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著者の松田 康生が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
なぜ暴落?大丈夫?~8月のビットコイン見通し~

7月のビットコインイベント

NEW! 7月5日 Mt.GOX、14万BTC弁済開始
NEW! 7月16日 独当局、5万BTC売却完了
NEW! 7月23日 ETH ETFローンチ
NEW! 7月28日 トランプ氏、BTCを外貨準備(戦略準備資産)に

*2024年1月以降の主なビットコインイベントは記事最終ページにまとめています。
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材料面から見た8月見通し

7月の振り返り

7月のビットコイン価格(円)とイベント

出典:Trading Viewより楽天ウォレット作成

 7月のBTC相場は6月に続きレンジ内で上限・下限に跳ね返される展開を続けたが、8月に入り急落している。

 買いの一因は「もしトラ」のトレード。詳細は別稿に譲るが、6月27日のTV討論会でバイデン氏の覇気がなく、トランプ氏優位が鮮明となるとBTCに買いが集まった。また、7月14日のトランプ氏暗殺未遂を機に大統領選の帰趨(きすう)は決したとの見方から「ほぼトラ」としてBTC買いが優勢となった。

 16日のインタビューでトランプノミクスは低金利・低課税・ドル安だと明らかになり、同氏が暗号資産を推さなくともBTC買いになるという見方が広がった。さらに、7月27日のビットコインカンファレンスでゲンスラー証券取引委員長の解任とBTCを米国の戦略準備資産とすることを明言、BTCは7万ドルにワンタッチした。

 一方で独当局やMt.GOX(マウント・ゴックス:2014年に大量のビットコインを失ったことをきっかけに破綻した、東京都に拠点を構えるビットコイン交換所)の売り(懸念)が相場の重しとなった。

 独当局は押収した5万BTCの売却を開始して、特に7月8日からの5営業日で4万BTC売りが集中した。また、Mt.GOXは保有する14万BTCの債権者への弁済を開始。7月5日、16日、24日、31日に委託先の交換所などにBTCを送金したが、ブロックチェーン分析企業がその移動を報告するたびに市場に動揺が走った。ただし、4万BTCを売り浴びせても市場は底堅く推移した。

 また、14万BTCの売り圧力もふたを開けてみれば弁済を受けた投資家の売りの影響はほとんど見られず、結局、こうした懸念は杞憂(きゆう)に終わった。

FF先物利下げ織り込み回数

Bloombergから楽天ウォレット作成

 そして、金融政策はポジティブに働いた。7月1日のCPI(消費者物価指数)は弱く、9月利下げが確実視される中、31日のFOMC(米連邦公開市場委員会)後の会見では条件付きながら市場の織り込みを追認する形となり、BTCの追い風となった。

 しかし、8月1日のISM(米サプライマネジメント協会)製造業、2日の雇用統計と連続で景気減速を示唆する内容になった。市場は9月FOMCでの0.5%を織り込み始め、それを催促するかのように米株が失速し、リスクオフの流れからBTCは値を崩した。

 さらに、円安阻止の声に応えるかのように日本銀行が利上げを開始。急ピッチで円高が進む中、日本株が3日で2割暴落し、リスクオフが強まりBTCも8月に入り2割強の急落となった。

 この下落は、株安によるリスクオフに加え、二つの懸念が重なった格好だ。

 一つ目は、ハリス氏の追い上げだ。7月を通じ「もしトラ」から「ほぼトラ」で買われてきたBTCだが、21日にバイデン氏が撤退、後継候補にハリス氏を指名したことで潮目が変わった。

 同氏は元々不人気で、それ故、バイデン氏が高齢を押して選挙戦を戦ったという経緯があったのだが、バイデン氏の失点でほぼ諦めかけていた民主党内がハリス氏擁立で勢いづき、ついには支持率で拮抗(きっこう)するに至った。

 ただ、ハリス氏は招待されたビットコインカンファレンス登壇を固辞、暗号資産に対する姿勢を明らかにしていない。暗号資産に対し、民主党内は厳しい対応を見せてきた左派と融和的な穏健派に党内でも態度が分かれている。そうした中、バイデン氏より左寄りのハリス氏の台頭がBTC相場の重しとなっている。

 二つ目は中東情勢の悪化だ。イスラエルはベイルートを空爆、ヒズボラ幹部を殺害した。さらに、ハマスの幹部がイランのテヘランでミサイルで暗殺された。イスラエルは犯行声明を出していないが、新大統領の就任式のために訪れていた要人を国内で堂々と暗殺し、イランの最高指導者はイスラエルに対して報復を命じている。

