原発も選択肢?

 脱炭素を進めるために原子力発電を推進する案もあります。私は、その考えに基本的に同意しません。安全性の問題が残ることもありますが、それだけではありません。日本の原発政策が「核燃料サイクル事業」が実現することを前提として推進していることが問題と考えています。

 ただし、以下3つの条件がすべてそろえば、原発も脱炭素の選択肢に入る可能性はあります。ハードルはかなり高いと思います。以下、3つの条件です。

<原発を脱炭素の選択肢に入れるために必要と考える条件>

【1】国民が納得できる十分な安全性を確保する
【2】核燃料サイクルが実現不可能であることを公式に認める
【3】最終処分場を確保する(深度1,000~5,000メートルの地中埋蔵も選択肢に入れる)

<参考>核燃料サイクル事業について

 現在、日本は、核燃料サイクルが実現することを前提に原発事業の原価を計算しています。核燃料サイクルとは、使用済み核燃料を再生してMOX燃料を作り、再び原子炉で発電に使うものです。これをプルサーマル発電といいます。

 さらに、そこから得られるプルトニウムを使って、高速増殖炉で発電を行う計画です。高速増殖炉では、使用するプルトニウムを上回る量のプルトニウムが得られ、何度も発電を繰り返すことができる、とされてきました。

 夢のような核燃料サイクルが実現することを前提としているため、日本の電力会社は使用済核燃料から得られるプルトニウムなどを資産として計上しています。使用済み核燃料はプルサーマル発電や高速増殖炉で新たに発電を行うための「資源」という扱いです。

 ところが、日本の核燃料サイクル事業は、現時点でまだ何も実現していません。最近、核燃料サイクル事業は安全性が確保できず、実現不可能との見方が強まっています。使用済燃料から未使用のウランやプルトニウムを取り出してMOX燃料に加工する予定であった青森県六ヶ所村の再処理工場は技術上の問題が次々と出て、完成していません。

 高速増殖炉の開発も進んでいません。日本では、再処理したプルトニウムで動くはずであった高速増殖炉「もんじゅ」は1995年にナトリウム漏えい事故を起こして以来、稼働が停止したまま、廃炉が決定しました。2018年から30年かけて廃炉を進める計画です。欧米でも技術的な困難と経済性から、高速増殖炉の開発を断念する国が増えています。

 今の日本は、技術的にまったく完成のメドがたっていない核燃料サイクルが実現することを前提に原発事業を推進しています。もし、日本政府が核燃料サイクルを断念する場合、国内に積み上がった使用済み核燃料は、最終処分にコストがかかる「核のゴミ」に変わります。

 そうなると、原発はコストの高い発電となる可能性があります。既に大量に抱えている使用済み核燃料の最終処分場を確保する必要が生じます。

<参考資料>使用済み核燃料の処分方法(核燃料サイクルを行う場合と、行わない場合)

<図A>核燃料サイクルを行わない場合:使用済み核燃料を直接処分

出所:各種資料より筆者作成

<図B>核燃料サイクルを行う場合:プルサーマル発電まで

出所:各種資料より筆者作成

<図C>核燃料サイクルを行う場合:高速増殖炉まで

出所:各種資料より筆者作成