次のビッグトレンドを待つ

 先週のレポートで、米著名投資家ロイ・ニーダーホッファーの相場観を紹介した。ロイ・ニーダーホッファーは次の大きなトレンドが発生する市場は、為替市場であると述べている。

「ニーダーホッファー氏は、トレンドフォローのクオンツとなる可能性のある新たな市場の一角を見いだしている。外国為替相場だ。何年もボラティリティが抑えられているが、金融当局による前例のない規模の債券市場介入の副作用として全てが変わろうとしていると分析、大きな通貨トレンドがCTAの救世主になるだろうと期待している」(10月7日 ブルームバーグ 『08年勝ち組クオンツ、コロナで復活-債券強気相場終了の救世主は為替』)

ドルインデックス2008~2020年

出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート(パンローリング)

ドルインデックス先物(月足)

出所:石原順

 大不況の中で米国債務が増加すれば、FRB(米連邦準備制度理事会)は、経済を刺激し、増税するために非常に緩やかな金融政策に固執する。これにより、米ドルと米国債のリターンが低下する。

 債券王のジェフリー・ガンドラックは10月9日のリアルビジョンのインタビューで、「株式市場は18カ月のうちに激しく破裂する。もうしばらくは危機を回避できるかもしれない。しかし、次のメルトダウンが起これば、米国はパフォーマンスが最悪の市場になるだろう。その一番の要因はドル安だ」(10月9日 リアルビジョン「JEFFREY GUNDLACH-WAITING FOR THE NEXT BIG TRADE」)と述べた。

 ここ数年、鳴りを潜めている為替市場が、次に大きく動くとしたら、それはドル安方向だろう。FRBが利上げについて「考えることすら考えていない」のであれば、ドル安になる公算が大きい。

 トランプが再選されれば、ドルを切り下げる可能性が高まる。米国はドルの価値を半分に下げれば、借金も半分になり、借金を他国のポートフォリオに移管できる。

 さて、上に紹介した米著名投資家ロイ・ニーダーホッファーの実兄であるビクター・ニーダーホッファーは一世を風靡した天才トレーダーである。

 ビクター・ニーダーホッファーは1982年から1990年までソロスのファンドに在籍したが、ソロスはビクター・ニーダーホッファーのことを「相場で勝ち続けながらも(ソロスの元を)自ら去った、唯一のファンドマネジャー」と高く評価していた。

 しかし、天才も失敗する…。天才投機家ビクター・ニーダーホッファーが、「アジア危機」で破産した時の様子は、NHKの『マネー革命』で取り上げられた。これは必見の番組だ。弟のロイ・ニーダーホッファーも出演している。

マネー革命 「1日で50億円失った男」 

出所:YouTube

 ビクター・ニーダーホッファーはアジア危機の破産から立ち直り、2001年から2006年にかけて年率平均50%以上の驚異的なパフォーマンスを叩き出した。しかし、2007年のサブプライムローン崩壊で、2007年11月に彼のファンドは消滅した。

「50億を失い再び100億を稼いだ ビクター・ニーダホッファーの教え」(パンローリング)

 相場はしょせん人間がやっているゲームにすぎない。アイザック・ニュートンの南海バブル相場での大損失をみてもわかるが、天才などいないのである。

南海バブル事件とアイザック・ニュートンの破産

出所:ゼロヘッジ

 げに恐ろしきは相場である。

「英雄を気取ってはいけない。自己中心的な考え方をしてはいけない。常に自分自身とその能力を疑ってみる。自分はうまいんだなどと思ってはいけない。そう思った瞬間、破滅が待っている」

「リスクを第一に考える投資家は、強欲の餌食になる可能性が低い。私たちは、投資の潜在的なリターンを重視し、それを達成するために取ったリスクを余計なものとして扱う傾向がある。大幅なドローダウンを防ぐための管理とは、ダウンサイドの大部分を捕捉することを防ぐために、アップサイドの一部を放棄することを意味する。ポートフォリオはいつか元の状態に戻るかもしれないが、その間に失った貴重な時間は決して取り戻すことはできない」

(ポール・チューダー・ジョーンズ)

