勝敗を分けるのは総獲得票数ではない

 米国における有権者は、事前に登録した18歳以上の国民です。投票は州ごとに行われ、それぞれの州で勝敗が決まります。「選挙人」と呼ばれる、人口などに応じて割り当てられた人を多く獲得した候補者が勝利します。全米の総得票数で勝者が決まるわけではありません。

 州ごとに割り当てられた選挙人の数は、以下の図のとおりです。テキサス州で勝利した候補者は40人を、ニューヨーク州で勝利した候補者は28人を獲得します。全538人の選挙人のうち、過半数の270人以上を獲得した候補が勝者となります。(厳密には12月に選挙人による投票が行われて勝利が確定する)

 過去には全米の総得票数で上回ったものの、獲得した選挙人の数が下回り、負けてしまった候補者がいました。

 例えば、2016年の選挙で、クリントン氏(民主党)がトランプ氏(共和党)よりも約280万票多く獲得しましたが、選挙人数がクリントン氏232人、トランプ氏306人となり、クリントン氏は敗退しました。あくまでも「270人以上」の選挙人を獲得することが、勝利の条件なのです。

 両候補者とも獲得した選挙人が過半数に満たない269人の同数だった場合は、翌年1月招集の下院による投票で大統領を選ぶこととなります。票は州単位でまとめられ、当選には50州の過半数となる26票が必要とされています。

図:米国各州の支持状況(10月27日時点)

出所:Real Clear Politicsのデータを基にMap Chartを用いて筆者作成

 リアル クリア ポリティクスによれば、10月27日時点でハリスは215人、トランプ氏は219人を獲得することが予想されています。色が濃ければ濃いほど、予想の確度が高いことを示しています。

 激戦のため、まだ予想できる状態にない8つの州の選挙人の合計は103です(これにネブラスカ州の1地区を加えると104)。今まさに、この103人の選挙人をめぐる攻防が繰り広げられています。

「激戦州」はトランプ氏優勢に方向転換中

 米国の大統領選挙では「激戦州」が存在します。先ほど述べた8つの州です。このうち、米国中西部にある五大湖周辺のペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン、ミネソタの四つは「さび付いた地域」を意味するラスト(rust)ベルトに位置します。

 また、米国西部のアリゾナ、ネバダ、米国東部のノースカロライナ、ジョージアの四つは、東西にのびる非白人が多く居住する「サンベルト」と呼ばれる地域に位置します。

 自動車(デトロイトなど)、鉄鋼(ピッツバーグなど)、石炭(アパラチア炭田など)を擁するラストベルトでは伝統的産業の衰退が進行する中で、いかに白人労働者の支持を取り付けるかが、サンベルトでは、いかに黒人やヒスパニック系の人々の支持を取り付けるかが、同地域での勝利のカギになります。

 こうした激戦州は選挙人の数が比較的多いため両候補者は、何としてでも勝利したいと思っています。激戦州で勝利することが、最終的な勝利を呼び込む、という構図です。

図:激戦州の支持状況(8月1日~10月27日)

出所:Bloombergのデータより筆者作成

 先ほど、10月中旬以降、ハリス氏の支持率が低下し、高水準を維持していたトランプ氏とほとんど横並びになったと書きました。複数の激戦州でその傾向が改めて確認できます。ペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン、ネバダ、ジョージアなどがそれにあたり、いずれも、トランプ氏の追随を許す格好となっています。

 バイデン政権の考えを引き継ぐハリス氏は、トランプ氏から「三年半、何もしなかった」と幾度となく酷評されています。多様性を求める方針が、政策の決定と実行を遅らせていることは否定できません。

 また、ガザ地区での戦闘に抗議する声に対し、ハリス氏が突き放すような発言をしたため、アラブ系住民からのイスラエル支援の姿勢を変えないバイデン政権への不満が大きくなりました。

 投開票日が迫る中、ハリス氏が背負っているバイデン政権の考え方が足かせになっていることが、トランプ氏を有利にしていると言えそうです。