電力需要の成長期待で株価の明暗分かれる状況に

(表)電力各社の株価指標

コード 銘柄 株価
(6/21)
時価総額
(億円)
騰落率A
(%)
騰落率B
(%)
配当利回り
(%)
PBR
(倍)
9501 東京電力HD 843.5 13,555 14.22 ▲60.23 0.00 0.54
9502 中部電力 1,866 14,144 2.44 ▲12.35 3.22 0.55
9503 関西電力 2,747 25,787 46.74 29.03 2.18 1.08
9504 中国電力 1,047.5 4,055 4.07 ▲39.28 0.95 0.62
9505 北陸電力 1,023.5 2,152 39.52 ▲49.71 1.47 0.69
9506 東北電力 1,402 7,050 46.21 ▲25.66 2.14 0.85
9507 四国電力 1,385.5 2,875 36.70 ▲44.67 2.89 0.79
9508 九州電力 1,651 7,828 61.70 ▲12.09 3.03 1.14
9509 北海道電力 1,282 2,760 105.25 ▲26.91 1.56 0.97
9511 沖縄電力 1,100 626 ▲1.35 ▲10.98 1.82 0.51
(注)騰落率Aは年初来、騰落率Bは2011年3月11日比

 国内の電力株は従来、配当利回りが株価を形成する主な材料となっていました。ただ、2011年3月には東日本大震災が発生し、東京電力の福島第1原発で「メルトダウン(炉心溶融)」が生じる事態となりました。

 国内の全ての原発は震災を受けていったん、稼働停止となり、その後は原発の再稼働期待の有無などが株価の重要な手掛かり材料とされる状況にもなりました。そして足元では、電力需要の成長期待で、電力会社ごとに株価の明暗が分かれるような展開となってきています。

 年初からの株価上昇率が高いは北海道電力(9509)九州電力(9508)です。共に今後の電力需要拡大期待が高まる状況になっているためです。

 北海道では国内半導体新会社ラピダスが新工場を建設中、九州では半導体受託生産世界最大手のTSMC(台湾積体電路製造)の熊本工場が2024年2月に完成しています。TSMCでは熊本で第2工場を建設することも決定しています。

 半導体の生産には大量の電力が消費され、ラピダス工場が本格稼働した場合には、北海道の電力需要の1~2割を占める可能性があるとも指摘されています。また、これら地域が半導体産業の集積地になっていくとも想定され、中期的にはデータセンターの建設なども活発化していくと期待されているようです。

 一方、東日本大震災が発生した2011年3月11日時点との比較では、関西電力(9503)のみ当時の水準を上回ってきています。相対的に原発の再稼働がスムーズに進んだことなどが背景として挙げられるでしょう。それに伴って、足元の収益水準も相対的に高水準が目立ちます。

 ちなみに、年初から大きく上昇した北海道電力もいったん震災前水準にまで回復しましたが、その後は達成感などが生じている形です。PBR(株価純資産倍率)でみても、これら3銘柄が1倍前後の水準に達している状況です。

(表)電力各社の業績と配当金の推移

コード 銘柄 経常利益
(百万円)
配当金
(円)
2023.3 2024.3 2025.3 2023.3 2024.3 2025.3
9501 東京電力HD ▲2,853 4,255 - 0 0 0
9502 中部電力 651 5,092 2,150 50 55 60
9503 関西電力 ▲66 7,659 3,600 50 50 60
9504 中国電力 ▲1,067 1,940 650 0 35 10
9505 北陸電力 ▲937 1,079 450 0 7.5 15
9506 東北電力 ▲1,992 2,919 1,900 0 15 30
9507 四国電力 ▲225 800 480 0 30 40
9508 九州電力 ▲866 2,381 1,100 0 25 50
9509 北海道電力 ▲292 873 370 0 20 20
9511 沖縄電力 ▲487 25 68 0 10 20
(注)2025.3期は会社予想、-は非公表

 電力各社は2023年3月期にそろって収益を悪化させ、中部電力(9502)を除いて経常赤字を計上しています。石炭など火力発電向けを中心とした燃料費の上昇が背景で、電力販売が「逆ザヤ」状態となりました。一方、2024年3月期は一斉に収益が回復し、各社ともに経常黒字に転換しています。燃料価格の低下に加えて、電力料金引き上げの効果なども顕在化したようです。

 ただ、2025年3月期は沖縄電力(9511)を除いて全社が大幅減益計画となっています。燃料価格の底打ちや値上げ効果の一巡などを見込んでいるようです。ただ、中国電力(9504)を除いて各社が配当金の増配を計画(北海道電力は横ばい)しているように、実質的に事業環境は落ち着いたと捉えている印象も受けます。

原発再稼働が今後の収益向上要因に

(表)電力会社別原発運転状況

コード 銘柄 2010 2023 運転中 停止中
9501 東京電力HD 28 0   柏崎刈羽1-7
9502 中部電力 15 0   浜岡3-5
9503 関西電力 51 44 美浜3、大飯3-4、高浜1-4  
9504 中国電力 3 0   島根2
9505 北陸電力 28 0   志賀1-2
9506 東北電力 26 0   東通1、女川2-3
9507 四国電力 43 20 伊方3  
9508 九州電力 39 33 玄海3-4、川内2 川内1
9509 北海道電力 44 0   泊1-3
9511 沖縄電力 0 0    
(注)2010、2023は年度で、原発の電源構成比(%)

 現在、国内の上場電力会社の中では、関西電力、四国電力、九州電力(一部定期検査中)は全ての原発が再稼働している一方、東京電力ホールディングス、中部電力、中国電力、北陸電力、東北電力、北海道電力はまだ再稼働に至っていません。これらの電力会社にとって、原発再稼働は今後の収益向上要因につながっていくでしょう。

 未稼働原発の中で現在、原子力規制委員会の新規制基準に係る適合性審査で正式な許可を得ているものは、柏崎刈羽6、7号機、女川2号機となります。目先は再稼働への期待感が続く状況と考えられます。