伏線2:ブラジルのOPEC加盟は、減産延長を盤石な体制で決定・実施するための伏線

 足元で話題になっている、削減幅の拡大がなされる可能性については、先述のとおり駆け込み増産の規模がまだ不明なため、現段階で、どれだけ強化されるかを論じることは難しいと言えます。

 さらにこの議論には変数があります。減産を実施する国に変化が生じる可能性があることです。OPEC内の減産実施国やOPECプラスとして減産を実施する非OPEC諸国の数が変動すれば、駆け込み増産の目標水準であり延長後の減産の基準となる生産量の水準も変動します。

 現段階ですでにエクアドルの脱退やブラジルの加盟といった、減産を実施する国の数に関わる材料が出ていることを考えれば、仮に2020年4月以降も減産が継続された場合、削減幅などのルールが変更される可能性があります。

 実際に、カタールがOPECを脱退することが承認された2018年12月の会合では、減産を実施する国個々の削減目標が変更になったり、ナイジェリアが減産免除国から減産実施国になったりしました。

 以下は11月5日時点のOPECプラスに属している国の全体像です。

 図:OPECプラスの全体像(2019年11月5日時点)

 

出所:OPECの資料より筆者作成

 

“駆け込み増産”に関わる減産実施国は、OPEC側11カ国、非OPEC側10カ国、OPECプラス合計で21カ国です。現在、米国による制裁のため原油生産量が減少しているイランとベネズエラは、OPEC加盟国ですが、減産を実施していない減産免除国のため、駆け込み増産とは無関係です。

 エクアドルがOPECを脱退した場合、同国が非OPECとして減産を実施し続ける可能性はゼロではありません。ただ、エクアドルは今年に入り、自国都合とみられる生産増加が目立っています。中国への債務返済を原油で行っているとの報道があり、減産合意を破り、生産量を増加させています。このため、OPECを脱退した後、OPECプラスに残り非OPECとして減産を継続することはないと考えられます。

 エクアドルの脱退については、OPECの組織力が低下している、減産実施国の間で減産順守に向けた温度差が生じている、組織力が低下しているため会合で減産延長を決定できない可能性がある、などの懸念が指摘されています。

 この懸念を払しょくするように登場したのが、ブラジルのOPEC加盟の話です。エクアドルの脱退報道があった10月初旬からおよそ4週間後、ブラジルがOPECに加盟することを検討しているという報道がありました。

 生産シェアの面では、エクアドルがOPECを脱退し、かつ減産に参加しない国となったとしても、ブラジルがOPECに加盟すれば(後述しますが、ロシアのように非OPECとして減産に参加する可能性がある)、OPECの原油生産シェアは36%から38%に、OPECプラスのシェアは56%から58%に上昇します。

 IEAの統計によれば、2019年9月時点で、ブラジルの原油生産量は日量313万バレル、エクアドルが日量55万バレルです。世界の原油生産量(日量9379万バレル、バイオ燃料と精製過程で得られる液体を含まず)に占める割合は、ブラジルがおよそ3%、エクアドルがおよそ1%です。

 図:原油生産シェア(2019年9月)

 

※バイオ燃料および精製工程で得られる液体を除く
出所:IEA(国際エネルギー機関)のデータより筆者作成

 OPECの統計によれば、ブラジルの原油生産量は、1982年時点で日量26万バレルでしたが、年を重ねるごとに順調に増加し続け、2015年には日量243万7,000バレルに達し、メキシコを追い抜いて中南米No.1の原油生産国になりました。

 また、近年、原油生産量の増加を背景に、ブラジルは以下のように原油輸出量を拡大させており、2013年ごろから本格的な石油輸出国となっています。

 図:中南米産油国の原油ネット輸出量(輸出-輸入)

 

  単位:千バレル/日量
出所:OPECのデータより筆者作成

 ブラジルは、原油生産量が増加したことで、メキシコやエクアドルなどの協調減産に参加している中南米産油国と何らそん色がない規模の輸出国に成長しました。輸出量の面では、ブラジルは数年前からすでに、OPECに加盟する条件をクリアしていたといえます。

 ブラジルのOPEC加盟についての留意点は、ブラジルの国営石油会社「ペトロブラス」が半官半民だということです。同社のウェブサイトには2019年9月時点で、同社の株式の50.3%をブラジル連邦政府が、31.9%を非ブラジル系投資家が保有していると記載されています。

