昨日、党首討論で野田佳彦首相が「今週16日に衆院を解散してもいい」と発言し、12月16日投開票という衆院選の日程が決まった。これを材料にマクロ系ファンドといわれる海外の投機筋は、「自民党を中心とした政権」の思惑から「安倍トレード」(円売り・株買い)に動いている。

過去、日本の政局で為替相場が大きく動いたことはないので、「安倍トレード」が成功するか否か疑心暗鬼の声が多い。しかし、海外の投機筋の間では「自民党を中心とした政権が樹立されれば、来年上半期に日経平均10,000円、ドル/円90円まで視界が拡がってくる」との予測が出てきている。

「日本株高・円安」の根拠としては、自民党の安倍総裁が「日銀法改正も視野にインフレ目標政策を導入する」という考えを持っており、日銀に対して「目標とする消費者物価の前年比上昇率3%を達成するまでは、基本的には無制限で金融緩和していくと発表していただく必要がある」と述べているからだ。安倍政権が出来ると「仮定」すれば、金融政策は「円安誘導」の政治的圧力がかかることは確かだろう。

また、自民党を中心とした政権が出来ると、「国土強靱化基本法案」を盾に10年間で総額200兆円のインフラ整備をおこない、公共投資による需要創出でデフレ脱却を図る方針となる。景気回復で消費増税にこぎつけたい財務省は、これを支援するだろう。無茶苦茶なバラマキをやりそうだ。財政出動(公共事業)をやり過ぎると、1990年代のように「マンデル・フレミングの法則」から円高に振れる可能性があるが、今のところ海外勢は「日本の景気回復+良い円安」のシナリオをメインとしているようだ。

上記の観測を受けて、ドル/円相場は急伸している。選挙を睨んだヘッジファンドの買いが入っている。14日ADX・26日標準偏差ボラティリティ(トレンド指標)の動きを見ると、典型的な「調整乱高下相場」(大きなレンジ相場)となっている。この状況に転機が訪れるとすれば、週足で一目均衡表の<雲>を上抜けてきた時であろう。ここが本当の円安相場への「号砲」となると思われる。

ドル/円(日足) ドル/円は9月で底打ち、戻り試しの周期にある

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)・13日移動平均線(緑)


(出所:石原順)

ドル/円(週足) <雲>を上抜くか?

一目均衡表の<雲>とMACDのシグナル


(出所:石原順)

以上は日本サイドの要因だが、気になるのは「米国の株安」である。オバマ米大統領再選後の米国市場で「株安・金利低下」の流れが続いているのは「財政の崖」の影響と報道されている。しかし、下げの本当の理由は「ヘッジファンドの動き」であろう。

NYダウ(日足) ファンドの米株売りが続いている

上段:フィボナッチのリトレースメントとギャンアングル
下段:9日RSI


(出所:石原順)

米国株の売りを先導しているのはアップルやグーグルといった「IT株の急落」であり、ファンドの持ち高が多いこれらの株が11月の決算期末に向けて「投げ売り」されている。また、米大統領選挙後はこれまで「押さえ込んでいた危機」が噴出しているので、運用成績の良くないファンドが「最後のひと稼ぎ」を狙って、動きの速い米株売りに動いている。

アップル(日足) 昨年10月、ジョブズがなくなってからの上げはバブルか?

上段:フィボナッチのリトレースメントと14日ADX
下段:9日RSI


(出所:石原順)

グーグル(日足) オシレーターは底値圏を示唆

上段:フィボナッチのリトレースメントと14日ADX
下段:9日RSI


(出所:石原順)

財政の崖は「先送りするか、規模を縮小するか」の妥協がどこで出てくるか?という問題である。政治問題なので「妥協が土壇場までいってしまう」ことが嫌気されている。しばらくは米国の崖の問題が警戒されることにはなるが、財政の崖は土壇場で回避される確率が高い。米国株安相場の主役はやはりファンドの「投げ」であろう。

それでは、米国株のファンドの「売り仕掛け」や「投げ売り」はいつまで続くのだろうか? それはファンドの決算日程を考えると、休暇シーズンの始まりである11月22日の感謝祭(Thanksgiving Day)あたりで終息する可能性が大きい。其処までに底入れするかどうかが、NY市場の注目点となっている。

米国株が底入れしないと、「消去法投資」の王様である豪ドル/円も上値が限定的となる。こちらも現在はドル/円同様に調整相場となっているが、直近は下値を切り上げる動きとなっており、相場はしっかりしている。米国株が底入れすれば、上値トライも期待できるだろう。

豪ドル/円(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)・13日移動平均線(緑)


(出所:石原順)

先週、「クロス円取引者はユーロの動きに要注意!」というレポートを書いたが、その後ユーロ/ドルは軟調な展開となり、クロス円相場の頭を押さえていた。しかし、ユーロの下げを先導していたユーロ/豪ドルのトレンド相場は昨日で一旦終了している。ユーロ安相場にも変化が出てきているのかもしれない。

市場は「米株安でリスク回避のムード」に包まれているが、感謝祭からクリスマスの休暇シーズンで流れが変わる可能性がある。米感謝祭を境に米国株が反転すれば、「円全面安」のシグナルとなるだろう。ここから感謝祭までの市場の動きを注視したい。

ユーロ/豪ドル(日足) ユーロ売りトレンドは昨日で終了

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)・13日移動平均線(緑)


(出所:石原順)

ユーロ/ドル(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)・13日移動平均線(緑)


(出所:石原順)