生成AI普及に伴い、電力消費拡大への期待高まる

 生成AI(人工知能)の普及による電力需要の拡大を背景に、電力株に対する関心が高まっています。テキストや音声、画像などのコンテンツを作成することができる生成AIの学習には、従来のAIと比較してより巨大なCPU(中央処理装置)やGPU(画像処理装置)が必要となってきます。

 また、膨大なデータを計算処理するために、こうした装置を複数搭載したサーバーなどを、まとめて設置・運営するデータセンターのニーズも高まっています。

 電力中央研究所の予測によると、データセンターの日本の電力消費は、2021年の200億キロワット時から、2040年には最大で1,050億キロワット時まで増えるとされているようです。これにより、日本全体での電力消費量も2021年の9,240億キロワット時から2050年には最大で37%増えると予測されています。

 世界的に見ても、2026年の電力消費量は2022年の2倍超に膨らむとIEA(国際エネルギー機関)が試算しています。こうした中、データセンター容量が世界で約半分を占めるとされる米国でも、電力需要の増加期待から電力株の一角が高騰しています。

 原発・再生可能エネルギー企業であるコンステレーション・エナジー(CEG)は株価がここ1年で141.40%の上昇。電力小売りや原子力発電事業などを手掛けるビストラ・コープ(VST)は246.06%の上昇。天然ガスや石炭を主電源とするNRGエナジー(NRG)は130.67%の上昇となっています。

 国内電力株の一角でも年初から上昇が目立つものもありますが、データセンターの建設が今後も活発化していくとみられること、原発再稼働による収益向上余地が大きいことなどから、一段の水準訂正余地は大きいと考えられます。

 欧州議会選挙での極右政党・国民連合(RN)の勝利を受けて、フランスのマクロン大統領は国民議会(下院)の解散・総選挙実施を発表しています。総選挙は6月30日に第1回投票、7月7日に決選投票が行われる予定です。

 現状では極右の首相誕生の可能性が高いとみられ、EU(欧州連合)が推し進める「脱炭素」政策の後退につながっていく可能性も高いでしょう。

 ちなみに、今回の欧州議会選挙では、厳しすぎる環境政策への不満を反映してか、「緑の党」が大敗する形にもなっています。

 また、今年は米国大統領選挙も行われますが、トランプ候補は石油・天然ガス産業を後押しすると主張しており、気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」からの再度の脱退も視野に入れていると考えられます。

 こうした欧米における環境政策の変化の可能性は、国内の電力株にとってはポジティブな方向に働くと判断されます。再生可能エネルギー普及策の後退、それに伴う原発推進への機運につながるとみられるためです。

電力需要の成長期待で株価の明暗分かれる状況に

(表)電力各社の株価指標

コード 銘柄 株価
(6/21)
時価総額
(億円)
騰落率A
(%)
騰落率B
(%)
配当利回り
(%)
PBR
(倍)
9501 東京電力HD 843.5 13,555 14.22 ▲60.23 0.00 0.54
9502 中部電力 1,866 14,144 2.44 ▲12.35 3.22 0.55
9503 関西電力 2,747 25,787 46.74 29.03 2.18 1.08
9504 中国電力 1,047.5 4,055 4.07 ▲39.28 0.95 0.62
9505 北陸電力 1,023.5 2,152 39.52 ▲49.71 1.47 0.69
9506 東北電力 1,402 7,050 46.21 ▲25.66 2.14 0.85
9507 四国電力 1,385.5 2,875 36.70 ▲44.67 2.89 0.79
9508 九州電力 1,651 7,828 61.70 ▲12.09 3.03 1.14
9509 北海道電力 1,282 2,760 105.25 ▲26.91 1.56 0.97
9511 沖縄電力 1,100 626 ▲1.35 ▲10.98 1.82 0.51
(注)騰落率Aは年初来、騰落率Bは2011年3月11日比

 国内の電力株は従来、配当利回りが株価を形成する主な材料となっていました。ただ、2011年3月には東日本大震災が発生し、東京電力の福島第1原発で「メルトダウン(炉心溶融)」が生じる事態となりました。

 国内の全ての原発は震災を受けていったん、稼働停止となり、その後は原発の再稼働期待の有無などが株価の重要な手掛かり材料とされる状況にもなりました。そして足元では、電力需要の成長期待で、電力会社ごとに株価の明暗が分かれるような展開となってきています。

