金利上昇とドルの信認喪失は2021年のブラックスワン

 プライベートエクイティであるKKRのヘンリー・マクベイ氏は16日、ブルームバーグテレビジョンのインタビューに答え、可能性としては低いものの「総じて建設的な状況に逆らって誤った方向に進む恐れがある事柄が2、3ある」と語り、ドルに対する信認喪失や無秩序な金利上昇の可能性に加え、企業利益が想定から大きく外れ、株価評価の見直しにつながりかねないことを「ブラックスワン」リスクとして強調した。

 マクベイ氏によると、景気動向やバイデン政権による大胆な支出を伴う政策の組み合わせによって経済は力強い回復に向かうと予想する一方、足元の資産価格の値上がりや米国債利回りの上昇を受けて慎重な姿勢を示しており、世界の準備通貨としてのドルの地位喪失や金利急上昇など実際に起きる可能性の低いイベントに関する「テールリスク」に対するプロテクションを購入するようアドバイスした。

 現在、ニッケルや銅といった資源価格が上昇している。ニッケル価格の指標となるロンドン金属取引所の先物価格は2014年以来の高値をつけている。また、銅価格も約8年ぶりの高値圏にある。中国の景気回復期待を背景とした先高観も根強いことに加え、バイデン政権が推し進める経済対策を含む世界的なEVシフトも上昇を後押しする理由の一つとなっている。EVにおける銅の使用量はガソリン車の3〜4倍とされている。

銅価格の推移

出所:LME(ロンドン・メタル・エクスチェンジ)

 GFC(世界金融危機)後のように中国がけん引役となり世界経済を刺激し、EVを中心としたサプライチェーンが盛り上がりを見せ、実体経済へ波及効果があるとしたら良いことであろうが、資源価格の上昇の裏側ではコストプッシュインフレにつながる懸念も台頭している。資源インフレは、いわゆる供給サイドの要因によるインフレであり、輸入物価の上昇などその原因が自国に収まらない場合、対策が比較的難しいと考えられている。

 日米欧の先進国を中心に低金利が常態化して久しい。先進各国はインフレ目標を掲げ、積極的な金融緩和を断行している。日本や欧州ではマイナス金利を導入しているものの、今のところ物価は一向に上がる気配を見せていない。

米国の双子の赤字とドルの推移(オレンジ:双子の赤字 黒:ドルインデックス)

出所:ゼロヘッジ

 バイデン大統領は新型コロナウイルス対策として1.9兆ドル規模の経済対策案を明らかにした。個人への現金給付については1人当たりさらに1,400ドル支給するほか、失業給付の特例加算も9月まで延長するとしている。米国政府はパンデミックが拡大した昨年3月以降、これまで4回の経済対策を断行しており、その規模は4兆ドルに達している。今回の1.9兆ドルを考慮すると合計約6兆ドルとなり、米国のGDP(国内総生産)比で3割近くの大盤振る舞いとなる。野放図な財政政策は金利の突然の暴走を招かないとは言えない。

ロシアは米ドルよりもゴールドを多く保有

 実際に準備通貨としてのドル離れは加速している。ロシアは史上初めて米ドルよりもゴールドを多く保有していることが明らかになった。2020年6月末時点で、ロシアは1,285億ドルのゴールドを保有しており、これはロシアの外貨準備全体の約23%に相当する。これに対して外貨準備における米ドルは1,250億ドルと、全体に占める割合は22%に低下した。2018年にはロシアの外貨準備金の約4割が米ドルであった。

 過去3年間で、ロシアは外貨準備を米ドルから、ゴールドや人民元などの他の通貨に積極的にシフトしてきた。2020年のロシアのゴールドの保有価値の急上昇は、新型コロナウイルスのパンデミックの影響で貴金属価格が高騰したことが要因である。8月初旬にはゴールドの価格が過去最高を記録したため、ロシアが外貨準備として保有するゴールドの割合は夏の期間を含む、次回の発表ではさらに高まる可能性がある。

2020年6月末時点のロシアの外貨準備の内訳

出所:The Moscow Times

 ロシアによる米ドルの保有割合の減少は決して偶然ではない。プーチン大統領は意図的に「脱ドル」政策を行っており、米ドルのエクスポージャーを下げてきた。結果として、ゴールドは現在、ロシアの中央銀行の準備金の中で、ユーロに次いで2番目に割合の大きい構成要素となっている。また、ロシア中央銀行は人民元の保有量も増やしている。中国の元はロシアの外貨準備の約12%を占めている。

 また、2018年には、ロシアはSWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)の代替として機能する決済システムを立ち上げた。金融機関が金融取引に関する情報を安全かつ標準化された環境で送受信するシステムであり、ドルが世界の基軸通貨として使われていることから、SWIFTは国際的なドルシステムを支えている。

 米国は他国に対し、このSWIFTを懲罰的に使うことがある。例えば、米ロの関係が悪化した2014年と2015年には、ロシアの銀行のいくつかをこのSWIFTからブロックした。また、昨年秋には、中国に対し、国連の北朝鮮制裁に従わなければ、ドルシステムであるSWIFTから締め出すと脅した。

 今回改めて確認されたロシアのドル離れはすぐに大きな影響を与えるほど大きな問題ではない。しかし、他の国でもこのような傾向がさみだれ式に起きれば、最終的にドルは基軸通貨としての役割を脅かされることになりかねない。ドルの信認が低下すれば、この伝家の宝刀も使えなくなる。既に世界の基軸通貨としてのドルの地位が危険にさらされているとする論調はここ数年でかなり増えてきた。

 市場ではドルの先安感が高まっている。足元では再びヘッジファンドがドルをショートしていることがわかった。ブルームバーグの記事「ドル安トレンド再開か、ヘッジファンドはドルショート積み上げ」によると、米商品先物取引委員会(CFTC)が集計したデータから、ヘッジファンドは12日までの1週間でドルのネットショートポジションを2018年4月以来の高水準に増やしたことがわかった。

ドルインデックス

出所:ゼロヘッジ

 一方、ポンドの強気ポジションはネットで昨年10月以来の水準に膨らみ、ユーロとオーストラリア・ドル、ニュージーランド・ドルにも資金が投じられているとしている。

ユーロ/ドル(日足)

ボラティリティーフォロートレードモデル(赤↑=買いシグナル・黄↓=売りシグナル)
出所:MT4・石原順インディケーター

ポンド/ドル(日足)

ボラティリティーフォロートレードモデル(赤↑=買いシグナル・黄↓=売りシグナル)
出所:MT4・石原順インディケーター

NZドル/ドル(日足)

ボラティリティーフォロートレードモデル(赤↑=買いシグナル・黄↓=売りシグナル)
出所:MT4・石原順インディケーター

豪ドル/ドル(日足)

ボラティリティーフォロートレードモデル(赤↑=買いシグナル・黄↓=売りシグナル)
出所:MT4・石原順インディケーター

1月20日のラジオNIKKEI『楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー』

 1月20日のラジオNIKKEI『楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー』は、武田則孝さん(楽天証券FXディーリング部)をゲストにお招きして、「ドル高?ドル安?イエレンの証言で相場は変わるのか?」・「シーズナリーチャートの使い方と相場調整局面のしのぎ方」・「大きなトレンドを逃さないボラティリティフォローという運用術」というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。

武田さん注目の「豪ドル/NZドル」の日足

ボラティリティーフォロートレードモデル(赤↑=買いシグナル・黄↓=売りシグナル)
出所:MT4・石原順インディケーター

順張り売買手法「ボラティリティフォロー」

出所:YouTube

 ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。

1月20日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー

出所:YouTube