利上げ判断を左右するのはあくまで経済・物価指標であることを忘れるな

 以上見てきたように、今回の「主な意見」から読み取れるメッセージは、7月に利上げするかどうかは、経済・物価指標の動向次第ということです。それらを見極めて政策を判断するというのが植田総裁のいう「普通の金融政策」であり、景気の足腰がしっかりしていなければ「物価安定の目標」が実現するという見通しの確度も高まることはありません。

 というわけで、特に注目される経済指標の現状を敷衍(ふえん)しておきたいと思います。まず、最近慎重な見方が強まっている消費関連指標から。

 図表5は景気ウオッチャー調査の「家計動向関連」現状判断DIと、消費動向調査の「消費者態度指数」です。

<図表5 マインド指標と賃金>

(出所)厚生労働省、内閣府、楽天証券経済研究所作成

 景気ウオッチャー調査は、小売店の経営者やスーパーの店長など企業サイドから聴取した指標であり、売上高に直結する名目賃金との相関が強い一方、家計サイドに聞いている消費動向調査は実質賃金との相関が強く、インフレの影響を強く受けます。いずれも足元低下しており、名目・実質賃金上昇による改善が待たれる状況となっています。

 図表6は家計調査ですが、前月比では傾向が分かりにくいので、前年比を掲載しています。4月の実質消費支出(除く住居等)は前年比0.0%まで回復してきましたが(ちなみに、前月比は0.1%)、これが5月以降プラスになるか注目されます。

<図表6 家計調査の実質・名目消費支出(除く住居等)>

(出所)総務省、楽天証券経済研究所作成

 図表7は鉱工業生産指数です。4月は前月比マイナス0.1%と2カ月ぶりに減少しましたが、予測指数は5月6.9%の増加、統計上のバイアスを経産省が調整した補正値でも2.3%の増加が見込まれています。6月の予測指数と合わせると4-6月期は前期比2.2%と計算でき、1-3月期のマイナス5.2%から回復する見通しです。

<図表7 鉱工業生産指数>

(出所)経済産業省、楽天証券経済研究所作成

 しかし、6月5日のレポートでも紹介した通り、自動車の認証不正問題に伴う一部車種の出荷停止措置によって、6月の予測指数(前月比マイナス5.6%)が下振れる可能性が高く、その影響が懸念されます。6月鉱工業生産指数は7月MPM2日目である7月31日に発表されますが、その前に6月28日に発表される6月の予測指数がどう修正されるか、確認する必要があります。

 このほか、7月1日に発表される日銀短観(6月調査)の業況判断DIが改善を続けるか、8月15日に発表される4~6月期のGDP(国内総生産)統計(1次速報値)で実質GDPがプラス成長を回復するかも重要です。

 こうした経済指標が日銀の経済・物価見通しと整合的な推移をたどっているかを確認できて初めて、「物価安定の目標」が実現するという見通しの確度が高まることになります。