ロシアは米ドルよりもゴールドを多く保有

 実際に準備通貨としてのドル離れは加速している。ロシアは史上初めて米ドルよりもゴールドを多く保有していることが明らかになった。2020年6月末時点で、ロシアは1,285億ドルのゴールドを保有しており、これはロシアの外貨準備全体の約23%に相当する。これに対して外貨準備における米ドルは1,250億ドルと、全体に占める割合は22%に低下した。2018年にはロシアの外貨準備金の約4割が米ドルであった。

 過去3年間で、ロシアは外貨準備を米ドルから、ゴールドや人民元などの他の通貨に積極的にシフトしてきた。2020年のロシアのゴールドの保有価値の急上昇は、新型コロナウイルスのパンデミックの影響で貴金属価格が高騰したことが要因である。8月初旬にはゴールドの価格が過去最高を記録したため、ロシアが外貨準備として保有するゴールドの割合は夏の期間を含む、次回の発表ではさらに高まる可能性がある。

2020年6月末時点のロシアの外貨準備の内訳

出所:The Moscow Times

 ロシアによる米ドルの保有割合の減少は決して偶然ではない。プーチン大統領は意図的に「脱ドル」政策を行っており、米ドルのエクスポージャーを下げてきた。結果として、ゴールドは現在、ロシアの中央銀行の準備金の中で、ユーロに次いで2番目に割合の大きい構成要素となっている。また、ロシア中央銀行は人民元の保有量も増やしている。中国の元はロシアの外貨準備の約12%を占めている。

 また、2018年には、ロシアはSWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)の代替として機能する決済システムを立ち上げた。金融機関が金融取引に関する情報を安全かつ標準化された環境で送受信するシステムであり、ドルが世界の基軸通貨として使われていることから、SWIFTは国際的なドルシステムを支えている。

 米国は他国に対し、このSWIFTを懲罰的に使うことがある。例えば、米ロの関係が悪化した2014年と2015年には、ロシアの銀行のいくつかをこのSWIFTからブロックした。また、昨年秋には、中国に対し、国連の北朝鮮制裁に従わなければ、ドルシステムであるSWIFTから締め出すと脅した。

 今回改めて確認されたロシアのドル離れはすぐに大きな影響を与えるほど大きな問題ではない。しかし、他の国でもこのような傾向がさみだれ式に起きれば、最終的にドルは基軸通貨としての役割を脅かされることになりかねない。ドルの信認が低下すれば、この伝家の宝刀も使えなくなる。既に世界の基軸通貨としてのドルの地位が危険にさらされているとする論調はここ数年でかなり増えてきた。

 市場ではドルの先安感が高まっている。足元では再びヘッジファンドがドルをショートしていることがわかった。ブルームバーグの記事「ドル安トレンド再開か、ヘッジファンドはドルショート積み上げ」によると、米商品先物取引委員会(CFTC)が集計したデータから、ヘッジファンドは12日までの1週間でドルのネットショートポジションを2018年4月以来の高水準に増やしたことがわかった。

ドルインデックス

出所:ゼロヘッジ

 一方、ポンドの強気ポジションはネットで昨年10月以来の水準に膨らみ、ユーロとオーストラリア・ドル、ニュージーランド・ドルにも資金が投じられているとしている。

ユーロ/ドル(日足)

ボラティリティーフォロートレードモデル(赤↑=買いシグナル・黄↓=売りシグナル)
出所:MT4・石原順インディケーター

ポンド/ドル(日足)

ボラティリティーフォロートレードモデル(赤↑=買いシグナル・黄↓=売りシグナル)
出所:MT4・石原順インディケーター

NZドル/ドル(日足)

ボラティリティーフォロートレードモデル(赤↑=買いシグナル・黄↓=売りシグナル)
出所:MT4・石原順インディケーター

豪ドル/ドル(日足)

ボラティリティーフォロートレードモデル(赤↑=買いシグナル・黄↓=売りシグナル)
出所:MT4・石原順インディケーター