7:長期投資でリスクは減らない
長期投資なら絶対大丈夫だと思うのは単純すぎます
本欄でしばしば取り上げているが、「長期投資でリスクが縮小する」という誤った説明が行われることが、まだしばしばある。
この「資産運用の新常識」を話した講演でも、別の講師は、「年率の」リターンの上下差が運用期間の長期化に伴って縮小するデータを日本の株式市場で作って、「長期投資でリスクが縮小する」という趣旨の話をしていた。また、投資の啓蒙書として有名なバートン・マルキールの「ウォール街のランダムウォーカー」(井手正介訳、日本経済新聞出版社)も、原著11版まで版を重ねたが、この点の説明の誤りが直っていない(訳書、p435参照)。
長期の運用のリスクを、「年率」にしたリターンの散らばり具合で見ることは正しくない。投資家の効用に対して正しくあるためには、「資産額」の散らばり具合をみるべきだ。この場合、当然ながら、運用期間が長期化する方が資産額の上下の開きが大きくなる。
もっとも、資産額の平均は運用期間と共に上昇していく(絶対ではないが、傾向として)ので、運用期間が長期化することが不利だというわけではない。
取引コストを考えなければ、運用期間の長期化は、おおむね有利でも不利でもない。
運用会社の中には、長期投資なら絶対儲かるといった印象を顧客に与えて商品を売りたがる一種の宗教のようなマーケティングを行う会社もあるが、「長期なら、リスクが縮小して、絶対儲かる」とは言えないのだから、もう少し、賢そうな売り方をするべきだろう。