世界秩序のスクラップと帝国の寿命サイクル

 米大統領選挙は、バイデンが勝つような報道ばかりになっている。ウォール街では、バイデンは増税の前にコロナ対策で財政出動をするので、株は下がるわけがないという能天気な声が多い。一方で、株式市場には相場が大きく下落する可能性が潜んでいると、ゴールドマンのアビー・コーエンは指摘している。

 今度の選挙は、どちらかが圧勝しない限り必ずもめる。トランプは最高裁が決めると言っている。筆者がここで言いたいことは、米大統領選挙の結果を予想することではない。どちらが勝とうが米国は深刻な分断の時代に入る。

 貧富の格差や富の偏在は暴落・革命・暴動・体制の変化を促す。カネは天下の回りものとはよく言ったものだ。カネは回さないといけない。歴史大局観的に言えば、富の偏在は危機のシグナルである。

 筆者が伝えたいのは、米国一強による覇権が終わりを迎えつつあるということである。そしてその表れとして米国だけではなく世界が混乱し、困惑しているのである。

 世界秩序をスクラップするトランプが大統領として登場したのは歴史の必然なのだ。

 世界最大のヘッジファンド「ブリッジウォーター・アソシエーツ」のレイ・ダリオがリンクトインに掲載した「500年の大きな循環 The Big Cycles Over The Last 500 Years」の一部を、ここで再度紹介しよう。

 一般的に人間には典型的に80年(多少の多い少ないはあるとして)続くライフサイクルがあり、まったく同じものはない(大体はよく似通っている)が、帝国にもその独自のパターンを持つ同様のライフサイクルがある。

 人々にとって明らかな人生の節目があるので自分がどのフェーズにいるのか容易にわかる。そして人生のどのフェーズにいるかを知り、その時々に応じて自分自身、そして他人に対して適切にふるまうことは可能だ。

 同じことが国にも当てはまる。主なフェーズをこのグラフに示す。これは私が共有した超単純化された典型的なビッグサイクルなのだ。

超単純化された帝国の寿命の大きなサイクル

出所:The Big Cycles Over The Last 500 Years(レイ・ダリオ)

 簡単に言えば、新しいルールセットが新しい世界秩序を確立した後、典型的には平和で繁栄した時代が来る。

 人々がこういった状態に慣れると、彼らはますます今後も繁栄すると期待し、繁栄の見返りを得ようとお金を借りて、それが最終的にバブルにつながる。繁栄が増すにつれて、富の格差は拡大する。

 やがて債務バブルが崩壊し、お金や信用供与の印刷と内部紛争の増加につながり、平和的かもしれないし、暴力的かもしれない富の再分配の革命につながる。

 典型的には、サイクルの後半では、それ以前の経済・地政学的戦争に勝った主要帝国は、その繁栄期に栄えてきたライバル勢力に比べて強力ではなく、悪い経済状況と権力国同士の意見の相違は通常は何らかの戦争につながる。

 これらの負債、経済、国内、そして世界の秩序が革命や戦争で壊れると新しい勝者と敗者が生まれる。そして勝者が集まり新しい国内、そして国際的な秩序を作り上げる。

 米国は今や最も強力な帝国ではなく、相対的な衰退期にあり、中国の力は急速に上昇しており、他の勢力は足元にも及ばない。

米国は今や最も強力な帝国ではなく、相対的な衰退期にある

出所:The Big Cycles Over The Last 500 Years(レイ・ダリオ)

 チャートが示すように、米国と中国は唯一の2大大国であり、それぞれがビッグサイクルのどこにあるかがわかり、米中はほぼ互角に近づいている。それは何らかの戦争の危機が近づいていることを示している。これは単にデータに基づいて導き出したものでわれわれが今、歴史上のどこにいるかを示している。

10月14日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」

 10月14日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、楠雄治さん(楽天証券代表取締役社長)、土信田雅之さん(楽天証券経済研究所シニアマーケットアナリスト)、松崎裕美さん(楽天証券広報)をお招きして、「今、日本の証券界で何が起こっているのか?日本にも押し寄せるロビンフッド的な動き…」というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。

出所:YouTube

 ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。

10月14日:楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー

出所:YouTube