ドライブトレインの変化でバッテリー電気自動車(BEV)のマーケットシェアが増え、PGMに対する投資家心理は萎縮している。しかし、我々の予測では今後5年間の自動車のPGM需要は年平均で1.1%で伸びる。PGM需要が大きく崩れるという見方は誇張されすぎているのではないだろうか。実際、爆発的とも言えたBEVの成長は鈍化しており、ハイブリッド車とレンジエクステンダー式電気自動車(EREV)の伸び率に大きく水をあけられている。プラチナを使うこの二つのタイプの自動車の成長は、自動車のプラチナ需要が「より多く、より長く」続くという見通しを支えることになるだろう。

 世界のBEV需要は中国、欧州、米国で9割を占めるが、昨年第1四半期に前年比で20%増えたこれらの地域のBEV販売高は、今年の第1四半期には前年比7%増に落ち込んだ。一方でハイブリッド車は、2024年第1四半期の前年比38%増加(昨年同期の増加は32%)(図3)となり、マーケットシェアの伸び率はBEVを抜いた(図4)。

 ハイブリッド車の伸びが示しているのは、消費者は脱炭素化のためにプレミアムを払うには払うが、BEVの航続距離や充電に関わる問題は無視できないということだ。多少高くても不便さに妥協しないで済む電気自動車ならば購入するという消費者の選択は、特に中国で人気が出ているEREVにも見られる。

 EREVはプラグイン電気自動車だがバッテリーの充電用として小型エンジンを搭載し、バッテリーの残量が少なくなるとエンジンを使うプラグインハイブリッド車とは異なる。中国ではEREVが新エネルギー車の中で最速で伸びており(図1)、BEVの約300キロに対して約1000キロという航続距離と充電の心配がないという売りで、2024年は100万台を超えると見られる。

図1:PGMを使うEREVは急速に伸びている

出典:中国経済観察新聞、WPICリサーチ

図2:純粋なBEVのマーケットシェアは伸び悩み

出典:中国自動車工業協会,欧州自動車工業協会,ブルームバーグ、WPICリサーチ

 EREVのみの分析はしていないが、航続距離がより長い電気自動車を待ち望む消費者や、大きな妥協せずに脱炭素化に参加したいエンジン車を持つ消費者からの乗り換え需要に期待できるかもしれない。EREVは米国市場でも受け入れられる素地がある。

 というのは米国の排ガス規制は技術的な違いを考慮に入れないため、車の寿命期間中の排ガス量がエンジン車の3分の1であるEREVは魅力的であること、米国はもともとBEVの普及率約7%と他の地域よりも低い(図2)からだ。特にステランティスが、米国の自動車市場で大きな位置を占める2025RamピックアップトラックでEREVモデルを発表していることは注目に値する。

 我々は2030年までにBEVのマーケットシェアは31%となりエンジン車の多くはハイブリッド車になると予測している。BEVのシェア伸び率が鈍化(図7)し、ハイブリッドとEREVを含むエンジン車のシェアが今までの予測を上回るという見通しが我々の楽観的な自動車のPGM需要予測を支えるが、他の市場関係者が予測するBEV普及率は我々よりも高い。

 普通乗用車BEVとエンジン車のマーケットシェアの1%の違いは1年間のプラチナ需要0.8トンとパラジウム需要3.1トンに相当し、これが2025年から2028年のプラチナ市場は約13.4トンの供給不足という我々の予測の根拠になっている。

BEV需要の伸びは2023年第1四半期の20%から、2024年同期は7%に鈍化し、ハイブリッド車の伸び38%を大きく下回った

自動車のPGM需要の崩壊は誇張されすぎで、2023年から2028年の需要の年間伸び率は1.1%の予測

投資資産としてのプラチナ

-WPICのリサーチによるとプラチナ市場は2023年から供給不足が続く
-プラチナ供給は南アの電力問題とリサイクル供給で問題多い
-自動車のプラチナ需要は主にガソリン車の代替需要で今後も成長期待できる
-水素関連のプラチナ需要は少ないが、将来のプラチナ需要の大部分を占める
-プラチナ価格はゴールドに比べて安い期間が続いている

図3:BEV需要の伸びは鈍化。政府の補助金が減っていることと、エンジン車からBEVに乗り換える第二波の消費者を説得する難しさを表している

出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ、中国・欧州・米国市場の累積

図4:ハイブリッド車のマーケットシェアは徐々に回復し2024年第1四半期はBEVを抜いた

出典:ブルームバーグ、WPICリサーチ、中国・欧州・米国市場の累積

図5:普通乗用車ハイブリッド車の安定したマーケットシェアの伸び率は自動車のPGM需要が2030年代終わりまで続くことを示す

出典:中国自動車工業協会,欧州自動車工業協会,ブルームバーグ,WPICリサーチ*中国のデータはプラグインハイブリッドのみ

図6:BEVのマーケットシェアが伸びてもドライブトレインのハイブリッド化は自動車のPGM需要がより多くより長く続くことを示す

出典:メタルズフォーカス(Pt:2019年〜2024年予測、Pd:2019年〜2022年、WPICリサーチ)

図7:BEVの伸び率の鈍化で右肩上がりに増えるとされた予測が変わり、2020年から2021年に見られた直線的な増加ではなく予測は不透明に。現在のBEVのマーケットシェアの伸び率だと2030年には約30%に。(2021年の時点の伸び率だと45%になるとされていた。)

出典:中国自動車工業協会,欧州自動車工業協会、ブルームバーグ、WPICリサーチ、中国・欧州・米国市場の累積

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