政治:権力の集中と分解のサイクル。安倍政権が得たもの

 政治の面で平成を振り返ると、昭和の自民党一党支配が崩れて、1994年に日本社会党の村山富市氏を首相とする自民・社会・さきがけの連立内閣ができたり、2008年に鳩山内閣の民主党政権ができるなど、既存の政治権力の分解が行われた。

 政治の世界では、王政、封建制、資本主義、社会主義といった政治体制の違いは別として、政治権力の集中と分解が繰り返されているように思う。

 生産と分配の仕組みとして政治を見ると、政治は、自由な取引やマーケットでは達成できない分配を達成するための仕組みだ。

 そう考えると、

(1)社会的な意思決定システムとしては権力を集中する方が効率はいいが、

(2)権力を持つ側は半ば必然的に自分達のメリットを追求し、しかもメリットを受ける層が絞られていき、半ば必然的に腐敗が生まれ、メリットのない層の不満を買い、

(3)既存の権力が革命や選挙などの方法で解体され新体制ができるが、

(4)権力が離散した状況では社会的意思決定の効率が悪く、

(5)再び政治権力の集中化が起こる、

といったサイクルを繰り返すことの理由が何となく分かる。

 平成政治史の二大スターは、小沢一郎氏と小泉純一郎氏の二人だろう。小沢氏は政党再編と選挙を巡る「豪腕」で、小泉氏は「構造改革」を旗印にして、「自民党をぶっ壊す」(小泉氏の台詞)ことに貢献した。

 平成は、昭和の自民党的なメリット配分を「政権交代」と「構造改革」で解体し、しかし、民主党政権があまりにもグズグズであったために、日本社会は第二次安倍政権に政治権力を託すようになった。

 民主党政権が掲げた「モノからヒトへの資源配分の転換」、「脱官僚支配」などは一定の正当性を持っていたと筆者は考えるが、彼らにはあまりにも実務能力がなかった。

 大きな省庁を、大臣・副大臣・政務官が数人乗り込んでいきなり支配しようとして上手く行くはずもなく、企業で言うなら大失敗したM&A(企業の買収・合併)のような惨状を呈した。民主党政権の失敗は、党内マネジメントも含めて、経営学的な失敗だったと筆者は思っている。

 現在の第二次安倍政権にとって最大の政治的資産は「民主党政権時代はひどかった」という国民の記憶がまだ消えていないことだ。

 

経済:モノ作りへの固執でビジネス停滞。ネット化で生活の利便性は向上

 平成の30年間を通じた日本の民間経済は、成長の期待にほとんど応えることができなかった。「成長見込みの下方修正」こそが、日本の株価が低迷した原因である。

 大きな傾向として、「モノ作り」に過剰な自信を持ち、これにこだわったため、「情報」のビジネスに出遅れた。また、情報のやりとりが中心になる経済活動にあっては、ネットワークの効果によって収穫逓増が起こり、少数の強者が残る競争構造になるが、日本では情報ビジネスに対する巨大な投資は行われず、グローバルには中途半端なサイズの「大手電機メーカー」が数社割拠するような産業構造を温存した。

 辛うじて大手自動車メーカーは国際的な存在感を持っているが、かつてはアップルが憧れたソニーの低迷などが象徴するように、日本のエレクトロニクス業界はその存在感を大きく低下させた。

 平成の30年間の世界的なビジネス動向を振り返ると、前半はパソコンとマイクロソフト社の時代で、後半はスマートフォンとグーグル(アルファベット社)に象徴される時代とまとめられるだろうか。

 日本の電機メーカーは、各社がコモディティ化が進む似たようなパソコンを作り、その後は「ガラパゴス携帯」のアダ花的隆盛があったものの、結局モノの世界にあってもモバイル・デバイスの美味しいところをアップルに取られて、今や部品製造の下請けとしてiPhoneの売り上げに一喜一憂するとことまで地位を下げた。

 一方、国民の生活と共にビジネスも「ネット化」はそれなりに進んだ。アマゾンや楽天市場で買い物をすることは普通のことになり、他方で、実店舗を持つ書店やスーパーマーケット、百貨店などは退潮が著しい。日本の企業にとっていいことばかりではなかったが、平成の30年間を通じて、人々にとって生活の利便性や仕事の生産性が向上したのは事実だ。

 また、2000年代初頭のネット・バブルの頃のIPO(株式の新規公開)などは、いかにも頼りなく軽薄に見えたが、会社を作って株式を公開することが容易になった。バブルにも時にいい面はある。このバブルの信用拡大はローンよりも株式性のものだったので、銀行の不良債権問題のような後遺症は大きく残らなかった。

 しかし、2006年のいわゆるライブドア事件は、端的に言ってライブドアに象徴されるような風潮に対する社会と検察の嫉妬の混じった歪んだ正義感に基づく「やり過ぎ」であった。その後しばらくの間、新興市場はすっかり低調になってしまったし、日本人の「起業」への熱量の低下を招いた。

 ただ、ライブドアの当時社長だった堀江貴文氏がロールモデルを見せた、
(1)自分でビジネスを起こし株式を持ち

(2)ネットの技術と資本市場を上手く使うなら、

(3)「古い人」と既存の秩序に媚びを売らなくても大いに成功できる道がある

という思想とその手順はその後の世代に根付いたように思われる。彼は、ビジネス的に大成功した訳ではないが、ビジネス思想における「影響力」にあって平成を代表するビジネス人の一人だと筆者は評価している。

 例えば、近年話題が多いZOZOの前澤友作氏などは堀江氏と共通のビジネス思想を持っているように思われる。