いよいよ本格化する米大統領選挙

 その一方で、米国で盛り上がりを見せているのが米大統領の選挙戦です。

 今週19日(月)より、米民主党の党大会が開催されていますが、カマラ・ハリス氏が名実ともに民主党の大統領候補となりました。最近の各種世論調査では、共和党候補のトランプ氏との支持率が拮抗(きっこう)しているものや、ハリス氏が優位となっているものもあり、今後どちらが優勢になるのかは、9月10日に行われる大統領候補者の討論会が試金石になると思われます。

 株式市場では、「もしトラ」から「ほぼトラ」といった具合に、当初はトランプ氏優勢で動いてきたのが、ここにきて、ハリス氏が当選する「もしハリ」シナリオも意識されるようになってきており、「その場合、どんな銘柄が物色されるのか?」といった質問を受けることも増えてきました。

 基本的にハリス氏は、バイデン政権の方針を引き継ぐものと思われ、クリーンエネルギー関連(再生可能エネルギーや電気自動車)、不動産、暗号資産(仮想通貨)など、これまでの民主党政権の流れをくむものが候補となりますが、変わり種で言えば、大麻合法化をにらんだ銘柄なども候補に挙がります。

 ハリス氏は以前、「大麻が連邦法でヘロインと同様のカテゴリーに分類されているのは不合理で不公平」と発言して、大麻の規制緩和の必要性を強調したことがあります。

 選挙戦が佳境を迎えるにつれ、こうした銘柄に買いが集まる場面もありそうですが、大きなテーマとしてトレンドを形成するのかについては現時点では微妙かもしれません。

 というのも、今回の選挙戦で主要な争点になるのは、「インフレ」、「移民問題」、「人工中絶」で、これらについて、ハリス氏が民主党大会で示した姿勢をまとめると、以下のようなイメージです。

<図3>ハリス氏の主な政策姿勢

出所:各種報道などを基に筆者作成

 インフレ対策の内容を見ると、薬価引き下げをはじめ、食品の価格抑制策、若者向けの住宅購入補助、医療費補助、大企業への増税などが図から読み取れますが、こうした対応策については、反対する声も多くあるほか、トランプ共和党側から「共産主義的だ」と批判の的となっています。

 さらに、上の図を見ても分かるように、これらの政策を実現させようとすると、巨額の財源が必要になります。民主党側はトランプ氏の政策に対して、「インフレの再燃を招く」と批判してきましたが、ハリス氏の経済政策も財政悪化につながり、米金利上昇とインフレ急伸を招く可能性があり、今後の討論会などではインフレの議論がメインとなるかもしれません。

 また、ハリス氏は、「トランプ氏再選を阻止する」という大義名分と、バイデン大統領が選挙戦から撤退を表明した時期が、正式なプロセスで新たな候補者を確立する時間的余裕がないという民主党の事情がある中で指名されたという面があります。今週の民主党大会ではハリス氏への支持の団結力がアピールされましたが、今後内部から批判が出てくることも想定されます。

 そのため、大統領選をにらんだ個別物色は選挙の結果が出るまではあくまでもピンポイントであって、それまでの相場の本流は米国の景況感と金融政策の動向であることに変わりはなさそうです。

 従って、9月の市場は、米国の景気(金融政策を含む)と選挙戦に囲まれる中で揺れ動く重要な月になるといえます。