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著者の吉田 哲が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「大激戦!米大統領選挙で世界分裂は直らない」
米大統領選挙、選挙戦の日数は残りわずか
11月5日は米大統領選挙の投開票日です。4年に1度、11月の第1月曜日の翌火曜日に実施される同選挙は、民主主義を是とする西側の超大国であり、権威的な国々が多い非西側諸国とのパイプを広く持つ米国のリーダーを決める選挙として、大変に注目が集まります。
以下は、共和党の候補者であるトランプ氏と民主党の候補者であるハリス氏の、世論調査における平均支持率の推移です。
図:トランプ氏とハリス氏の世論調査の平均支持率(10月27日まで)
同データは米国の調査会社であるリアル クリア ポリティクス(Real Clear Politics)が、数種類から数十種類の世論調査を平均化したものです。10月27日時点でトランプ氏が48.5ポイント、ハリス氏が48.4ポイントと、ほとんど同じです。
7月下旬にバイデン氏に代わって民主党の候補者となったハリス氏は、10月初旬まで選挙戦を優位に進めてきました。しかし、同中旬以降、支持率が低下し、高水準を維持していたトランプ氏とほとんど横並びになりました。
大接戦の選挙戦を経ていよいよ来週11月5日の投開票日を迎えます。選挙結果はどうなるのでしょうか。それによってコモディティ(国際商品)価格はどう推移するのでしょうか。
勝敗を分けるのは総獲得票数ではない
米国における有権者は、事前に登録した18歳以上の国民です。投票は州ごとに行われ、それぞれの州で勝敗が決まります。「選挙人」と呼ばれる、人口などに応じて割り当てられた人を多く獲得した候補者が勝利します。全米の総得票数で勝者が決まるわけではありません。
州ごとに割り当てられた選挙人の数は、以下の図のとおりです。テキサス州で勝利した候補者は40人を、ニューヨーク州で勝利した候補者は28人を獲得します。全538人の選挙人のうち、過半数の270人以上を獲得した候補が勝者となります。(厳密には12月に選挙人による投票が行われて勝利が確定する)
過去には全米の総得票数で上回ったものの、獲得した選挙人の数が下回り、負けてしまった候補者がいました。
例えば、2016年の選挙で、クリントン氏(民主党)がトランプ氏(共和党)よりも約280万票多く獲得しましたが、選挙人数がクリントン氏232人、トランプ氏306人となり、クリントン氏は敗退しました。あくまでも「270人以上」の選挙人を獲得することが、勝利の条件なのです。
両候補者とも獲得した選挙人が過半数に満たない269人の同数だった場合は、翌年1月招集の下院による投票で大統領を選ぶこととなります。票は州単位でまとめられ、当選には50州の過半数となる26票が必要とされています。
図:米国各州の支持状況(10月27日時点)
リアル クリア ポリティクスによれば、10月27日時点でハリスは215人、トランプ氏は219人を獲得することが予想されています。色が濃ければ濃いほど、予想の確度が高いことを示しています。
激戦のため、まだ予想できる状態にない8つの州の選挙人の合計は103です(これにネブラスカ州の1地区を加えると104)。今まさに、この103人の選挙人をめぐる攻防が繰り広げられています。
「激戦州」はトランプ氏優勢に方向転換中
米国の大統領選挙では「激戦州」が存在します。先ほど述べた8つの州です。このうち、米国中西部にある五大湖周辺のペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン、ミネソタの四つは「さび付いた地域」を意味するラスト(rust)ベルトに位置します。
また、米国西部のアリゾナ、ネバダ、米国東部のノースカロライナ、ジョージアの四つは、東西にのびる非白人が多く居住する「サンベルト」と呼ばれる地域に位置します。
自動車(デトロイトなど)、鉄鋼(ピッツバーグなど)、石炭(アパラチア炭田など)を擁するラストベルトでは伝統的産業の衰退が進行する中で、いかに白人労働者の支持を取り付けるかが、サンベルトでは、いかに黒人やヒスパニック系の人々の支持を取り付けるかが、同地域での勝利のカギになります。
こうした激戦州は選挙人の数が比較的多いため両候補者は、何としてでも勝利したいと思っています。激戦州で勝利することが、最終的な勝利を呼び込む、という構図です。
図:激戦州の支持状況(8月1日~10月27日)
先ほど、10月中旬以降、ハリス氏の支持率が低下し、高水準を維持していたトランプ氏とほとんど横並びになったと書きました。複数の激戦州でその傾向が改めて確認できます。ペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン、ネバダ、ジョージアなどがそれにあたり、いずれも、トランプ氏の追随を許す格好となっています。
バイデン政権の考えを引き継ぐハリス氏は、トランプ氏から「三年半、何もしなかった」と幾度となく酷評されています。多様性を求める方針が、政策の決定と実行を遅らせていることは否定できません。
また、ガザ地区での戦闘に抗議する声に対し、ハリス氏が突き放すような発言をしたため、アラブ系住民からのイスラエル支援の姿勢を変えないバイデン政権への不満が大きくなりました。
投開票日が迫る中、ハリス氏が背負っているバイデン政権の考え方が足かせになっていることが、トランプ氏を有利にしていると言えそうです。
トラでもハリでも、金・原油は高止まりか
トランプ氏、ハリス氏が新しい米大統領になった時に想定される、コモディティ(国際商品)相場への影響を考えます。以下は筆者が考えるイメージです。
