世界秩序のスクラップと帝国の寿命サイクル

 米大統領選挙は、バイデンが勝つような報道ばかりになっている。ウォール街では、バイデンは増税の前にコロナ対策で財政出動をするので、株は下がるわけがないという能天気な声が多い。一方で、株式市場には相場が大きく下落する可能性が潜んでいると、ゴールドマンのアビー・コーエンは指摘している。

 今度の選挙は、どちらかが圧勝しない限り必ずもめる。トランプは最高裁が決めると言っている。筆者がここで言いたいことは、米大統領選挙の結果を予想することではない。どちらが勝とうが米国は深刻な分断の時代に入る。

 貧富の格差や富の偏在は暴落・革命・暴動・体制の変化を促す。カネは天下の回りものとはよく言ったものだ。カネは回さないといけない。歴史大局観的に言えば、富の偏在は危機のシグナルである。

 筆者が伝えたいのは、米国一強による覇権が終わりを迎えつつあるということである。そしてその表れとして米国だけではなく世界が混乱し、困惑しているのである。

 世界秩序をスクラップするトランプが大統領として登場したのは歴史の必然なのだ。

 世界最大のヘッジファンド「ブリッジウォーター・アソシエーツ」のレイ・ダリオがリンクトインに掲載した「500年の大きな循環 The Big Cycles Over The Last 500 Years」の一部を、ここで再度紹介しよう。

 一般的に人間には典型的に80年(多少の多い少ないはあるとして)続くライフサイクルがあり、まったく同じものはない(大体はよく似通っている)が、帝国にもその独自のパターンを持つ同様のライフサイクルがある。

 人々にとって明らかな人生の節目があるので自分がどのフェーズにいるのか容易にわかる。そして人生のどのフェーズにいるかを知り、その時々に応じて自分自身、そして他人に対して適切にふるまうことは可能だ。

 同じことが国にも当てはまる。主なフェーズをこのグラフに示す。これは私が共有した超単純化された典型的なビッグサイクルなのだ。

超単純化された帝国の寿命の大きなサイクル

出所:The Big Cycles Over The Last 500 Years(レイ・ダリオ)

 簡単に言えば、新しいルールセットが新しい世界秩序を確立した後、典型的には平和で繁栄した時代が来る。

 人々がこういった状態に慣れると、彼らはますます今後も繁栄すると期待し、繁栄の見返りを得ようとお金を借りて、それが最終的にバブルにつながる。繁栄が増すにつれて、富の格差は拡大する。

 やがて債務バブルが崩壊し、お金や信用供与の印刷と内部紛争の増加につながり、平和的かもしれないし、暴力的かもしれない富の再分配の革命につながる。

 典型的には、サイクルの後半では、それ以前の経済・地政学的戦争に勝った主要帝国は、その繁栄期に栄えてきたライバル勢力に比べて強力ではなく、悪い経済状況と権力国同士の意見の相違は通常は何らかの戦争につながる。

 これらの負債、経済、国内、そして世界の秩序が革命や戦争で壊れると新しい勝者と敗者が生まれる。そして勝者が集まり新しい国内、そして国際的な秩序を作り上げる。

 米国は今や最も強力な帝国ではなく、相対的な衰退期にあり、中国の力は急速に上昇しており、他の勢力は足元にも及ばない。

米国は今や最も強力な帝国ではなく、相対的な衰退期にある

出所:The Big Cycles Over The Last 500 Years(レイ・ダリオ)

 チャートが示すように、米国と中国は唯一の2大大国であり、それぞれがビッグサイクルのどこにあるかがわかり、米中はほぼ互角に近づいている。それは何らかの戦争の危機が近づいていることを示している。これは単にデータに基づいて導き出したものでわれわれが今、歴史上のどこにいるかを示している。