負けたあと、ハイパーインフレで借金をチャラにした歴史があります。ハイパーインフレだけではありません。さらに通常ではありえないような税制が出てくる可能性もあります。たとえば、預貯金に対して税金をかける「貯蓄税」のようなものです。』

デフレ不況が極まり、日本経済が「インフレ誘導」するしかないところまで追い詰められたと海外勢の一部は見ている。日本経済はにっちもさっちもいかなくなった。それが「アベノミクス」の背景にある。

歴史は繰り返す。とどのつまり、最後はインフレか…。