配当金には2種類あること、ご存じですか?

株式投資の楽しみの1つに「配当金」があります。超低金利のご時世、株式を保有しているだけで銘柄によっては投資金額の数%の配当金をもらえるのは魅力的ですね。

ところでこの配当金、実は2種類に分類されていることはご存じでしょうか。このことを理解していないと、税金面で思わぬ不利益を被ることがありますから要注意です。

確定申告シーズンになってまいりましたので、今回はこの「配当金」にスポットを当ててみたいと思います。

1株10円の配当で、保有株が1,000株であれば、10円×1,000株=10,000円の配当金を受け取ることができます。

このとき、源泉徴収として10%(所得税7%、住民税3%)の税金が天引きされます。したがって手取りは10,000円×90%=9,000円となります。これが一般的な配当金の受け取りです。

ところが、配当金にはもう1つの種類があります。この種類の配当金を受け取ると、源泉徴収による天引きはありません。1株10円の配当で1,000株保有の場合は、10,000円をまるまる受け取ることができます。

源泉徴収されない配当金は「配当金ではない」?

前者の「10%が源泉徴収で天引きされる」ものは一般的な配当金です。ほとんどはこのタイプです。しかし、時たま後者の「源泉徴収されない」タイプに出くわします。実は後者のタイプは、「配当金ではない」のです。配当金としてもらったのに「配当金ではない」と突然言われても、頭が混乱してしまいますね。

税務上配当金は「配当所得」として課税され、上場会社の配当金については10%の源泉徴収がなされます。しかし、一部のものは「配当所得」には該当せず、株式を売った際の売却益に課税される「譲渡所得」に分類されるため、源泉徴収はされないのです。

一般的な配当金は、「利益剰余金」(過去に会社が獲得した利益の蓄積)から支払われます。この場合は税務上配当所得に分類されますから10%の源泉徴収の対象です。

しかし、配当金は「資本剰余金」(資本金や資本準備金の取り崩しによる剰余金や自己株式処分による利益など)から支払うこともできます。このとき、税務上は配当所得ではなく譲渡所得に分類されます。

つまり、資本剰余金から支払われるタイプの配当金は、実態としては配当金ではなく、「過去に株主に払い込んでもらった出資金の払い戻し」として取り扱われるのです。そのため、受け取り時に10%の源泉徴収は行われません。

(なお、資本剰余金からの配当であっても「みなし配当」とされるものについては通常の配当と同様配当所得となります。みなし配当の有無及び金額は会社から株主へ通知されます。)

ポイントは「取得価額の調整(減額)」と「みなし譲渡損益の計算」の2つ

この資本剰余金からの配当金を受け取ったとき、税金の計算上注意しなければならないポイントが2つあります。それが「取得価額の調整(減額)」と「みなし譲渡損益の計算」です。

資本剰余金からの配当金を受け取る場合、会社側から「純資産減少割合」というものが公表されます。これは、会社の純資産を1としたとき、今回の配当によってどのくらいの割合の純資産が減少したかを示すものです。

別添の図表をご覧下さい。例えばA社の配当支払前の純資産が1株当たり1,000円、資本剰余金からの配当金としてA社が支払った額が1株当たり100円であれば、純資産が10%減少しているので純資産減少割合は「0.1」となります。

このとき株主としては、A社全体として株主の持ち分である純資産が10%減ったのだから、株主自身が保有している株式の取得価額も同じように10%減らす必要があるのです。これを「取得価額の調整」ないし「取得価額の減額」と呼びます。

図表のように、A社株につき資本剰余金の配当がなされ、純資産減少割合が0.1の場合、1株5,000円で購入した甲さんは、5,000円×0.1=500円だけ取得価格を減額させ、取得価額を5,000円から4,500円に修正する必要があります。同様に1株400円で購入した乙さんは、400円×0.1=40円を減額し、新しい取得価額は360円となります。

売ってもないのに利益や損失が勝手に発生する!

もう1つ、「みなし譲渡損益」の計算をする必要があります。これは、自身の持ち株のうち純資産減少割合の分だけ譲渡し、その対価として資本剰余金からの配当を受け取ったと考えて譲渡損益を計算する規定です。

上の例のように純資産減少割合0.1であれば、持ち株のうち10%を譲渡したとみなし、資本剰余金からの配当金をそれに対する収入金額とします。

図表をご覧下さい。資本剰余金からの配当金が1株当たり100円であった場合、甲さんは収入金額100円に対し、譲渡したとみなされる部分の取得価額に該当するのが減額した500円ですから、「100円-500円」でマイナス400円、つまり400円のみなし譲渡損が生じます。

一方、乙さんは収入金額100円に対して減額する取得価額は40円なので、「100円-40円」となってプラス60円、つまり60円のみなし譲渡益が生じることになります。

一般口座では取得価額の調整もみなし譲渡損益の計算も自分で行わなければならない

この「取得価額の調整(減額)」と「みなし譲渡損益の計算」を行わないと、資本剰余金からの配当を受け取った際の正しい税金計算ができません。

この点についての証券会社の対応は異なるようですが、楽天証券の場合は以下のような取扱になっています。

  • 一般口座での保有株式
    • 取得価額の調整(減額)…証券会社では行わない
    • みなし譲渡損益の計算…証券会社では行わない
  • 特定口座での保有株式(源泉徴収あり口座、なし口座のいずれも)
    • 取得価額の調整(減額)…証券会社にて行う
    • みなし譲渡損益の計算…証券会社では行わない(特定口座内の譲渡損益にはならない)

つまり、一般口座での保有株式について資本剰余金からの配当があった場合、取得価額の調整もみなし譲渡損益の計算も自分自身で行う必要があるということです。

特定口座での保有株式であれば、取得価額の調整は証券会社で行ってくれますが、みなし譲渡損益の計算は自らが行わなければなりません。

もし、みなし譲渡益が生じていた場合、確定申告して税額を納付すべきところそれを放っておくと脱税ということにもなりかねません。後日追及されて「知らなかった」では済まされませんので、みなし譲渡損益がどれくらい生じるかは計算しておきましょう。

次回は、実際に資本剰余金からの配当が実施された銘柄のうち、特徴的なケースにつきご紹介し、注意点をまとめてみたいと思います。