相場の方向感は金利の動向次第?

 冒頭でも述べたように、今週を含め6月に入ってからの相場の方向感は米国市場の動きがカギを握ることになりそうです。まずは、今週末7日(金)公表の米6月雇用統計が注目されることになりますが、今週6日(木)にはECB(欧州中央銀行)が理事会を開きます。

 そのECB理事会では、政策金利の引き下げが予想されています。予想通りに利下げが決定されれば、欧州の長期金利が低下して、その流れで米国の長期金利も低下していく展開となれば、国内外の株式市場がリスク選好ムードとなって、株価が上昇して行くシナリオも想定できます。

 先週の国内債券市場でも、日本の10年国債利回りが1.1%をつける場面があり、2011年7月以来の高水準となったことが、株式市場の重石となっていただけに、足元の株式市場は金利の動きに敏感に反応しやすい地合いとなっています。

 とりわけ、こうした動きが分かりやすくなっているのが、米NYダウです。

図4 米NYダウ(日足)の動き(2024年5月31日時点)

出所:MARKETSPEEDIIを基に筆者作成

 上の図4は昨年10月末からの米NYダウの値動きを、いくつかの局面に分けてその材料を簡単にまとめたものですが、それぞれの局面の動向を見ても、米国の金融政策に対する思惑が相場の動きに大きく影響を与えていることが分かります。

 これから控える経済指標や金融政策イベントなどで、米国の利下げ観測が高まれば株価が上昇し、反対に、利下げ観測が後退すれば株価の下落が見込まれるわけですが、ちょっと注意しておきたいのが前者の株価が上昇していくシナリオになった場合、「どこまで株価を押し上げられるか?」という点です。

現在の材料だけでは株価の上昇余地が限られてしまう可能性も

 通常のセオリーにおいて、いわゆる「利下げ」は、景気を刺激して、経済活動や企業業績の好転を後押しすることになります。

図5 金融政策と景況感からみた相場のサイクル

出所:筆者作成

 足元の相場は、上の図5の左上の「金融相場」を織り込むような格好で推移していますが、実際に利下げ(金融緩和)が実施され、相場のサイクルの流れに従うのであれば、右上の「業績相場」へ移行していくことになります。

 ただし、これまでの株式市場が米国経済のソフトランディングを前提に、左下の「逆業績相場」を十分に織り込んでこなかった面もあります。

 利下げ決定による市場の初期反応は、いったん「業績相場」を見越して上昇していくと思われますが、利下げ決定後も景況感の悪化傾向が続いてしまった場合には、これまで織り込んでこなかった「逆業績相場」へと逆回転する動きが一部で出てくることも考えられるわけです。

 また、肝心の業績期待についても、すでに利下げ以降の動きを先取りして株価が上昇してしまっていると思われる銘柄も少なくはなく、株式市場には割高感も感じられます。

図6 米S&P500とイールドスプレッドの動き(2024年5月31日時点)

出所:Bloombergデータ等を基に筆者作成

 上の図6は、米S&P500の値動きと、S&P500の株式益回りと米10年債利回りの差分である「イールドスプレッド」の推移を描いています。

 イールドスプレッドとは、リスク資産である株式と、安全資産である債券との投資リターンを利回り面で比較したものです。

 通常であれば、リスクの高い株式の益回りの方が、10年債利回りよりも大きくなるのですが、昨年からのイールドスプレッドは、図6を見ても分かる通り、低下傾向を続けていて、足元では、ほぼ差がないところまで来ています。単純な比較では安全な債券を選んだ方が優位と言えます。

 イールドスプレッドがここまで縮小しているにもかかわらず、株価が上昇し続けている背景には、企業が今後も大きく成長して利益を出してくれるとの期待値が高いことと、今後の利下げを想定していることが考えられます。

 しかしながら、これまで描いてきた企業業績への期待は、最近までの決算シーズンを経て、変化しつつあるように感じられます。

 例えば、米半導体企業のエヌビディア株(NVDA)については、先週に最高値を更新するなど、決算発表後も力強い動きを続けていますが、他の半導体銘柄の中には、エヌビディア株の動きについて行けずに下落しているものが散見されています。

 また、旺盛な半導体需要の根底にある、「生成AI」というテーマについても、関連銘柄とされていた、セールスフォース株(CRM)スノーフレーク株(SNOW)が冴えない決算となったことで株価が大幅下落し、AIビジネスが収益に反映されるまでにはまだ時間が掛かることが示される動きも見受けられます。

 これまでのように、エヌビディア株が相場全体を牽引していくのは難しく、銘柄の選別が進みつつある中で、業績面で相場を押し上げる力は限定的になると思われるため、相場の一段高には、新たな買い材料が必要かもしれません。

 したがって、今週の株式市場は「そろそろ大きく動き出しそうな」予兆がくすぶりながらも、方向感が金利動向次第であるため、「予測」シナリオを描いて取り組むのではなく、相場が動き出した方向に素直についていく「フットワーク」の軽さが大事になります。

 また、相場が上昇した場合には、あまり欲張らない方が良いかもしれないこと、相場が下落した場合には落ち着いて対処する必要があることなど、柔軟な姿勢で臨みたいところです。