QE3の裏事情と米大統領選挙

先週のQE3発動はFRBの四半期経済予測とも整合性がなく、FRBと市場との対話という意味においても不透明感が残る決定だったとするエコノミストが多い。オープンエンド(無期限)型のQEについても前回のFOMC 議事録に記載がなく唐突な印象を受ける。

商品価格上昇懸念と株高のなかでバーナンキFRB議長がQE3を発動したのは、9月FOMCが追加緩和の「最後のチャンス」だったからだと言われている。仮に11月6日の大統領選挙で共和党のロムニーが勝てば、ロムニーはバーナンキ議長を再指名しない。ロムニーは、ハーバード大学経済学部教授のグレッグ・マンキューか、ブッシュ減税を推進したコロンビア大学経営大学院学長のグレン・ハバードをFRB議長に指名する予定だ。

大統領選挙までの日程を考えると、バーナンキFRB議長としては9月か10月のFOMCがQE3の機会となるわけだが、嘘か誠か「次回10月5日の雇用統計は12万人くらいの数字が出る」という観測になっていた。そうなると、「雇用の悪化を大義名分」にQE3をやるのは9月13日のFOMCしかなかったということである。

QE3の目的は(露骨な選挙対策と揶揄する声もあるが)、「住宅PKOとドル安誘導」である。住宅PKOは政府債務と金融機関の不良債権対策である。QE3で雇用が回復するかは疑問だが、「ドル安」は米景気を押し上げる可能性があるだろう。

今回のFOMCの声明は「景気がよくなってもFRBは金利をすぐには引き上げない。インフレがかなり高い水準になっても低金利を維持する」というバーナンキFRB議長の気迫が伝わってくる。

あるファンドの調査部長は、「インフレ期待が高まれば、住宅市場は押し上げられるし、ドル安でアメリカの輸出は優位となる。もう、2~3年経てば中国ではなく米国が世界の生産拠点となる可能性もあるだろう。いずれにせよ、バーナンキは日本化阻止のため、確信犯的にインフレを起こそうとしている」と語っている。

NYダウ(週足)と米国の金融政策 早くもQE4観測が浮上

QE3は「危機対策」でなく、インフレ期待の醸成と資産価格の「押し上げ対策」となった


(出所:石原順)

オバマ大統領が「11月6日の大統領選挙までは欧州で危機を起こしてくれるな」と欧州首脳に懇願しているので、今のところファンドの多くは「2012年11月6日の大統領選挙までは基本的にリスク商品の“押し目買い”でいこう」という姿勢のようだ。

エコノミストやアナリストの多くが「ツイストオペ」が終了する12月以降に「QE4」が行なわれると予想しており、バーナンキ・プット相場は健在だ。ただし、世界的な景気減速の中で、「あぶく銭によるバブル相場」をやっているだけである。量的緩和は世界経済の問題をすべて片付けるような「万能薬」ではなく、「時間稼ぎ対策」に過ぎない。「上値追い」には慎重にならざるを得ないだろう。

「無制限」 vs 「10兆円」

ECBとFRBの無制限緩和を受けて、昨日9月19日の日銀金融政策決定会合では10兆円の資産買い入れ増額が発表された。事前予想では「追加緩和見送り」の予想が多くサプライズから東京時間では円安が進んだが、「無制限」vs「10兆円」の比較感から1日持たず海外市場では円が買い戻されることとなった。

日本経済研究センターの分析では、「日本経済の分岐点(今の日本経済の実力で耐えられる為替レート)は80円~85円」との結果が出ている。80円以上の円安が持続しないと、景気も良くならないし日本株も上がらないということだ。

日本全体のシャッター商店街化が進むなか、これまでのザルに水を入れるような「泥縄的な予定調和の緩和」ではなく、円高・デフレ脱却に向けた「本気の緩和」をやらないと日本経済は深刻な事態に陥るだろう。今のデフレ状況では日本ではビジネスが成り立たない。世界的に見て異常な超円高と割高な不動産価格のせいで、日本人の可処分所得は年々減少している。

米国、中国、ドイツ、韓国、スイスなどが通貨安の恩恵を享受している中、日本円だけが超円高水準に張り付いている。英FT紙に「日本円は紙幣増刷に消極的な中央銀行が裏付ける数少ない主要通貨」と揶揄されているように通貨主権放棄の状態にある。日銀がデフレ脱却まで「無制限」に緩和するくらいの宣言をしないとインフレ期待が醸成されず、だらだらとした円高が続くことになる。

為替市場のテクニカル分析

ドル/円

ドル/円は今年の2~3月期の円安トレンド相場の後は凪相場となってしまい、不人気通貨となっている。相場は拡大と収縮と平均回帰を繰り返すが、そこには「限度」と「リズム」がある。

ドル/円相場の動きを日足でみると、概ね相場は13日移動平均線の±3%乖離が運動範囲となっている。そして、「21日ボリンジャーバンドの±2シグマのライン」と「13日移動平均線の±3%乖離のライン」が近い位置で動いている時が「トレンド相場」である。

ドル/円相場はこの2つのライン(21日ボリンジャーバンドの±2シグマのラインと13日移動平均線の±3%乖離のライン)が現在離れており、レンジの範疇にある相場と認識することが出来る。レンジ相場なので、21日ボリンジャーバンドの±2シグマのライン内(黄色の部分)で往来相場を繰り返している。この2つのテクニカル指標はレンジ相場で稼ぐヒントとなるだろう。

ドル/円(日足) 21日ボリンジャーバンドの±2シグマのラインと13日移動平均線の±3%乖離のラインが近い位置で動いている時が「トレンド相場」、離れている時は「レンジ相場」?

21日ボリンジャーバンド±2シグマ(赤)・13日移動平均線±3%乖離バンド(青)


(出所:石原順)

豪ドル/円

豪ドル/円も7月以降はドル/円と類似したレンジ往来相場となっている。21日ボリンジャーバンドの±2シグマのラインと13日移動平均線の±3%乖離のラインが現在離れており、トレンド(相場の方向性)は出ていない。200日移動平均線(緑)がずっと横這いで推移しており、トレンドが発生しないで(赤と青のラインが離れていて)相場がボリンジャーバンド-2シグマに到達したときが大きな買い場となっている。

豪ドル/円(日足) 21日21日ボリンジャーバンドの±2シグマのラインと13日移動平均線の±3%乖離のラインが近い位置で動いている時が「トレンド相場」、離れている時は「レンジ相場」?

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンドの±2シグマ(赤)・13日移動平均線の±3%乖離(青)
下段:ストキャスティクス5・3・3(赤)


(出所:石原順)

ユーロ/ドル・ユーロ/円

ユーロ/ドルとユーロ/円はトレンド相場が続いていたが、ユーロ/ドルは先週の大暴走相場で日足相場の限界的な指標である「13日移動平均線+3%乖離ライン」にタッチした。現在、その水準からの調整(利益確定売り)が続いているようだ。ユーロ/ドルは9月20日14時現在+1シグマのラインは1.2973付近、ユーロ/円は101円58銭付近を走っている。相場が21日ボリンジャーバンド+1シグマの内側に入ればユーロ買いポジションを手仕舞いたい。

ユーロ/ドル(日足) そろそろ調整相場に移行か…

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)・13日移動平均線の±3%乖離(青)


(出所:石原順)

ユーロ/円(日足) 2012年はトレンド相場の連続に…

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)・13日移動平均線の±3%乖離(青)


(出所:石原順)