大手電力10社ごとの注目ポイント

東京電力HD(9501・東証プライム)

 福島第1原発事故に伴う賠償・廃炉・除染などに係る費用負担から、当面は無配の状況が続くとみられています。また、政府出資分の優先株1兆円の潜在的な希薄化リスクを考慮すれば、株価の割安感も乏しく、中長期での積極的な投資対象にはなりにくいでしょう。

 ただ、短期的には、柏崎刈羽原子力発電所7号機(新潟県柏崎市)の再稼働期待は手掛かり材料になるとみられます。7号機が再稼働となれば、早い段階で6号機の再稼働期待にもつながるとみられます。また、東京周辺の利便性の高さから、展開エリアにはデータセンターの建設なども活発化していく余地が大きく、電力需要の拡大期待なども高まりやすい状況にあるといえます。

中部電力(9502・東証プライム)

 自己資本比率が36.4%と業界内では高い点が特徴となります(次位は関西電力の25.2%)。浜岡原発(静岡県御前崎市)の再稼働が見通せる状況となれば、ROE(自己資本利益率)向上に向けた資本政策の見直しなども期待できることになります。現状の株主還元策として、会社側では配当性向30%を目標としています。

 浜岡原発の審査に関しては、基準地震動はおおむね妥当との判断を受領し、基準津波についても大詰めの段階とみているようです。ほか、セクター内における年初からの株価の出遅れ感が意識されるほか、中期的には、EV(電気自動車)普及に伴う、トヨタグループ向けの電力需要拡大なども想定されるでしょう。

関西電力(9503・東証プライム)

 電力会社で最大の原発7基体制が確立されており、安定した稼働状況にもなっています。コスト競争力の強みから、中期的な電力需要の増加局面においての収益拡大期待も相対的に高いと考えられます。

 関西エリアは電力供給力の高さや大都市に近いことなどから、データセンターの立地条件として適しているとも指摘されています。今後、電力需要が期待以上に膨らんでいく可能性などもあるでしょう。

 また、同社では現在、株主還元方針などに定量目標がありません。次回の中期経営計画ではROE目標なども設定される可能性があり、それに伴う株主還元余地の拡大も今後の株価上昇要因になると判断されます。

中国電力(9504・東証プライム)

 もともと島根原発2号機(松江市)を2024年8月に再稼働する計画でしたが、安全対策工事の長期化から、再稼働時期を12月に延期しています。再稼働の確度が高まることによって、株価の見直しの動きも強まってくるでしょう。

 2025年3月期の減配計画も株価下落によって十分に織り込まれたとみられます。会社側では、現在審査中の3号機も、2028年度をめどに安全対策工事を完了させ、2030年度までの稼働を目指すことを明らかにしています。

 4月30日に発表した経営計画では、2026年3月期末の自己資本比率15%以上(2024年3月期末14.6%)を目指すとし、達成以降は、現在の配当性向10%を引き上げる方針としています。

北陸電力(9505・東証プライム)

 1月の能登半島地震の影響によって、志賀原発2号機(石川県志賀町)の再稼働時期には不透明感がより強まる状況となってしまっています。東日本大震災以降の株価の戻りは、東京電力HDに次いで出遅れている状況にありますが、株価の本格上昇に向けた材料には目先やや欠けるものとみられます。

 電力セクターの中では、北陸地方の豊富な水資源を生かし、水力発電の比率が高いことが特徴になります。2024年3月期は発電電力量の23.8%を占めています。石炭価格など火力発電の燃料費上昇局面などでは、相対的なディフェンシブ性に注目が向かう状況もありそうです。

東北電力(9506・東証プライム)

 現在停止中の原子力発電所の中では、同社の女川原発2号機(宮城県女川町)の再稼働が最も早いタイミングになるとみられています。会社側では9月中の再稼働を予定しているもようです。

 また、もともとエリア的に成長期待などは高まりにくい状況でしたが、ここにきて、東日本での需要増加に対するメリットを期待する声も高まってきているようです。東京電力HDが管轄する関東エリアでは、データセンターの新増設がなされるなど、今後の需要拡大期待が高い状況です。

 同エリアとは、同じ周波数で系統がつながっているため、同社にとっても、エリア外での電力販売を増やすことで、需要の拡大が望める可能性が高まっています。

四国電力(9507・東証プライム)

 伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の安定した稼働状況が続く中、設備投資もピークアウトしていることで、利益水準の回復、さらにはキャッシュフローの創出力が高まっている点が注目できます。2025年3月期は前期比10円増の40円配当計画ですが、2026年3月期にも段階的な増配が期待されます。

 会社側では4月に、中期経営計画最終年度の2026年3月期目標を、経常利益350億円以上から400億円以上に、ROEを7%程度から8%程度にそれぞれ引き上げています。次期中計におけるROE水準などへの期待も高まりやすそうです。西日本の電力需要増加に伴う他社販売量の増加なども想定されます。

九州電力(9508・東証プライム)

 TSMCを中心とした半導体工場の投資計画増大を背景に、九州エリアにおける電力需要の増加ポテンシャルは非常に高いと注目されます。TSMCでは熊本第2工場を2024年末までに着工し、2027年10~12月の出荷開始を目指しています。

 また、熊本県知事は、第3工場も県内に誘致したい意向を示しています。原発も4基全てが再稼働しており(川内1号機は検査中で8月29日再開予定)、収益面でのインパクトに対する期待も高いとみられます。

 ほか、株価上昇にもかかわらず、セクター内では相対的に配当利回り水準が高くなっています。中期計画で掲げた50円配当復帰も2025年3月期中に達成可能となっています。

北海道電力(9509・東証プライム)

 2024年に入ってからの株価上昇率はセクター内で最も高い水準となっています。ただ、東日本大震災前水準までの回復後は達成感から調整しており、押し目買いの好機とも捉えられます。

 ラピダス新工場などの半導体工場やデータセンターの新設による電力需要の増加期待は他のエリアと比較しても高く、さらに泊原発の再稼働なども今後の期待材料として控えています。

 ラピダス工場の量産開始は2027年とみられており、泊原発3号機の再稼働(2027年終盤~2028年見込み)は間に合わない可能性もありますが、会社側では当初は既存の電源で供給力は確保できるとしています。安全対策投資負担増は目先のリスク要因です。

沖縄電力(9511・東証プライム)

 沖縄本島を含む38の有人の島々に電力を供給しており、他社との送電線の連系などはありません。また、原子力・水力発電所を保有しておらず、化石燃料に頼る電源構成となっています。

 2024年3月期は6年ぶりの増収増益となり、2025年3月期は電力業界で唯一の増益見通しとなっています。中期計画として、2026年3月期経常利益120億円以上、ROE5%以上を目指しています。株主還元としてはDOE(株主資本配当率)2.0%以上を目指しています。