伏線3:アラムコのIPOがサウジで一部実現する模様。“減産→原油相場上昇”が急務に?

 サウジの国営石油会社サウジアラムコ(以下アラムコ)のIPOは、同国のムハンマド皇太子が打ち上げた脱石油を柱とする経済改革「ビジョン2030」における重要な資金調達プロセスです。

 IPOの構想が発表されてから3年以上が経過しており、2018年10月にはサウジの記者殺害事件で頓挫(とんざ)しそうになるなど、紆余曲折がありました。しかし、2019年11月3日、サウジ当局はアラムコ株の上場を承認。同日、アラムコのアルルマヤン会長が、株式の一部をサウジの国内市場であるタダウル市場に上場すると発表しました。12月中旬にも取引が始まるとの報道もあります。

 タダウル市場で株式の取引や資金調達、情報公開などの実績を作った上で、NYやロンドン、東京などのサウジの国外市場に上場させること(本格的に資金調達を進める)を目指しているとみられます。

 中断しかけていたIPOが動き出したきっかけは、今年(2019年)9月のアラムコに関わる複数の要職の交代だったと考えられます。

 9月2日にアラムコの会長の交代がありました。新しく就任したアルルマヤン氏は、「ビジョン2030」の重要な資金調達・管理を担うパブリック・インベストメント・ファンドの総裁だった人物で、同改革を進めるために欠かせないアラムコのIPOを実現する責務を負っていました。

 また、サウジのエネルギー大臣が交代したのも9月でした。9月7日にエネルギー大臣が解任され、サルマン国王の息子であるアブドルアジズ・ビン・サルマン王子が新しい大臣になりました。サウジ建国来初めて、技術官僚が務めることが常であったエネルギー大臣に初めて王族が就くサプライズ人事でした。

 これらの人事刷新によって、サウジアラムコのIPOは記者殺害事件によって王族への疑念が払しょくされていなくても、(人事刷新の数日後に発生した)ドローン事件で石油関連施設の防衛体制の脆弱性への懸念があったとしても、王族と王族に近い人物たちによる「ビジョン2030」推進のためのアラムコのIPO実現への重要な一歩が踏み出されたわけです。

 このような、アラムコのIPOを人事の刷新によって推進する動きは、脱石油を旗印にした「ビジョン2030」を実現するために必要な資金調達が急務だということを示していると考えられます。

 アラムコの国内市場上場をやりとげ、その後、安定した株価を維持するためには、原油相場を上昇させる(少なくとも急落させない)ことが必要です。サウジ国外市場に上場を目指すのであればなおさらです。

 12月の産油国の会合を前にアラムコのIPOが急に進展したことを考えれば、非常に優先度が高い状況にある原油相場の上昇・安定化を、減産延長によって実現する、ということが既定路線になっていると考えられます。

 逆を言えば、アラムコのIPOの進展は、減産延長が起こり得ることを強く示唆する伏線と言えます。