配当よりも自社株買いの方が、株主にとってのメリットは大

 以下の【1】と【2】で、株主にとってのメリットはどちらが大きいでしょうか?

【1】配当利回りで2%に相当する配当金を出す
【2】発行済み株式総数の2%に相当する自社株買いをやる

【1】と【2】で会社に必要な資金はほぼ同じです(自社株買いのマーケットインパクトをゼロと仮定した場合)。ところが、株主にとってのメリットは【2】自社株買いの方が大きいと言えます。

 2%の配当金をもらうと、株主は配当金から源泉税などの税金を引かれます(非課税投資口座を使わない場合)。得られた配当金で投資を続ける場合は、改めて株を買い直す必要もあります。

 一方、2%の自社株買いで理論通り、2%株価が上昇する場合は、株主はすぐに税金を取られることはありません。売却して売却益を確定させない限り、税金はかかりません。いつ売却して税金を払うか、株主に選択権があります。再投資する手間もなく、そのまま複利で投資を続けられます。

 したがって、株主にとって、配当金より自社株買いの方が本当はありがたいのです。それがわかるから、米国の大手ハイテク企業では、株主への利益還元は自社株買いだけでやり、配当金は無しにしているところも多数あります。

自社株買いは、会社にもメリットがある

 自社株買いは、株主にメリットが大きいですが、会社にもメリットがあります。買い取った自社株に対して、会社は配当金を払わないで済みます。買いつけた株数の分だけ、配当金の支払い総額を減らすことができます。

 米国企業は、自社株買いを、財務戦略の一環として重視しています。昔、米国企業の投資家説明会で、自社株買いの目的を「自社株への投資が、一番利益率が高いので実施する」と説明していたのを聞いたことが印象に残っています。

 簡単な例で説明しましょう。

 A企業が、余剰キャッシュを10億円持っていたとします。その使い道に、【1】設備投資、【2】借金返済、【3】自社株買い、【4】大口定期預金の四つの選択肢があったとします。

【1】設備投資のニ-ズなく、無理に投資しても投資利回りは2%しか期待できない
【2】借入金利は2%
【3】自社株の配当利回りは3%
【4】大口定期預金の利回りはメガ銀行で0.002%程度

 この場合、自社株買いの利回りが一番高くなります。配当金は、税引き後利益から払われます。配当金を減らせば、税引き後で3%のリターンが得られます。税引き前では、4.5%程度の高い確定利回りが得られる計算となります。

 このような場合に、財務戦略として、自社株買いを実施することが、会社にとって一番利益率の高い投資先となるわけです。米国企業は、そういうことを説明していたのです。