パラジウム価格高騰は、自動車排ガス浄化装置向け消費拡大による供給不足のため

 いったん、パラジウムとプラチナの需給バランスの全体像を確認します。需給バランスは、供給量-消費量で計算され、値がプラスの場合“供給過剰”、マイナスの場合“供給不足”を意味します。

※供給過剰は、供給が消費を上回る状態にあり、供給が多いことや消費が減退していることを示すもので、価格の下落要因。
 供給不足は、消費が供給を上回る状態にあり、消費が多いことや供給が減退していることを示すもので、価格の上昇要因。

図:パラジウムとプラチナの需給バランス 単位:トン
※2019年はリフィニティブGFMSの見通し

出所:リフィニティブGFMSのデータより筆者作成

 パラジウム価格はリーマンショック後の2009年ごろから反発色を強め、2016年半ばから騰勢を強めました。パラジウム価格の騰勢をサポートしたのが、2010年以降の需給バランスの供給不足拡大傾向だったと言えます。

 それとは対照的に、プラチナの需給バランスは2010年以降、多くの年で供給過剰となりました。2010年以降、下落・低迷したプラチナ価格の主要な変動要因だったと言えます。

 このように、近年のパラジウムとプラチナ価格の推移は、需給バランスの動向によっておおむね説明が可能です。

 なぜ、“特徴や性質が非常に似ている”のに関わらず、パラジウムは供給不足が拡大し、プラチナは供給過剰が拡大したのでしょうか。

 重要なことは、2つの貴金属が、化学的な作用である触媒作用を持っていることです。

 触媒作用とは、自分の性質を変えずに、相手の性質を変える作用です。パラジウムやプラチナは、自動車のエンジンとマフラー(消音器)の間に設置される排ガス浄化装置の内のハニカム状の構造物に塗布され、装置内を通る排ガスの有害物質を、水や二酸化炭素に変える働きをします。

 以下の通り、パラジウムとプラチナの消費の内訳をみると、パラジウムでは80%、プラチナでは40%が、自動車排ガス浄化装置向けに用いられています。

図:パラジウム(左)とプラチナ(右)の消費内訳(2018年)

出所:リフィニティブGFMSのデータより筆者作成

 2つの貴金属にとって、自動車排ガス浄化装置向けの消費は、全体の消費量に影響を与え得る重要な消費内訳です。

 以下は、パラジウムの国別の自動車排ガス浄化装置向け消費の推移を示したものです。

図:パラジウムの国別自動車排ガス浄化装置向け消費 単位:トン

出所:リフィニティブGFMSのデータより筆者作成

 パラジウムの自動車排ガス浄化装置向け消費は、2010年以降、増加傾向にあります。パラジウムの全消費の80%を占める消費であるため、この部門の消費拡大が全体の消費拡大、ひいては、需給バランスにおける供給不足の拡大の主因と言えます。