ドル/円相場が93円77銭まで上昇してきた。11月27日安値84円76銭から約9円の値上がりである。現在、昨年4月高値101円43銭から11月27日安値84円76銭の下げ幅に対して半値戻しを達成したところだ。この期間の<フボナッチのリトレースメント>(50%=93円65銭・61.8%=95.49・100%=101.43)<20カ月移動平均線>(2010年1月7日現在=96円48銭)は今年のドル/円相場の重要な上値抵抗ポイントである。

ドル円(日足)とフィボナッチリトレースメントによる戻りの目処


(出所:石原順)

11月27日安値84円76銭がドル/円の長期5年サイクルの底であったか否かは、まだ確認がとれないが、少なくとも40週前後のサイクルの安値であった可能性は大きい。いずれにせよ、ドル/円相場は現在、修正高(ドル売られすぎの修正)の局面(現在戻り相場の6週目)にあることは間違いがないだろう。

ドル/円(月足)5年サイクルと2年サイクル


(出所:石原順)

昨年12月4日のレポート「野も山もみな一面に円高予想だが…」で取り上げたように、ドル/円相場は60カ月移動平均乖離バンドの-20%乖離がとりあえず円高持続の限界となった。当面のドル/円相場はこの60カ月移動平均線のマイナス10%~20%のバンド(チャートの黄色の部分)で推移することになろう。

ドル/円(月足) 60カ月移動平均乖離バンド

10%乖離(緑)・20%乖離(青)・30%乖離(赤)


(出所:石原順)

現在、ドル/円の日足ベースの取引で筆者が何を見ているかと言うと、13日と21日移動平均線のバンド(帯=水色の部分)である。ドル/円の終値をこのバンドがサポートしている限り、ドル買いトレンドは変わらないだろう。

ドル/円(日足)13日と21日の移動平均バンド(水色の帯)


(出所:楽天証券マーケットスピード)

日足より短い時間枠で手堅いトレードを好む投資家は、やはり<1時間足>での取引が良い。相場のトレンド部分を抽出(方向性を認識)する方法は、<平均足>か<ボリンジャーバンドの1シグマブレイク>である。(移動平均やボリンジャーバンドに傾きがないときは相場に参入しない)筆者は相場のダマシを避けるために、平均足では5本と10本の移動平均のクロスを補助ツールに使い、<ボリンジャーバンドの1シグマブレイク>ではADXを補助ツールに使っている。

ドル/円(1時間足)平均足と5本と10本の移動平均線のクロス

青の部分では平均足の買い転換無視・赤の部分では平均足の売り転換無視


(出所:楽天証券マーケットスピード)

ドル/円(1時間足)21時間ボリンジャーバンド1σの飛び出し局面と14時間ADXの推移


(出所:楽天FXウエブログイン)

(上記で取り上げた具体的な取引手法については「オンラインセミナーの動画配信」をご覧ください)

このところ筆者のところには、世界や米国の景気に対してかなり暗く、悲観的な見方のレポートや調査資料が舞い込んでいる。それには世界的な金融危機の再燃や、商業用不動産の損失問題、米個人消費の低迷、数字には表れない米国の雇用の実態、ヘッジファンド規制、連銀(FRB)の査察問題などが書かれている。だからといって株を売れば儲かるかというと、今のところ相場は下がっていない。筆者はそれらのレポートを読んで、「米国の出口戦略は市場の予想より遅れ、利上げなど当分先になるだろう」と予感した次第である。米国の出口戦略が後手にまわるということは、バブル相場が延命するということである。

リーマン危機後、市場のレバレッジ解消が急速に進むかと思われたが、2009年の相場は金融バブルが復活した。100年に1度とグリーンスパン前FRB議長が言った経済危機の最中で、金融機関だけは皆救済され、ウォール街・シティ・香港・上海・サンパウロなどはバブルに躍っているのが現状だ。運用の現場をみると、リーマン危機前と何も変わっていない。ITバブル崩壊を住宅バブルで食い止めるというグリーンスパン前FRB議長の手法はバーナンキFRB議長に受け継がれ、リーマン危機の連鎖による大不況は中央銀行バブルと時価会計の凍結で食い止められている。

