ギリシャが組閣に失敗し再選挙をすることが決定した。3年目に入ったギリシャ問題はいつも堂々巡りの展開であるが、選挙をやっても同じだろう。海外の報道をみていると、ギリシャに対してはサジを投げたような論調が多く、同時に「不景気の最中に緊縮財政を行う」という欧州の経済政策の失敗が明らかになっている。欧州(ドイツ)の「強い通貨(ユーロ)と緊縮財政」という原理主義が揺らいでいることは確かなようだ。

ドイツがせこい態度を改めるかどうかは別として、市場の興味はECBの政策に移りつつある。ギリシャ問題のポイントは、そう遠くない将来にECBはジャブジャブの金融緩和を再開せざるを得ないことだ。即ち、LTRO3の発動である。

ギリシャ問題がこじれた場合、市場の弱いところを突くのが仕事であるファンド勢は「次の標的」であるポルトガルやスペインを狙うだろう。LTROの副作用は別として、とりあえずユーロ危機の拡大を止めるには追加の金融緩和しかない。市場では6月6日や7月5日のECB理事会での「利下げ」や「LTRO3」観測が浮上している。

ユーロ/ドル(日足)とECBの金融政策 2度あることは3度ある?


(出所:石原順)

一方、米国では「VAR(バリューアットリスク)モデル」で盤石のリスク管理体制(リーマン危機でも損失を出さなかった)をとっているといわれたJPモルガンが、CDS市場での運用に失敗し20億ドルの損失を出した。CDS(倒産保険)市場はJPモルガンが作った市場であり胴元でもある。CDSは金融破壊兵器と呼ばれているが、その破壊兵器でJPモルガン自身が大損したというのは皮肉な結果である。

年間1億ドルを稼ぎ出すと言われていた“ロンドンのクジラ”と呼ばれるトレーダーがCDS市場で「ひとり相撲」を取りパンクしたようだが、その“バカでかい”ポジションは、「ありえないだろう」とトレーダーの間で話題になっていた。

ロンドンを拠点にしていたのは、自己勘定取引に対するボルカー・ルールを逃れるためである。過去、ジャンクボンドの帝王と呼ばれた“天才トレーダー”のマイケル・ミルケンやノーベル賞学者を集めたLTCMもひとり相撲で自滅していったが、ここでの教訓は、市場(価格)を自分でコントロール出来ると思ったら破滅が待っているということだ。

この件で問題なのはJPモルガンの損失ではなく、ボルカー・ルール(銀行による投機的な取引を禁じる法律)への影響だ。金融界での衝撃が大きくなっているのは、損をしたのがJPモルガンだったからだ。JPモルガンのCEOジェイミー・ダイモンはボルカー・ルール反対の急先鋒で、米金融界ではバーナンキFRB議長以上の政治力を持っていると呼ばれる人物である。この影響は大きい。

ボルカー・ルールついては、ロビー活動(骨抜き活動)の活発化でいつから実施されるのか不透明な状況が続いていたが、今回の問題で「やっぱり強い規制が必要だ」という意見が多くなっている。ボルカー・ルールは早くて今夏にも最終的に策定される予定となっているが、金融の世界で法律が変わると市場への大きな影響は避けられない。世界経済が金融だけで廻っているご時世で、ボルカー・ルールの規制強化が懸念される事態となっている。

米国は2013年からの「タックスマゲドン」という不景気(大幅な緊縮財政と増税)が控えている。欧州危機、ボルカー・ルールと悪材料がそろってきたなか、FRBはQE3を実施せざるを得ないであろう。共和党が勝てばクビといわれているバーナンキFRB議長は、オバマ政権に協力して追加の緩和を行うはずだ。原油価格の下落もQE3実施の追い風になっている。

米ゴールドマン・サックス・グループの経済チームは、6月19、20両日に開かれるFOMCで追加金融緩和が決定すると予測している。「QE3はない」と思っていたトレーダーも、「ギリシャのユーロ圏離脱によって米国に金融危機が生じることになれば、FRBは間違いなく量的緩和第3弾(QE3)に踏み切るだろう」との見方に傾いている。

FRBの金融政策とNYダウ(週足)


(出所:石原順)

原油先物(日足)QE3の地ならし相場で下落?


(出所:石原順)

45日ルールによるファンドの解約期限である5月15日を通過した。ファンド勢は次の一手を模索中だが、目先はユーロ売り、基本は「LTRO3」と「QE3」待ちの姿勢だ。現在は政策催促相場で株安・ユーロ安・商品安が展開されているが、6月に欧・米で同時金融緩和となれば相場の反転があるだろう。「LTRO3」と「QE3」が実施されるまでは、1進2退のリスク回避と「現金が王様」の相場が続く。

為替市場はユーロの独歩安相場が展開されている。ドル/円相場は覆面介入の噂や78円介入説の蔓延で動かなくなってしまった。ギリシャでは選挙後、銀行から7億ユーロの預金流出が確認されているが、為替市場でもユーロからアングラマネーの温床英国ポンドへの資金逃避が起きている。クロス円相場は通貨ペアによって動きにバラツキが出ている。大きなトレンドが出ているのはユーロ/円、豪ドル/円、ニュージーランド/円の3通貨である。

ドル/円(日足)

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ユーロ/ポンド(日足) ユーロ売り・ポンド買いが活発に

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ユーロ/ドル(日足) 休養充分から、久々のトレンド発生

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ポンド/円(日足)

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

カナダ/円(日足)

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足)

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

ニュージーランド/円(日足)

上段:26日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線(赤)・21日移動平均線(青)・21日ボリンジャーバンド1σ(茶) 9日RSI(鈍感バージョン)40-60 桃色=買い相場・水色=売り相場


(出所:石原順)

豪ドル/円は9日RSI(鈍感バージョン)の20%という周期的底値圏に到達しているものの、豪ドル売りトレンド相場が続いているので大きく反発できない状況が続いている。昨日から、21日ボリンジャーバンド-2σ(黒の線)に沿いながら下げていくという“バンドウォーク”から離れて反発している。しかし、豪ドル売りトレンドが消滅するまでは大きな値幅を狙わず“小すくい商い”に徹するべきであろう。

豪ドル/円(日足)と9日RSIの推移

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド2σ(黒)・13日移動平均乖離3%乖離(青)
下段:9日RSI鈍感バージョン(赤)


(出所:石原順)