脱炭素をはばむ、3つの問題

 2050年までの脱炭素は、人類が本気で取り組めば、実現可能と考えています。ただし、実際には実現できないかもしれません。最大のリスクは、人類が本気で取り組まないかもしれないリスクです。その他テクニカルな問題も含め、脱炭素を阻む、以下3つの問題があります。

【1】地球上に安価な化石燃料がまだまだ大量にある問題

 安価な化石燃料が莫大に存在することが、自然エネルギー開発を遅らせる最大の問題となっています。米国のトランプ元大統領のように、自然エネルギーを完全否定して、化石燃料をどんどん開発して使い続ければ良いと考えている人はたくさんいます。

 化石燃料を使う企業にペナルティを科し、自然エネルギーを使う企業にプレミアムを支払う仕組みを構築し、定着させなければ、自然エネルギーの活用は進みません。それを世界中で徹底できないと、脱炭素は進まないかもしれません。

 原油が枯渇しそうになって、原油価格が急騰すれば、脱炭素の技術開発は文句なく進むでしょう。ところが、現実には地球上には安価な化石燃料が大量に存在します。可採埋蔵量は、これからもどんどん増えるでしょう。

 技術革新によって、これまで採掘できなかった深海や、シェール層などからも大量の原油やガスが採れるようになったからです。未開発のシェール層や、日本近海のメタンハイドレ-ド(燃える氷)など未開発の化石燃料は、莫大に存在します。化石燃料が枯渇しそうになることは、当分ないと思います。

【2】流通コストがきわめて高い問題

 自然エネルギーによる発電コストはどんどん低下し、発電コストだけで見ると、今や競争力のある電源となりつつあります。ところが、流通コストがきわめて高い問題が残っています。流通コストまで含めて低コストとならなければ、化石燃料を本格的に代替することはできません。

 もし太陽光パネルをアフリカの砂漠に大量に敷き詰めれば、低コストの電気が大量に得られます。ところが、それを使う術がありません。作られた電気を都市部に運ぶのに莫大なコストがかかるからです。

 仮に、送電線網を張り巡らせて、砂漠の電気を都市まで持ってきても、需給調整がうまくいきません。電気は保存ができない(蓄電池で保存できる量は限られる)ので、発電量と消費量を常に一致させる「同時同量」が実現できない問題があります。需給調整に失敗すると、大規模停電が頻発する問題に苦しめられます。

 これを解決するのが、水素の活用と考えられています。自然エネルギーで作る電気で水を電気分解して得られる水素を、運搬・保存する方法です。電気が必要になれば、貯蔵してある水素を燃やして発電すれば良く、排出されるのは水だけです。

【3】環境問題

 持続可能なエネルギー循環社会をつくるために進める自然エネルギーの活用ですが、皮肉なことに、必ず環境問題に突き当たります。たとえ自然エネルギーの発電所でも、誰も近所にはあってほしくないと思います。

 そのために、日本ではメガソーラーでも風力でも規模が小さいという問題があります。それが、日本ではなかなか自然エネルギーの発電コストが下がらない原因となっています。なんらかの社会的ルールを整備して、大規模な自然エネルギー発電所を実現させないと、コスト低下は進みません。

 風力発電には、重低音公害の問題があります。洋上風力も、漁業資源への悪影響が心配されます。地熱発電も、高温岩体発電も、地盤沈下や地下水への悪影響などの環境問題をクリアできないと前へ進めません。

 自然エネルギーで発電を行う地域として人口過疎地が選ばれることが多いですが、それでも人がまったく住んでいない場所はありません。自然エネルギーの活用は、環境問題をクリアしながら進めることが求められます。