欧州危機の影響が世界経済に影を落とし、世界経済総崩れの懸念と相場の不確実性が高まっている。このような環境で銀行や年金などの保守的なマネーは、米・日・独の国債市場に滞留し続けている。国債の金利が下がっているということは、銀行がカネを貸さないということの裏返しである。銀行がカネを貸さないので、世界景気が減速し不景気色が強まるのは当然である。これは「日本化(JAPANIZATION)」と呼ばれている。

日本10年国債金利(左)と米国10年国債金利(右)の日足

10年持ってこの金利? カネ余りと運用難の象徴


(出所:石原順)

不景気に対処するために、各国の中央銀行は一斉に金融緩和モードとなっている。問題は米国である。今週のバーナンキFRB議長の議会証言では、市場が期待するQE3は少なくとも9月13日のFOMCまでは温存されるという見方が強まった。バーナンキFRB議長米国株の位置がまだ高いので、秋口まで追加緩和は温存するつもりのようだ。

NYダウ(週足)と米国の金融緩和 QE3には株安が必要?


(出所:石原順)

米国がQE3に踏み切らないうちは、相場が上がってもミニ・バブルで終わるだろう。ただし、「米国株が下がればQE3は必ず行われる」という“バーナンキ・プット”を市場は確信しているので、米国株の下値はしっかりしている。米国株が下がっても、ドルが下がっても、ダメージを受けにくい体質となっている米国経済は懐が深い。

一方、さえないのは新興国である。下のチャートをみると、先進国の株価に較べて新興国の株価が弱い。安いウォンによって日本の家電産業を駆逐した韓国も、現在は債務デフレに見舞われており、IMFによる経済見通しも発表の度に悪化している。世界経済が不景気になると、「輸出主導」の底の浅い新興国経済は大きなダメージを受ける。7月はミニ・バブル相場と申し上げてきたが、それは先進国の話である。日本株もその範疇に入るが、日銀のデフレ政策による円高が株価の重石となっている。

独DAX指数(左)と米S&P500(右)の日足


(出所:石原順)

ブラジルボベスパ指数(左)と上海総合指数(右)の日足


(出所:石原順)

韓国KOSPI指数(左)と日経平均株価(右)の日足


(出所:石原順)

「投資先がない」「やるものがない」と、株の運用者の愚痴が増えているが、株の運用者は基本的に「10月に買って3月に売る」という季節労働者なので、5月から10月は暇なのである。

先物や通貨のファンドマネーはゲリラ戦ではあるが、それなりに動いている。「やるものがない」なかで、ファンド勢の格好のターゲットになったのが穀物市場である。米国の干ばつを理由(材料などなんでもよい)に、一攫千金を狙う投機マネーが集中している。景気悪化とQE3後ズレの影響を受けて保合となっているゴールドと較べると、穀物市場は異常といってよい上がり方だ。小さな市場にマネーが入りすぎると、このような「局地バブル」に発展する。

コーン先物(左)と大豆先物(右)の日足 火柱高相場


(出所:石原順)

小麦先物(左)とゴールド先物(右)の日足 ゴールドは三角保合


(出所:石原順)

為替市場で「局地バブル」となっているのが、ユーロ/豪ドルである。ブログやレポートで何度か取り上げているが、「ユーロ・キャリートレード」の象徴は、ユーロ/豪ドルという通貨ペアである。「ユーロ・キャリートレード」という言葉が跋扈しているように、ユーロは調達通貨となっている。現在、ほとんどのファンドが「ユーロを売って、何かを買う」という取引を行っている。

6月以降のユーロ/豪ドル相場は、21日ボリンジャーバンド-1シグマの外での推移がずっと続いており、まさに電車道相場となっている。「ユーロ売り・高金利通貨買い」という意味ではユーロ/ニュージーランドもトレンドが出ていたが、こちらは7月に入り標準偏差ボラティリティがピークアウトしており、相場が-1シグマの内側に入ればトレンドは消滅するだろう。ユーロ/豪ドルの売りを作るには、豪ドル/ドル(円)を買って、ユーロ/ドル(円)を売ればよい。ユーロ/豪ドルの買いはその逆である。

ユーロ/豪ドル(日足) ユーロ売り・豪ドル買いが続く -1シグマの外での電車道相場

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ユーロ/ニュージーランド(日足) 標準偏差ボラティリティのピークアウトで、そろそろトレンド相場も終わりか?

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ユーロ/ドルの方は先週後半から下値を攻め切れなくなっており、相場は21日ボリンジャーバンド-1シグマの内側に入ってしまった。最近のユーロ/ドル相場は、悪材料でユーロが売られてもLONDON FIXのNY市場序盤までで、米国株の値上がりによってNYクローズではユーロは買い戻されてしまう。相場の潮目が変わった可能性があり、突っ込み売りは危険と言えよう。

ユーロ/ドル(日足) 調整相場に移行か? それとも……

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

「ミセスワタナベ」を象徴する通貨である豪ドル/円(日足)は、標準偏差ボラティリティとADXが共に低下傾向にあり、典型的な調整(レンジ)相場となっている。これは豪ドル/ドル(日足)も同様であるが、ボラティリティ・レベルの調整はいいところまで進んでおり、次のトレンドを待ちたい。

豪ドル/円(日足) 典型的な調整相場

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

失われた4カ月相場となっているドル/円に少し動意が見られる。日銀の偽造小出し緩和を見限った一部の投機筋が、介入ゾーンを試す動きに出ているためと思われる。「付利金利の引き下げは考えてない」「遠からず物価1%を達する可能性が高い」という日銀総裁のコメントは、海外勢から見れば従来のデフレターゲットに戻った(もともと何も変わっていない)と聞こえるらしい。ドル/円は「介入警戒感」で円高のスピードはのろくなっているが、一目均衡表週足<雲>の下限くらいは試す可能性がある。

ドル/円(日足) 円高トレンドに発展するか?

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ドル/円(週足) <雲>の中の往来で、下限を試すか?

上段:26週ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13週移動平均線(赤)・21週移動平均線(青)・21週ボリンジャーバンド1σ(茶) 9週RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

今後、日銀が外債の購入を発表するくらいのサプライズがないと、円高デフレ脱却は難しいだろう。収入が減らない人達にとっては、円高やデフレは天国である。ただし、それは今だけの話である。下のNECやソニーのチャートを見て欲しい。国内投資がなくなり海外移転が進み、日本経済は没落の道を歩んでいる。政治家も役人も既得権者の保護しかしないが、その現状を長期に維持することは不可能なのではないだろうか?

NEC(左)とSONY(右)の月足 日本に工場はなくなる?


(出所:石原順)