ロンドン・プラチナウィークの話題の中心はリサイクル供給のリスクと、エンジン車(主にハイブリッド車)のプラチナ需要だった。バッテリー電気自動車(BEV)の伸びが鈍化する中で、健闘するエンジン車が今後もプラチナ需要を支えるという見方だ。どちらもこれまでに我々が取り上げたテーマであり、2028年まで続く供給不足がさらに拡大する可能性を示唆している。また、それほど広く話題にはされなかったが、劣らず興味深かったテーマは鉱山供給と水素で、どちらもプラチナ需要に対して長期的な影響を及ぼす要因となるだろう。

 1)リサイクル供給の展望は分断:リサイクルのプラチナ供給は2020年から2023年の間、毎年平均で9%減ってきた(図1)。廃触媒が減っているのは車の使用期間が伸びたこと、業者が廃触媒を貯めていること、規制の強化(『プラチナ展望』2023年12月7日参照)などが背景にある。しかし、リサイクル業者は問題が解消していないとして短期的見通しは不透明であるとしたのに対し、我々を含む市場関係者は2024年の廃触媒は緩やかに回復する(+2.0トン)という見方だった。この相反する見通しを理解するには、廃触媒がプラチナ供給の14%〜22%を占め、マーケットバランスを動かす影響があることを考える必要がある。

 2)自動車のPGM需要は長期で増える『プラチナ展望』2024年5月2日参照BEV販売の伸びが鈍化し、ハイブリッド車が増えている中で(図3)、自動車のPGM需要は減るにしてもどの程度の速さで減っていくのかという議論がなされた。自動車の3EPGM(プラチナ、パラジウム、ロジウム)の需要が前年比で3%減少(図4)しても、それぞれのメタル市場の供給不足の状況を変えるわけではない(図2)。エンジン車とハイブリッド車の需要は安定しており、普通乗用車市場でシェアが1%増えることは即ち、プラチナとパラジウムの年間需要がそれぞれ0.8トンと3.1トン増えることを意味し、市場の供給不足、特にパラジウムの供給不足はより長期にわたって続くと考えられる。

図1:廃触媒の供給は低水準

出典:メタルズフォーカス、WPICリサーチ

図2:2024年の3EPGMは供給不足の予測

出典:メタルズフォーカスによる集計の平均、SFA(オックスフォード)、ジョンソン・マッセイ

 リサイクル供給のリスクと、自動車のPGM需要は今後も当分続くことが広く認識されたことでプラチナ価格は上昇した(図6)。この二つはプラチナ価格を押し上げる要因である一方で、今回あまり取り上げられなかった話題(鉱山供給と水素)の方は、長い期間にわたって供給不足の要因になると言える。

 3)鉱山会社は供給ではなくコストを削減:底値圏を抜けた感のあるPGM価格を受けて、南アフリカのPGM鉱山会社はこれ以上人員整理をしなくても合理化を進められるようだ。2024年の供給はこれ以上減ることはないと思われるが、過去の例では、鉱山投資が減ると中期的に生産が減っている(図7)。従って今後PGM供給リスクは中期的に減る可能性がある。(『プラチナ展望2024年3月27日』参照

 4)水素需要の強さ:水素に関する規制の複雑さが需要に水を差している面もあるが、需要は少ないながらも急速に伸びており、水素利用のプラチナ需要は中長期でプラチナの年間需要の11%に成長するだろう(『プラチナ投資のエッセンス2024年4月30日』参照)。

逆境にあるリサイクル供給、堅調な自動車のPGM需要は供給不足を拡大させる可能性

供給不足が認識されるにつれて、2024年弱含みで始まったプラチナ価格は回復傾向

投資資産としてのプラチナ

-WPICのリサーチによるとプラチナ市場は2023年から供給不足が続く
-プラチナ供給は南アの電力問題とリサイクル供給で問題多い
-自動車のプラチナ需要は主にガソリン車の代替需要で今後も成長期待できる
-水素関連のプラチナ需要は少ないが、将来のプラチナ需要の大部分を占める
-プラチナ価格はゴールドに比べて安い期間が続いている

図3:BEV需要の伸びは鈍化。補助金が少なくなり、BEVに乗り換えた第一陣に続く消費者を説得する困難さを表している

出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ、中国・欧州・米国各市場の累積データ

図4:自動車の3EPGM需要は堅調で、エンジン車とハイブリッド車は長期にわたって使用されるだろう

出典:メタルズフォーカスによる集計の平均、SFA(オックスフォード)、ジョンソン・マッセイ

図5:普通乗用車のハイブリッド車のシェアの伸びは安定しており、自動車のPGM需要は2030年代に入っても続く

出典:CAAM,ACEA,ブルームバーグ、WPICリサーチ*中国のデータはPHEVのみ

図6:プラチナ価格はファンダメンタルズの回復で5月に入って上昇し、ゴールドとの差が縮小

出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ

図7:南アフリカの鉱山生産は、2010年代に設備投資が減って以降、低い水準

出典:ブルームバーグ、ジョンソン・マッセイ、SFA(オックスフォード)、メタルズフォーカス、WPICリサーチ

図8:大型輸送車の燃料電池自動車とディーゼル車の総所有コストが近づいて水素関連のプラチナ需要が伸びるのは2030年近く

出典:WPICリサーチ

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