2008年以降、米国が直面している不安の経済

 米国では経済格差によってもたらされる社会的分断の溝が深まっている。一部半導体企業やハイテク企業の時価総額が一つの国の経済を上回り、経済はうまくいっているというハッピーな話と、賃金所得者の下位90%が経験している不安と停滞の間の断絶は、2008年のGFC以降、拡大し続けている。

 経済が健全に成長し明るい未来をイメージしやすい社会では一般的な安心感が増し、不安定さに対する一般的な意識が低下する。しかし残念なことに、この仮定は米国には当てはまらない。安心感が崖から滑り落ちる一方、不安定感が急激に高まっている。

 ゼロヘッジの記事「The Anxiety Economy(不安の経済)」から一部を簡約してご紹介したい。

【経済が確実性と安定性を提供するように設計されていた時代があった。雇用は安定し、富は増大し、製品は改良を重ねるごとに純粋に良くなり、長持ちするように設計されていた。これが1800年代後半から1970年代前半を象徴していたように思われる。

1970年代以降、新製品の耐久性や有用性とともに、安定した雇用が激減するのを目の当たりにしてきた。ニュースやその他のメディアで、私たちから遠く離れた場所での住宅火災や慢性疾患、自動車事故の話を聞かされ、私たちが直面する資産や健康を失うリスクは実際よりもはるかに大きいと感じてしまう。だから私たちは高額な保険に加入する。

これに加えて、経済活動が、かつては家族が互いのためにしていたこと--とりわけ子育てと老老介護--を商品化する(そして課税対象とし、保険に加入させる)ことにシフトしている。私たちは、自分の世話を家族に頼れないと感じ、老後の世話を家族に頼ると、罪悪感や負担を覚える。

経済システムは現在、人々を不安にさせるように設計されている:

  • 将来のニーズを満たす能力が不確かである
  • 「耐久消費財」であるはずのものが、常に買い替えのサイクルに組み込まれている
  • ビジネスや富を築く能力が不十分である
  • リスクに過度にさらされている
  • 将来の健康や介護に不安がある

つまり、「不安の経済」は、多くの人々を犠牲にして少数の人々に利益をもたらしているのだ。それは、賃金労働者の購買力と安全安心を奪う一方で、所得を生み出す資産の大部分を所有する上位10%に莫大な資産インフレの富を生み出すように最適化された、破綻した搾取的経済の定義である。

現状維持に熱心な高給取りたちは、不安経済による格差の拡大を覆い隠すためのトリックをたくさん持っている。今でも不用心な人々に有効な古いトリックのひとつは、平均的な世帯収入と平均的な世帯の富を誇示することである。これはトリックだ。というのも、アメリカでは莫大な額の所得と富が富のピラミッドの頂点に達しており、これが平均所得を大きく歪めているからだ。富は上位0.1%に非常に集中している。所得と富のピラミッドの頂点を取り除くと、平均所得と富の数値は地に落ちる。

トップ0.1%が保有する金融資産の割合

出所:ゼロヘッジ

持続可能な所得の増加は実現していない。実質(インフレ調整後)個人所得の中央値をグラフで示すと、2008年の世界金融メルトダウンの後、個人所得はトレンドラインを回復していない。

米国における実質個人所得の中央値の推移

出所:ゼロヘッジ

つまり、賃金労働者は2008年のメルトダウンから回復していないのである。下位90%の苦境は統計の中で埋もれてしまう。不安経済は、上位数名にとっては著しく有益であり、それ以外の人々にとっては著しく不健全である。彼らは喜んで、不安経済を和らげる薬を処方してくれるが、薬では経済や社会秩序の破綻を解決することはできない】

 われわれは今後、社会不安、戦争、ハイパーインフレ、デフレによる資産の暴落、債務不履行など、困難な時代を迎える可能性がある。

米帝国のビッグサイクル

出所:レイ・ダリオ(リンクトイン)

「困難な時代に遭遇したとき、家族や友人を助けることは何よりも重要である。これは、私たち全員が遭遇すると思われる試練に対処するために、非常に重要になる。そして、家族や友人だけでなく、自然、本、音楽、趣味など、人生で最高のもののいくつかは無料で手に入ることを忘れないでほしい」

(フォン・グレイアーズ)

 人生には優先順位があるが、金融資産よりも思い出資産を重視すべきであろう。