 半官半民といえば、ロシアの最大規模の石油会社「ロスネフチ」も同様です。事実上50%をロシア政府が、そして19.75%を石油メジャー(国際石油資本)の一つであるBP(ブリティッシュ・ペトロリアム)が保有しています。

 また、ペトロブラス株はブラジル国内の株式市場であるサンパウロ証券取引所に上場し、同取引所の株価指数であるボベスパ指数を構成する銘柄です。同様に、ロスネフチ株はロシア国内の株式市場であるモスクワ取引所に上場し、同取引所の株価指数であるRTS指数(ロシア 株式市場の代表的な株価指数)を構成する銘柄です。

 国営石油会社とはいえ、株主への利益の還元や適切な情報公開が求められるため、政府が直接的に原油生産量を決めることはできないと考えられます。さまざまな利害関係があるため、過去、ペトロブラス側が原油生産量を決定する権限は政府にはないと主張し、OPEC加盟が見送られた経緯があると報じられています。

 ロシアがOPECに加盟していない理由の一つに、主要な石油会社が半官半民である点があげられ、同じ意味で、ブラジルのOPEC加盟については、OPECに加盟せず、非OPECとして減産に参加する、ということが現実的だと思います。

 OPECに加盟しなくても、非OPECとしてOPECプラスに入れば、エクアドルがOPECを脱退したとしても、OPECプラスの原油生産シェアは56%から58%に上昇します。

 原油の生産シェアの高さは“原油市場への影響力の大きさ”とも言えます。ブラジルがOPECプラスに参加すれば、OPECプラスは生産シェア(≒市場への影響力)を高め、エクアドルと同じ中南米にあるブラジルの存在によって引き続き中南米産油国への影響力を維持することができます。

 また、ブラジルをOPECプラスに取り込むことで、ブラジル以外のOPECプラスの国々に、増産余地が生まれる可能性が浮上します。生産量の規模がある程度大きいブラジルには、比較的大きな削減目標が与えられることが想定されます。

 ブラジルが比較的大きな削減を行うことになれば、減産実施国によっては、削減目標が緩くなり、限定的ながらもこれまでよりも生産量を多くできる可能性が浮上します。また、減産延長に難色を示す国があれば、ブラジルが行う減産分を、難色を示す国に増産枠として分け与え、交渉を進めることもできます。

 およそ4年にわたり協調減産を行ってきたOPECプラスにとって、ブラジルの参入は、減産実施国の財政的な疲労を軽減する緩衝材のような役割や、延長実現に向けた交渉のカードの役割を果たす可能性もあります。

 ブラジル側にもメリットがあります。OPECプラスに参加することで、ブラジルは世界規模の原油の生産国・輸出国であることを広く周知できます。農産物や畜産物、鉄鉱石や非鉄金属を供給する国というイメージが、エネルギーも供給できる国、つまり広い意味の資源国のイメージに発展し、世界の中でさらに存在感を強めることができます。

 また、ブラジルの産油国としての世界的な認知度が高まれば、ブラジル産原油価格の国際的な信用が高まることも期待されます。さらには、ブラジルの原油輸出量が増加すればブラジルが獲得できる外貨が増え、生産設備をさらに拡充する需要が生まれ、国外からの投資が増えることも考えられます。

 仮に、ブラジルが重い減産目標をあてがわれて、国内の供給に不安が生じるような懸念が生じたとしても、OPEC加盟国において天然ガス液(天然ガスの井戸から採取される軽質油)が減産の対象となっていないように、ブラジル特有のバイオ燃料が減産の対象とならなければ、減産実施が直ちにブラジル国内向けのエネルギー供給を脅かすことはないと思われます。

 ブラジルのOPECプラスへの参加は、OPECプラスにとって原油生産シェア(≒市場への影響力)を拡大させ、組織力を強化させる非常に大きな案件です。仮に実現すればOPECプラスの減産の効果を増加させる案件にもなります。

 ブラジルがOPECに加盟することを検討しているという報道は、エクアドルがOPEC脱退を表明した後に出ました。この順番は、もともとOPECプラスは減産延長を検討していたものの、エクアドルが脱退を表明して組織が不安定化して延長を決定できなくなる懸念が生じ、その懸念を組織の内外で払しょくするため、ブラジルが加盟する案が浮上したことを示唆していると言えます。

 ブラジルがOPECに加盟、あるいは非OPECとしてOPECプラスに参加する案件は、OPECプラスが減産延長を盤石な体制で決定・実施するための伏線だと言えます。