2012年の世界のマネーの動きを振り返ってみよう。欧州の債務危機の影響が世界に拡がる中で、2012年3月から運用者は景気悪化を読んで「債券買いと株売り」を継続してきた。マイナス金利が出現するほどリスク回避の債券買いは過熱したが、その反動から債券の標準偏差が上がる(相場が荒れる)8月相場を前に、これまで積み上がった「債券買いと株売り」のポジションをひっくり返してきた。それが8月の「債券売り+株買い」相場である。

債券の「鬼門」が8月なら株の「鬼門」は9月である。9月は一般的に「月間パフォーマンスが1番悪い月」という印象があり、海外では「節税対策の売り」が出る月である。夏休み明けの投資家が戻ってくると言う期待もあるが、筆者の長年の実感では8月~9月の閑散相場から出来高を伴った実態のある相場に復帰するのは概ね10月である。

9月に入っての相場は、「株の鬼門である9月はポジションを軽くしておこう」というファンド勢の意識が反映されている。「不景気の株高(カネ余り相場)」というわけのわからない金融相場で“今年の高値圏に到達した” NYダウを見れば、「一旦、利食っておこう」と考えるのが普通である。「株の手仕舞い」主導相場のなかで、ファンド勢の一部には再び<株売り>や<債券買い+株売り>のポジションを作る動きも散見される。ただし、資金の逃げ足は速い。

NYダウ(日足)とMACDのシグナル


(出所:石原順)

下のグラフを見れば明確なように、世界の製造業の景気減速は鮮明となっており、ISMが9月4日に発表した8月の米国製造業部門景気指数は49.6と約3年ぶりの低水準だった。世界的に不景気風や臆病風の吹いている中で、株の上値を買い上がる投資家はいない。だから「皆が押し目を待っている」のが今の相場で、それが結果的に閑散相場の原因となっている。

主要国の製造業景況感指数 (2008年1月~2012年8月)

景気の減速が鮮明となり、QE3は近い? 米・中ともに景気判断の分かれ目となる50を下回っている


(出所:石原順)

上記の「9月相場の前提」が覆されるとすれば、それはECB・FRB・BOJといった中央銀行の追加緩和であろう。本日のECB理事会や9月13日のFOMC、FOMCの材料となる9月7日の米雇用統計はその意味で大変重要なイベントであるが、結果が出る前にあれこれ憶測しても仕方がないだろう。今後の金融イベントについては先週のレポートに書いたので、ここでは繰り返さない。結論は「組織化された無責任集団?である中央銀行は、追い込まれればなんでもやる」ということである。

為替市場は8月23日および先週のレポートでも取り上げた「ユーロ・キャリートレード」の手仕舞いが大相場となっている。大相場になったのは「ユーロ・キャリートレード」の指標銘柄である「ユーロ/豪ドル」と「ユーロ/ニュージーランド」である。主要通貨の変動が限られる中、通貨ファンドからは非常に注目されている通貨ペアである。ユーロ/豪ドルは6月~8月まで「ユーロ売り+豪ドル買い」の大相場を演じた後、8月中旬以降は一転「ユーロ買い+豪ドル売り」の大相場となっている。

ユーロ/豪ドル(日足) 5月から大相場の連続に…

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

ユーロ/ニュージーランド(日足) 1シグマの外での大相場が続いている

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

ユーロ/豪ドルの急騰は、ユーロの買い戻しと豪ドルの下落によって起きた現象であるが、ユーロ/豪ドルは半値戻し、ユーロ/ドルは38.2%戻しに到達しており、今後は相場の反転にも注意が必要だろう。

ユーロ/ドル(日足) シカゴ筋のユーロショートはピークから半減し、ユーロ/ドルは38.2%戻しを達成 買い戻しはいつまで続く?

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)


(出所:石原順)

豪ドル/円は周期的な相場の底値圏である9日RSI(鈍感バージョン)の20近辺まで下がってきた。豪ドルの下落については、中国の景気減速や鉄鉱石市況の悪化が原因とされているが、それは相場に参加していない人の解説である。豪ドル/円相場は中国株や鉄鉱石の相場とは全然連動していない。このレポートでも繰り返し述べているように、豪ドル/円はNYダウと連動しているのである。それは下のチャートを見れば明らかであろう。

豪ドル/円(左)・NYダウ(中央)・上海株(右)の日足

豪ドル/円はNYダウと連動、中国株との相関関係は小さい


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足) 現在、「売りシグナル」点灯中 9日RSIは20近辺まで下落

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(緑)・エンベロープ13日3%(紫)
下段:9日RSI鈍感バージョン


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足)の変動範囲は概ね「13日移動平均線の±3%乖離」である。9月6日現在、78円80銭まで下落するリスクを内包している。経験的に言えば、「日計りトレード」では9日RSIの20近辺での豪ドル/円の押し目買いはワークすることが多い。しかし、現在の豪ドル/円は「売りシグナル」が点灯中で、豪ドル売りの象徴であるユーロ/豪ドル相場もまだ反転していない。逆張りの「豪ドル買い+円売り」をするなら、ストップ・ロスをタイトにするべきだ。

豪ドル/円が米国株連動であることを考えると、豪ドル/円の大きな買い場は「確率的には10月末がベスト」と言うことになろう。過去、62年間の経験則では、米株や日本株上がり始めるのは10月という月別変動パターンが見て取れる。

日経平均のNYダウを半年運用した場合のリターン 株を買うなら10月がベスト?


(出所:日本経済研究センター、『日本株転機のシグナル』)

筆者の手元には、ECBやFOMCの予測レポート、あるいは9月という季節柄か、「この秋、金融危機が起こる」といった類のレポートが山のように届いている。どれも「読み物」としては面白い。しかし、未来は予測通りに動かない。それどころか、予測の為に相場が反対の動きになることも多い。相場で一番大事なのは「価格」である。結果が出てから相場についていくのが一番良い。

シカゴ大学のフランク・ナイトの「リスク」と「不確実性」は違うという理論に金融機関が飛びついて、2000年以降の金融界はリスクをコントロールできるような気分に陥っていた。その結果がリーマンショックや欧州債務危機だ。

「確率分布」を思い描けるのが「リスク」でそうでないものを「不確実性」と呼ぶらしい。 しかし、「リスク」も「不確実性」も筆者にとっては同じである。筆者が体験してきた非情な教えに従えば、リスク回避は「ストップ・ロスをかならず事前に設定しておく」ことしかない。ストップ・ロスさえ置いておけば、相場に果敢に挑むことが出来る。なぜなら、ストップ・ロスとはあらかじめ許容された損失だからだ。

9月から10月の相場は材料が目白押しだ。日々の相場動向はブログ『日々の泡』を参照されたい。