相場に絶対の法則はない。相場を正確に予測することは誰も出来ない。筆者も四半世紀にわたり相場と関わってきたが、投資の世界はつきつめてやりだすと、終わりの見えないことばかりなのである。それでも相場とは一体何かと言うと、それは「確率に賭けるゲーム」であろう。筆者が心がけていることは、勝つ確率の高い(分の良い)時期(時間帯)に投資を行うということである。

筆者は基本的に「相場についていく」というトレンド・フォロー型の運用者であり、逆張りはあまり好きではない。しかし、「いくつかの逆張り手法」には信頼を置いている。今回は「投資の王道」と思われる長期(半年)投資の基本形を紹介したい。

筆者はこれまでレポートやセミナーなどで、「確率論でいうと、ドル/円は第四四半期のドル安値を拾って、翌年第一四半期の高値で売却するのがよい」と述べてきた。

ドル/円(月足) ドル/円は4Q買いの1Q売りは成功率が高い?


(出所:石原順)

上記の運用手法のモデルとなっているのは、「日経平均の180日ルール」である。日本株と米国株は秋から冬の安値を拾って5月までに売却するのが最も効率がよい。「統計的に見ると、株を買うのは10月末がベスト」なのである。

「180日ルール」の詳細を分析した本が今月出版された。日本経済研究センターの前田昌孝氏の書かれた『日本株転機のシグナル』(日本経済新聞出版社)という本である。少しだけ抜粋を許してもらおう。

『1949年に戦後の株式市場が再開されて以来、62年間の経験則で「上がり始めるのは10月」という月別変動パターンが見て取れる』『年初から4月末に掛けて5.8%値上がりし、4月末から10月末に掛けては1.9%の上昇にとどまり、10月末から年末に掛けて2.9%値上がりするというのが、2011年までの62年間の平均パターン』『「日経平均」という会社があったとして、半年間の投資をするならば、10月末に買った場合のリターンが最も大きい』

日経平均とNYダウの月別推移と「半年間」運用した場合の運用開始月別のリターン(戦後62年間の平均)=「180日ルール」


(出所:『日本株転機のシグナル』)

『日本株転機のシグナル』という本は他にも「投資のヒント」が盛り沢山だが、最もシンプルなヒントは「半年間の投資をする場合、株は10月末に買って4月末までに売り抜けるのがよい」ということである。筆者はこれを円相場にも応用しているが、もちろん相場に絶対はない。うまくいかない年もある。しかし、統計的手法で確率的に分の良い時期を知っているだけでも、投資家は市場に対してある程度の優位性を持つことが出来るだろう。

日経平均株価(月足)2000年~2012年 4Q(水色)・1Q(緑色)


(出所:石原順)

NYダウ(月足)2000年~2012年 4Q(水色)・1Q(緑色)


(出所:石原順)

ドル/円(月足)2000年~2012年 4Q(水色)・1Q(緑色)


(出所:石原順)

為替市場はユーロ/円が2000年以来の11年ぶり安値水準に下落するなど、日本の当局の円高・デフレ政策によって「自業自得の円高」を招いている。この為替水準だと日本の空洞化は止まらない。輸出企業のコメントからは、「日本の輸出企業がいくら円高に耐えてもどうしようもないレート」になっていることがわかる。

過去40年にも及ぶ円高で、「日本国内では貧困ライン上の給料でも国際的には賃金が高い」という、極めていびつな構造になってしまっている。地価や電気代などの公共料金、あるいは距離で比較すればガソリン代の倍もする高速料金なども、海外から見れば異常な高さである。それでも、日本の当局は円高・デフレ政策を続けている。ドルからみてもユーロからみても日本円は異常に高い。海外の企業が日本に進出する気になれないのも当然だろう。

筆者は「日本の高コスト体質」の是正は「円安」で調整するしかないと思っているが、とりあえず日本の景気を良くするためには、給料を上げるしかない。日本の労働者は可処分所得が少なすぎるのだ。企業も労働分配率をもっと上げて、内需をもっと盛り上げる必要がある。大幅賃上げと増配で株価を上げたら、日本の景気は良くなる。

ユーロ/円(日足) 日本株が上がる条件は円安、日経平均株価はユーロ/円と連動

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

泥棒が入ってきてから縄を買いに行っても遅いのだが、円高で追い込まれた日本の当局も「Too little too late」の小出し緩和や、円売り介入を行うことになるのだろう。しかし、海外のファンドは概ね「日銀総裁は日本国債の金利上昇のほうを危惧している」という見方であり、日本は「デフレ=国債PKO政策」を維持しているので、市場の円高バイアスは変わらないと言っている。「ユーロ/円では介入をする気はない」とみている海外勢は、ドル/円の防衛水準は76円を想定している。したがって、ドル/円の77円台からは円売り・ドル買い介入の警戒感は高まるだろう。

ドル/円(日足)

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

今回の円高で相場が走っているのは「ユーロ/円」と下のチャートの「スイス/円」である。豪ドル、カナダをはじめとするアングロ・サクソン通貨では、それほど円高が進んでいないのが今回の円高特徴である。

スイス/円(日足)

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足)

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ユーロ/ドルは下げが投機筋のターゲット1.20水準にほぼ到達したため、買い戻しが出ている。心理的抵抗ポイントである1.2000は一回のトライでは下抜けないとの見方も多く、利食い優先の動きだ。先週のレポートで取り上げた「ユーロ・キャリートレード」の通貨ペアもトレンドがくたびれてきている。「とりあえず、いいところまでやった」という感触であろう。日々の相場の動きはブログ『日々の泡』を参照されたい。

ユーロ/ドル(日足)

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ユーロ/豪ドル(日足)

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ユーロ/ニュージーランド(日足)

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

8月は「円高バイアス」の強い月である。今年の焦点は日本の円売り介入があるかどうかだ。欧州もスペイン情勢で大分追い込まれているので、9月を待たず対策を打つ可能性がある。
ECBの利下げ観測やFRBのQE3観測など市場は相変わらず騒がしいが、8月・9月の欧米の金融政策会合には注意を要する。現在、世界最大のヘッジファンドはECBとFRBである。