新型コロナウイルス動向?

重症化リスクが低いとの報告にも予断許さぬ状況が続く

 11月に新型コロナウイルスの変異型であるオミクロン株が南アフリカ共和国で最初に報告された。WHO(世界保健機関)は11月26日、オミクロン株を懸念されるVOC(変異株)に指定した。これまでWHOがVOCに指定したのは、2020年12月29日のアルファ株、ベータ株、ガンマ株、3月19日のイプシロン株、5月11日のデルタ株。オミクロン株はこれに続くもの。インドで爆発的な感染が起こり、世界各地に感染が広がったデルタ株の記憶は新しく、オミクロン株の感染拡大による経済への悪影響が懸念された。

 CBOE(シカゴオプション取引所)が米株価指数S&P500種のオプション取引の値動きをもとに算出・発表している数値に恐怖指数(VIX指数)がある。一般的に数値が高いほど投資家の先行き不安を表す。通常10~20の範囲で動くとされ、20を超えると不安感が高まっている状態、30を超えると警戒領域とされる。過去には米同時多発テロ、リーマンショック、ギリシャ危機などの際には40を超え、コロナショックの始まりである昨年の3月には最大で85.47まで上昇した経緯がある。今回、オミクロン株の感染者が南アフリカで急増、さらに同国外でも感染者が確認されたとの報が入ると、デルタ株の経験を踏まえ、投資家の不安心理は高まり、12月1日には警戒領域の30を上抜いた。時を同じくして世界的に株価が急落、歩調を合わせる格好で原油価格も大きく下落した。

 一時的に警戒感が強まったが、12月中旬以降は落ち着きを取り戻しつつある。ハウテン州で11月に初めて報告されてから、すべての州で急速に感染が拡大していた南アでは、12月に入り、1日あたりの新規感染者数が急増して一時4万人近くにまで増えた。しかし、下旬に入り減少傾向が示されている。また、感染者数に対して重症化する例はそれほど増えていない。ワクチン接種や自然免疫が増えていることで、これまでの感染の波とは異なる状況に、過度な悲観ムードは和らいでいる。従来の変異株に比べて病原性が弱いという証拠はないものの、南アの入院患者を分析した結果などに従い、複数の機関から重症化リスクはこれまでのものよりも低いとの見解が示されている。米製薬大手ファイザーは、3回目のブースター接種を行うことで、オミクロン株に高い効果が得られることが確認されたとの調査結果を明らかにしており、他の製薬会社もオミクロン株対応の改良ワクチンの開発に着手している。また、抗体治療薬の1つがオミクロン株に有効との結果が得られたとの報告も上がっている。これらの分析結果や報告などから、重症化リスクは抑えられるとの期待が広がり、市場の不安心理は和らいでいる。年末時点では、VIX指数は20を下回っており、オミクロン株が確認される前の状況に戻っている。

週平均の新型コロナウイルス新規陽性者と死者数(人)

ジョンズ・ホプキンズ大学などのデータを基にクリークス作成

VIX指数

CBOEのデータを基にクリークス作成

 重症化リスクは低いとの見解が示されているとはいえ、新規感染者数が急増して、新たな感染拡大の波を形成している点には注意しなければならない。入院者数や死者数がさほど増えてはいないとはいえ、新規感染者数が欧州や北米を中心に急激に増えている。米国、英国、フランス、イタリア、デンマーク、ポルトガル、ギリシャ、オーストラリアなど、多くの国で新型コロナウイルスの1日あたりの新規感染者数が過去最多を更新。これにWHOも危機感を表明している。オランダは感染拡大に先手を打って厳しい規制強化に乗り出し、年末からロックダウン(都市封鎖)に踏み切った。ドイツでも接触制限や入国規制をさらに強化する措置を講じている。水際措置を打つも市中感染が広がり、オミクロン株の感染が7割以上を占めていることもあって、バイデン米大統領はオミクロン株の感染拡大について重大な局面と危機感を表し、米国では主要都市が規制を強化している。

 重症化にいたるケースは低めといわれているが、現在のところデルタ株よりも感染力が強いとみられ、実際に新規感染者数は世界各国で急速に増加している。先進国の多い北半球がウイルスの感染症が流行しやすい本格的な冬に入っていることもあり、再び世界的なパンデミックに発展する可能性もある。入院者数が新規感染者数に比べてさほど増えないにしても、新規感染者数が急増することで医療崩壊への危機も懸念されるところ。オランダのようにロックダウンに踏み切るまでにはいたらずとも、わずか1カ月ほどで世界中を席巻している状況を鑑(かんが)みると、オミクロン株の伝播力の強さは明らかであり、水際対策や行動制限などのさらなる強化が講じられることも十分あり得るだろう。規制強化によって経済正常化への動きに再び遅れが出て、エネルギー需要抑制へとつながる可能性もぬぐい切れない。感染状況次第では足元の楽観ムードに水を差す可能性もある。2020年の原油価格暴落は、新型コロナウイルスのパンデミックによって引き起こされた部分があまりに大きいので、引き続き感染状況には注意しなければならない。