 4月にイスラエルがシリア国内のイラン大使館を爆撃した際には、イランが事前通告の上で形式的な報復を実施。イスラエルの再報復にも反応せず大人の対応を行った。ただ、度重なる挑発行為にイランが本格的に報復し、中東戦争や世界大戦に飛び火するリスクを市場は懸念している。

8月見通し

 8月月初の株安について米景気悪化に伴うリスクオフという説明が多い。ISMの46.8やNFPの11.4万人や失業率の4.3%は景気のピークアウトを示唆する数字だが、パニック売りするほどのリセッションが生じている訳ではない。

 また、従来は悪い経済指標に対して利上げ期待からリスクオンで反応をする、いわゆる金融相場だったが、それが景気悪化を懸念して悪い数字にネガティブに反応する業績相場入りしたという声も聞かれる。

 しかし、今回のリスクオフは利下げ催促相場で、言い換えれば、株価が低迷するとFRB(米連邦準備制度理事会)が金融緩和で支えてくれる、いわゆるパウエルプットを試しに行っているからこその値動きと考える。市場は9月のFOMCで25bpではなく50bpの利下げを求め、足元ではもっと要求水準が上がり、緊急利下げを求める声まで聞こえている。

 果たしてFRBがその要求に応えるかと言えば、やや疑問だ。日本株こそ危機的な下げ方をしているが、米株は史上最高値から7%下げているだけだ。この程度の下げに緊急利下げで対応するのはいささか大げさだ。まさに9月FOMCまでは時間があるので、CPIが2回、雇用統計ももう1回あるので、それらの数字を見極めてから利下げ幅を決定するものと思われる。

BTC/JPY

出典:Trading Viewより楽天ウォレット作成

 実は、BTCはローンチ当初を除いて本格的なリセッションを経験していない。ただ2020年のコロナショックの際は、当初は株と一緒に暴落したが、無制限緩和などFRBの金融緩和を受けて反発し、その半年後に本格的な上昇相場が到来した。

 今回に当てはめれば、先々の上昇は見込めるが、景気のピークアウトが顕在化。今回で言えば、実際にFRBが動き出すまでの間の8月と9月に関しては、緊急利下げやジャクソンホールでの50bp利下げ示唆などが無い限り難しそうで、冷静に考えればそうしたことが起こる可能性も低い。

 ハリス氏の台頭も引き続き重しとなりそうだ。同氏の人気は民主党やメディアが演出している部分もあるが、実際に同氏がどういった政策を目指しているのか、意外と知られていない。

 同氏は候補指名後の演説で真っ先に労働組合問題を挙げた左派で、移民対策でもそもそも移民に来る人たちの貧困問題から解決しようとする、よく言えば理想主義者だが、移民による治安悪化に脅かされている現実から少しピントがずれている。選出当初のハネムーン期間が終わり、実際の政策論争に移るまでもう少し時間が必要で、その間はBTC相場の重しとなりそうだ。

 一方、中東情勢の行方は不透明だ。この記事が出るころには、大勢が決しているかもしれない。日本ではあまり騒がれていないが、この問題は一つ間違えれば中東戦争を引き起こしかねない。ただイランは騒ぎを大きくしたがっていないとの見方もあるが、イスラエルの挑発がエスカレートする中、いつまで大人の対応を続けられるのかは分からない。

BTC・ETH ETFフローとBTC/USD

Bloomberg・Farside Investorsより楽天ウォレット作成

 このように8月の相場の見通しは材料的にはあまり芳しくないが、明るい兆しが無いわけではない。ウィスコンシン州に続き、ミシガン州も公的年金でBTC ETF(上場投資信託)を購入し、ジャージー市も準備を始めた。

 また、マイニング大手マラソン・デジタル社や医療機器メーカーのセムラー・サイエンティフィックのように企業の運用資産にBTCを加える動きも広がってきた。そして、モルガン・スタンレーは8月7日から傘下の1.5万人のフィナンシャルアドバイザーにBTC ETFを勧誘することを認めた。こうした動きは、年後半のBTC ETFフローの第2弾につながる動きと考える。

 また、7月23日にリリースしたETH ETFだが、当初はグレースケールの私募ファンドからETFにシフトした、ETHEというファンドの売り圧力が優勢だ。これはBTC ETFローンチ時にも発生した話で、2週間程度で一服する見込みだろう。ただ、こうしたETF投資家は夏休みシーズンには不在となるので、やはり本格的な買いは早くとも9月以降となるのかもしれない。