米大統領は良くも悪くも世界全体に甚大な影響を与える存在です。このため、各種コモディティ相場もその影響を受けます。とはいえ、米大統領がもたらす影響だけがコモディティ相場を動かす材料ではありません。以下だけで相場動向を判断することができないことを、念頭に置く必要があります。
図:新しい米大統領によるコモディティ銘柄への主な影響(筆者イメージ)
傍若無人なふるまいが絶えないトランプ氏はある意味で「有事製造機」です。彼の存在は、金(ゴールド)相場には有事ムードを強める意味で上昇要因になり得ます。
また、トランプ氏はSNSに、輸出産業にとって「ドル高・円安は大惨事だ」という趣旨の投稿をしたり、FRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策に対して大統領が発言権を持つべきだと主張したりしていることから、利下げが段階的に進行する可能性がります。この点も、金(ゴールド)相場に上昇要因になり得ます。
ただし、「電話一本」でウクライナ戦争を終わらせることができると豪語しているため、本当に電話一本で世界に懸念を振りまいている戦争の一つを終わらせることができれば、有事ムードの後退という意味で金(ゴールド)相場に下落圧力がかかり得ます。
原油や天然ガスなどのエネルギーについては、パリ協定を再度離脱する可能性があり、原油や天然ガスの需要が増加してこれらの相場に上昇圧力がかかり得ます。同時にイランに対する強硬姿勢が強まり、イランを取り巻く情勢が緊迫化してこれらの相場への上昇圧力が強まる可能性があります。
非鉄は米中貿易戦争が激化し、中国の景況感が鈍化して同品目の相場に下落圧力がかかる、穀物については「電話一本」でウクライナ戦争が終わった場合、穀物の供給懸念が低下して相場に下落圧力がかかる可能性があります。
ハリス氏が大統領になった場合は、基本的に現政権の考え方が続く可能性があることから、非鉄、穀物については大きな環境の変化は起きない可能性がります。エネルギーについては、EV(電気自動車)一辺倒からハイブリッド車に移行する「ハイブリッドシフト」が進行し始めたため、今後は今よりも需要が増加し、相場に上昇圧力がかかる可能性があります。
懸念されるのが、現政権の考え方を踏襲することで、決められない・実行できない政治が継続する懸念があることです。このことは、次で述べる米国の「自由民主主義指数」が回復しないことに関連します。
米国の自由民主主義指数は回復せず
V-Dem研究所(スウェーデン)は、世界各国の民主主義に関わる情報を数値化して多数の指数を公表しています。自由民主主義指数もその一つです。この指数は0と1の間で決定し、0に接近すればするほど、その国が自由で民主的な度合いが低いことを、1に接近すればするほど自由で民主的な度合いが高いことを意味します。
以下のグラフは、米国の同指数の推移です。東西冷戦のさなか、米国は自由で民主的な姿勢を強めていきました。旧ソ連や旧ソ連と考え方を同じくする国と明確な差が生じる中で、同指数は目立った上昇を演じました。2001年に同時多発テロ発生をきっかけとした混乱によって、一時的に反落したものの、その後は反発して0.85近辺という高い水準を維持しました。
しかし、米大統領選挙でトランプ氏が勝利した2016年を境に急低下しました。彼の勝利は、民主主義の対局にある分断を利用したものだったといわれています。同指数の推移は、彼の横暴ぶりが米国の民主主義を大きく傷つけたことを、如実に示しています。
民主主義を取り戻すことを前面に打ち出し、2020年にバイデン氏が大統領選挙で勝利しました。これを期に、同指数は元の高水準に戻ることが期待されましたが、いまなお回復途上にあります。
図:米国の自由民主主義指数(1963年~2023年)
ハリス氏は、トランプ氏を「米国の民主主義を毀損した」と批判しています。たしかに彼はその批判を受け入れなければならないでしょう。ただし同時に彼女は、現政権で米国の民主主義を十分に回復させることができていないことを受け入れる必要があるでしょう。
現政権下で米国の民主主義が回復途上だったことを考えれば、今回の大統領選挙で現政権の考え方を引き継ぐハリス氏が勝利したとしても、十分な回復が望めない可能性があります。米国の民主主義の低迷は、世界全体の問題でもあります。
民主主義を正義とする西側の超大国である米国の民主主義の低迷は、2010年ごろから続く、世界全体の民主主義の低下を加速させる可能性があります。引いてはそれが、戦争を拡大させたり、非西側の資源の出し渋りを拡大させたりするおそれがあります。
ハリス氏に対して「トランプ氏よりクリーン」という印象を抱く有権者は多いかもしれませんが、彼女が勝利しても、長期視点の世界規模の混乱が続く可能性がある点に、留意が必要です。
図:2010年ごろ以降の世界分断発生とコモディティ(国際商品)価格上昇の背景
やがて投開票日が到来し、いずれ結果は出ます。どちらが新しい大統領になろうとも、長期視点で相場と向き合い続けることが大切です。長い米国の歴史の一場面に立ち会っている、という気概で注視していきたいと思います。
[参考]積立ができる貴金属関連の投資商品例
純金積立(当社ではクレジットカード決済で購入可能)
投資信託(当社ではクレジットカード決済、楽天ポイントで購入可能。以下はNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)成長投資枠対応)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
三菱UFJ 純金ファンド
ゴールド・ファンド(為替ヘッジなし)
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