6月21日、ゴールドマンサックスのゲーリー・コーン社長は、「2008年の米リーマン・ブラザーズ・ホールディングス破綻のような“危機の瞬間”に直面しない限り、欧州の政策担当者がソブリン債の問題を解決できる公算は小さい」「脆弱なメンバーの経済成長を支援する手段をユーロ圏は見いだす必要がある。ユーロ圏を分裂させずにそれを実現する最も簡単な方法としては、ユーロの価値を引き下げざるを得ないだろう」(6月21日ブルームバーグ)と述べた。

ゴールドマンの社長の発言は、「欧州債務危機問題の本質」を簡単な言葉で全て語っている。 筆者が以前から述べているように、ユーロ圏の問題は「カネを出すドイツの問題」であり、国家主権放棄をめぐる政治的問題である。政治家が動くには誰もが納得する「大義名分」が必要である。追い込まれるか、催促されないと、政治家は動かない。

では、「誰もが納得する大義名分」とは何かと言えば、それは「株の暴落」である。ドイツ人の血税を欧州の弱小国救済の為に使うことをドイツ人が納得するには、ドイツ自身が「連鎖損失の危機」や「強烈な国際社会からの批判」に追い込まれる必要がある。下のチャートでドイツとスペインの状況を較べてみるとわかるが、ドイツは現在何も困っていない。

独DAX株価指数(左)と独10年国債金利(右)の日足 株価安定・金利低位安定


(出所:石原順)

スペインIBEX株価指数(左)とスペイン10年国債金利(右)の日足 株価急落・金利急上昇


(出所:石原順)

ギリシャやスペインの問題は何かと言えば、それは「弱い通貨を持っていない」ことである。「危機や破綻に見舞われた国は、弱い通貨によって危機を脱する」ことは、歴史が証明している。従って、弱小国がユーロに留まったまま復活するには、「弱いユーロ」が必要となる。

欧州債務危機の防火壁として、「銀行同盟」(ユーロ圏の金融資産規模は41兆ドルもある)や「ユーロ共同債」構想が浮上している。しかし、いずれも時間がかかる話である。財政統合が不十分なままでのユーロ共同債の発行は難しいだろう。

G20前にはEUとECBが共同で短期債を出す話も浮上したが、ドイツ連銀のバイトマン総裁は、「ユーロ圏債務危機の悪影響に対する懸念によって、欧州が脅かされるようなことはあり得ず、またあってはならないと述べ、さもなければ、金額が空欄の小切手を振り出すことになってしまう」(6月21日WSJ)と拒否している。

来週のEUサミットまで欧州圏の会合や会談が続くが、「われわれはいかなる債務相互化も拒否する。これは、ドイツ法にも欧州法にも反している」と抵抗しているドイツの態度が(多少なりとも)軟化するか否かが焦点となろう。

上記のような欧州情勢のなか、米国のFOMCはオペレーション・ツイストの期限を年末まで延長した。市場が期待しているのはQE3(量的緩和第3弾)だが、これは欧州危機の深化に備えて温存された。今回QE3を見送った最大の理由は、米株価の位置が高いということである。QE1終了後にNYダウは1,644ドル下げ、QE2終了後は2,154ドル下げた。しかし、2012年5月~6月初旬のNYダウの下げ幅は1,193ドルに留まっており、現在は6月安値水準から戻している。

それでも、金融緩和が途切れると株の急落や新たな危機に見舞われる。(出口観測が出てくると危機や株安が起きる)だから、年末までオペレーション・ツイストの延長でつないでおこうという戦略だ。オペレーション・ツイスト2の規模は2,670億ドルと小さく、「オペレーション・ツイストの対象にMBS(モーゲージ担保証券)を含める案」も見送られた。これは明らかに期待はずれだ。しかし、今回のFOMCで住宅PKOであるMBS市場のテコ入れがなかったことが、逆にQE3観測を強化している面もあるようだ。

8月1日のFOMCまでに経済指標の好転がなく、欧州債務危機が拡大すれば、FOMCは住宅PKOであるQE3を行う可能性が高い。「国際金融市場の緊張は引き続き著しい下振れリスク」「財政の崖めぐる不透明性、年内に経済に影響すると予想」「欧州情勢悪化なら、FRBは米経済、金融システムを守る」と述べているバーナンキFRB議長が、オペレーション・ツイストの延長のみで年内の市場を乗り切れると思っているはずがない。いずれFRBの追加緩和(QE3)が行われることは既定路線である。

NYダウ(週足)と米国の金融政策 緩和政策継続中は株買い


(出所:石原順)

米10年国債金利(日足)と米国の金融政策 ドル増刷(QE)は金利高、オペレーション・ツイストは長期金利下げ誘導が目的


(出所:石原順)

ドルインデックス先物(週足)と米国の金融政策 ドル増刷(QE)はドル安、オペレーション・ツイストは中立~ドル下値支え要因


(出所:石原順)

月末のEUサミットで危機回避に向けた政治的な進展があれば、7月5日のECB理事会では利下げが行われるだろう。同日7月5日の英中銀金融政策会合(MPC)でも、500億ポンドの資産買入枠の拡大が噂されている。英中銀の議事録(6月7日)では「資産買入枠に関しては、9名のうちキング総裁を含めた4名が枠の拡大を主張していた」ことが判明しているからだ。また、後手に回る日銀も、7月12日の日銀金融政策決定会合では追加緩和を行うことが既定路線となっている。

ギリシャの再選挙を通過し、とりあえず最悪の事態は回避された。上記のように金融緩和期待が高まるなか、売られすぎの調整を行っているのが今の市場である。果たして、金融緩和観測を背景とした7月のミニバブル相場はやってくるのだろうか?

為替市場では多くの通貨ペアが調整(方向感のない)相場となっている。例外は、豪ドルとニュージーランドドル相場である。オセアニア通貨は標準偏差ボラティリティが底入れから上昇し、相場も21日ボリンジャーバンド+1シグマの外での取引となっている。もっとも、ADXがまだ上げてこないので、パワー不足の展開であることは否めない。

ドル/円は調整相場が長いが、介入観測が出てから相場が動かなくなってしまった。次のトレンドは何時発生してもおかしくないが、ドル/円(週足)の一目均衡表の<雲>をブレイクしたときが、トレンド発生の合図となるだろう。

日々の相場動向は、『石原順の日々の泡』を参照されたい。

豪ドル/円(日足) ミニ・トレンド相場?

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

豪ドル/ドル(日足) ミニ・トレンド相場?

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ユーロ/円(日足) 調整相場

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ユーロ/ドル(日足) 調整相場 買い戻しの仕手戦はあるか?

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ポンド/円(日足) 調整相場

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ポンド/ドル(日足) 調整相場

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ドル/円(日足) 調整相場

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ドル/円(週足) 調整相場 <雲>のブレイクを待つ

上段:26週ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13週移動平均線(赤)・21週移動平均線(青)・21週ボリンジャーバンド1σ(茶) 9週RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)