バフェットとドラッケンミラーは手じまいしていったん市場から撤退!?

 ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイの運用資産全体に占める手元現金残高の割合は6月末に45.5%に達している。これはバフェットの運用の歴史の中でも極めて異常な事態と思われる。

バークシャー・ハサウェイの手元現金残高とNYダウの推移

出所:各種データより石原順作成

 バフェットはアップル(AAPL)の保有を半分に減らした。バフェットはかつてアップルについて「バークシャーが保有する財産の一つ」と評していた。また、今年5月の株主総会で、アップルは「極めて素晴らしい事業。2024年末時点で最大の保有株である可能性が極めて高いと思う」と述べていたが、ここに来て3四半期連続でアップル株の売却を進めている。

 これまでの売却はあくまでポジションのリバランスということで片付けられる程度であったが、今回アップルの保有株数を半減させたことはバークシャーによる「意思ある売却」であることは間違いない。

バークシャーが持つ上場株式の保有割合(2024年6月末時点)

出所:フォーム13Fより石原順作成

 資産家で著名投資家のスタンレー・ドラッケンミラーは、ジョージ・ソロスの元部下で世界最高の投資家の一人と称されている。そのドラッケンミラーが運用するファミリーオフィス、デュケーヌ・ファミリーオフィスが、引き続きAI関連銘柄の保有を減らしていることが分かった。

 8月14日にデュケーヌがSEC(証券取引員会)に開示した資料によると、前四半期(1-3月期)に111万株保有していたマイクロソフト(MSFT)の株式を64%削減した他、メタ・プラットフォームズ(META)については前四半期に再投資し約6万株を保有していたが、今四半期に持分を全て手放した。

 前四半期に保有を7割削減させたエヌビディア(NVDA)については、6月末時点の保有株数は21万株と3カ月前に比べて4万株ほど増加している。ただし、エヌビディアは6月10日に1:10の株式分割を実施している。このため、6月末のデュケーヌが保有するエヌビディアの株式数は増えているが、分割を考慮しなければ保有株数は9割弱減少していることになる。

デュケーヌ・ファミリーオフィスのAI関連株保有株数の推移(単位:株)

出所:フォーム13Fより石原順作成

 ドラッケンミラーはエヌビディアの売却について、「ちょっと休みたいんだ。私たちはとんでもない成功を収めた。私たちが認識したことの多くは、今や市場によって認識されるようになった」と述べている。

 2023年5月にオマハで開催されたバークシャーの年次株主総会においてバフェットは「我々の事業の大部分は、今年は昨年より低い収益を報告するだろう」と語り、この半年ほど続いていた、「米国経済の信じられないような時期が終わりつつある」と述べた。

 同じ2023年の5月にドラッケンミラーは、「2、3年後には信じられないようなチャンスが到来する」と述べ、「業界内には多くのばらつきがあり、チャンスが訪れるまで資金を温存しておくことが大切だ」と語った。

 バフェットやドラッケンミラーはいったん株式市場から身を引き、静かに次の展開を待っている。

S&P500、10年・2年イールドカーブ、FFレートの推移

出所: Kurt S. Altrichter

 8月20日、名著『ブラック・スワン』の著者であるナシーム・ニコラス・タレブは、「バブルに賭けて全てを危険にさらさないでください。誘惑に駆られるのは分かりますが、我慢してください。スピッツナーゲルの悟りの瞬間:目を閉じて、20%の利益と50%の損失を想像してください」とXに投稿した。

 タレブの見方では、今の市場はリスク/リターン比が合わないと言っているのだ。そして、米国の債務問題については、「ブラック・スワン」より想定しやすい「ホワイト・スワン」であり、この問題の解決には「奇跡が必要だ」と発言している。

 ブラック・スワン的なイベントに備えるファンドを運用するタレブの弟子のマーク・スピッツナーゲル(ユニバーサ・インベストメンツ)は、以下のように述べている。

「私の見解(相場観)よりも重要なのは、ユニバーサの顧客が、顔を引き裂くような上昇と、1929年以来最悪の暴落の両方に対して、どのような立場にあるのかということだ」