現在、騒がしくなっている金融機関のボーナスの規制、ヘッジファンド規制、FRBの査察(きっと何も出てこない)などの問題は、金融機関の救済や多額のボーナスに対する大衆の不満への“ガス抜き”に過ぎない可能性が大きい。議会や議員が選挙民にアピールするための予定調和的な動きだ。いささかアホらしくなってくるが、「重工業などの産業資本主義は金融資本主義に勝てない」のである。金融とIT以外はグローバルに普及しないからだ。

資本主義はバブルサイクルである。2010年も金融資本主義を維持しようという動きのなかで、米国の景気回復をはやす声も多くなっている。米景気回復の“期待値”に支えられて米国の長期金利が上昇し、それと連動するドル/円も上昇している。

米10年国債金利とドル/円の推移(月足)

2004年以降のドル/円相場は米長期金利と連動している


(出所:石原順)

米長期金利とドル/円の連動がどこまで続くかはわからないが、この連関相場についていくしかないだろう。最も、現在の米長期金利の上昇は米国の実体経済を映したものではなく、景気回復や出口戦略を煽る連中によって作られた動きなので、どこかでしっぺ返し(金利の低下)を喰らうだろう。そのときは素直にドル売りだ。

現在のファンド勢の動きに触れておこう。現在のドル高の要因は米国のイールドカーブ(利回り曲線)が立ってきたからである。「米国景気の行方は長短スプレッド次第」に書いたように、「短期で資金調達し長期で運用する」というのが金融機関や運用者のビジネスモデルである。イールドカーブの立っているところで運用を行うというのが金融のイロハである。これをキャリー取引と呼び、円キャリー取引は為替リスクを伴ったキャリー取引の一つである。

過去の景気後退局面では、米国10年国債と2年国債の金利差は概ね2.5%(250ベーシス)まで拡大している。2010年1月7日現在の米国10年国債と2年国債の金利差は2.80%(280ベーシス)に達している(現在、米連邦金融機関検査協議会は米金融機関に対して金利上昇のリスクに備えるように警告する声明を出している)。ゼロ金利の時代、為替リスクなしで2.8%の金利差(タダ飯)を享受できるのであれば、米国の運用者はあえて為替リスクやあぶないカントリー(ソブリン)リスクをとる必要がない。したがって、米国のファンド勢や投資銀行は海外運用資産の一部を米国に戻す動きに出ている。このポートフォリオの組み替えというアセットアプローチが現在のドル高の最大要因となっている。

米国債の利回り曲線 1年前に比べて、長短金利スプレッド拡大でドル資金が里帰り?

2009年1月6日(左)2010年1月7日(右)


(出所:FINRA)

米国債の利回り 2年債1.02%・10年債3.82%(2010年1月7日現在)

米国債の利回り曲線
(出所:FINRA)

NYダウと長短金利スプレッド 長短スプレッド拡大局面(黄枠)

(米国株が爆発的に上昇するのは長短スプレッドが縮小(リスクテイクが必要となる)する過程である)

NYダウと長短スプレッド
(出所:FRB、石原順)

現状では、2010年相場のイメージとして「年前半のドル高・年後半のドル安」を観ているが、長期の予想は精度が落ちるし、相場の実践においてはあまり意味がない。大事なのは予測が外れた時の相場観の修正と対処である。筆者はとりあえず、昨年の12月から始めたドル/円の押し目買い戦略を2月までは続けていく予定である。

本日は12月米雇用統計の発表がある。事前の期待感は強いが、数字が出てみるまでわからない。相場で一番重要なのは資産管理とその具体的行動である損切りだ。相場に絶対はない。皆さん、ストップロス注文(あらかじめ計算された損失注文)を忘れずに!