伏線1:ドローン事件後のサウジ生産V字回復は、減産延長への“駆け込み増産”の始まり?

 前々回、「今こそ確認!サウジ・ドローン事件は原油相場に何を残したのか?」内の“9月のサウジの原油生産量は前月比10%程度、在庫は20%程度の減少か”で述べた通り、9月14日に発生したドローン事件によって、9月のサウジの原油生産量は前月比10%程度、減少したとみられます。

 10月31日(水)、上記のレポート内で述べた海外通信社Aが、10月のOPEC各国の原油生産量のデータを公表しました。

原油生産量のデータは、同じ対象物でも発表する機関によってデータが異なります。

 海外通信社Aは毎月、OPEC加盟国各国の原油生産量の独自調査を行っており、その結果を、月をまたぐタイミングで公表しています(速報値的な要素あり)。専門機関のデータ(確報値的な要素あり)は月の半ばに公表され、今月であれば、EIA(米エネルギー省)が11月13日(水)、OPECが14日(木)、IEA(国際エネルギー機関)が15日(金)に公表します。

 この海外通信社Aのデータによれば、サウジの10月の原油生産量は日量990万バレルと、ドローン事件によって急減して日量905万バレルまで落ち込んだ9月から、V字回復したことが分かります。

 図:サウジの原油生産量

  

単位:百万バレル/日量
出所:海外通信社のデータより筆者作成

 前月に比べて増加幅が大きいため(前月比日量85万バレル増)、V字回復というよりも、在庫補充という意味があったにせよ、生産回復を建前とした“増産”にも見えます。サウジに対し、ドローン事件が増産をする免罪符を与えた面があると思います。

 これまで、サウジやサウジを含むOPECの減産参加国は、減産を開始する、あるいはルールを変更した上で減産を延長する数カ月前から、新しくスタートする減産における削減量の基準を引き上げておくために“駆け込み増産”を行ってきました。

 仮に、今回のV字回復以上の生産増加が、“駆け込み増産”の第一歩なのであれば、数カ月後に減産が行われる、すなわち2020年4月以降も減産が実施されることが想定されていることを意味します。

 減産を延長しないのであれば、基準となる生産量を引き上げる必要はない、つまり駆け込み増産を行う必要はないわけです。

 駆け込み増産をすればするほど、基準となる生産量が上昇するため、延長後の減産実施時は、駆け込み増産前の水準に生産量を“戻すだけ”で、減産順守が可能になります。駆け込み増産を大規模に行えば、延長後の減産順守が容易になるわけです。

 2019年11月半ばに複数の専門機関が公表する10月の生産量で、海外通信社Aの報道のとおりにサウジが10月にV字回復+増産をしたのかどうか、そして来月以降、サウジやサウジ以外の減産参加国が生産量を増加させていくか、すなわち駆け込み増産が本格化するかが争点となります。

 この線で考えれば、12月の会合ではまだ駆け込み増産が完全に終わっていない可能性があるため、先述のとおり、12月の会合では減産の方針に関しての決定事項はなく、2020年2月下旬か3月に臨時総会を行うこととし、駆け込み増産を行う時間を確保する可能性があります。

 図:OPEC加盟国のうち、2017年1月から継続して減産を実施しているサウジなど8カ国の原油生産量​

  

単位:百万バレル/日量
出所:海外通信社のデータより筆者作成