 年初からの株価上昇率が高いは北海道電力(9509)九州電力(9508)です。共に今後の電力需要拡大期待が高まる状況になっているためです。

 北海道では国内半導体新会社ラピダスが新工場を建設中、九州では半導体受託生産世界最大手のTSMC(台湾積体電路製造)の熊本工場が2024年2月に完成しています。TSMCでは熊本で第2工場を建設することも決定しています。

 半導体の生産には大量の電力が消費され、ラピダス工場が本格稼働した場合には、北海道の電力需要の1~2割を占める可能性があるとも指摘されています。また、これら地域が半導体産業の集積地になっていくとも想定され、中期的にはデータセンターの建設なども活発化していくと期待されているようです。

 一方、東日本大震災が発生した2011年3月11日時点との比較では、関西電力(9503)のみ当時の水準を上回ってきています。相対的に原発の再稼働がスムーズに進んだことなどが背景として挙げられるでしょう。それに伴って、足元の収益水準も相対的に高水準が目立ちます。

 ちなみに、年初から大きく上昇した北海道電力もいったん震災前水準にまで回復しましたが、その後は達成感などが生じている形です。PBR(株価純資産倍率)でみても、これら3銘柄が1倍前後の水準に達している状況です。

(表)電力各社の業績と配当金の推移

コード 銘柄 経常利益
(百万円)
配当金
(円)
2023.3 2024.3 2025.3 2023.3 2024.3 2025.3
9501 東京電力HD ▲2,853 4,255 - 0 0 0
9502 中部電力 651 5,092 2,150 50 55 60
9503 関西電力 ▲66 7,659 3,600 50 50 60
9504 中国電力 ▲1,067 1,940 650 0 35 10
9505 北陸電力 ▲937 1,079 450 0 7.5 15
9506 東北電力 ▲1,992 2,919 1,900 0 15 30
9507 四国電力 ▲225 800 480 0 30 40
9508 九州電力 ▲866 2,381 1,100 0 25 50
9509 北海道電力 ▲292 873 370 0 20 20
9511 沖縄電力 ▲487 25 68 0 10 20
(注)2025.3期は会社予想、-は非公表

 電力各社は2023年3月期にそろって収益を悪化させ、中部電力(9502)を除いて経常赤字を計上しています。石炭など火力発電向けを中心とした燃料費の上昇が背景で、電力販売が「逆ザヤ」状態となりました。一方、2024年3月期は一斉に収益が回復し、各社ともに経常黒字に転換しています。燃料価格の低下に加えて、電力料金引き上げの効果なども顕在化したようです。

 ただ、2025年3月期は沖縄電力(9511)を除いて全社が大幅減益計画となっています。燃料価格の底打ちや値上げ効果の一巡などを見込んでいるようです。ただ、中国電力(9504)を除いて各社が配当金の増配を計画(北海道電力は横ばい)しているように、実質的に事業環境は落ち着いたと捉えている印象も受けます。

原発再稼働が今後の収益向上要因に

(表)電力会社別原発運転状況

コード 銘柄 2010 2023 運転中 停止中
9501 東京電力HD 28 0   柏崎刈羽1-7
9502 中部電力 15 0   浜岡3-5
9503 関西電力 51 44 美浜3、大飯3-4、高浜1-4  
9504 中国電力 3 0   島根2
9505 北陸電力 28 0   志賀1-2
9506 東北電力 26 0   東通1、女川2-3
9507 四国電力 43 20 伊方3  
9508 九州電力 39 33 玄海3-4、川内2 川内1
9509 北海道電力 44 0   泊1-3
9511 沖縄電力 0 0    
(注)2010、2023は年度で、原発の電源構成比(%)

 現在、国内の上場電力会社の中では、関西電力、四国電力、九州電力(一部定期検査中)は全ての原発が再稼働している一方、東京電力ホールディングス、中部電力、中国電力、北陸電力、東北電力、北海道電力はまだ再稼働に至っていません。これらの電力会社にとって、原発再稼働は今後の収益向上要因につながっていくでしょう。

 未稼働原発の中で現在、原子力規制委員会の新規制基準に係る適合性審査で正式な許可を得ているものは、柏崎刈羽6、7号機、女川2号機となります。目先は再稼働への期待感が続く状況と考えられます。

大手電力10社ごとの注目ポイント

東京電力HD(9501・東証プライム)

 福島第1原発事故に伴う賠償・廃炉・除染などに係る費用負担から、当面は無配の状況が続くとみられています。また、政府出資分の優先株1兆円の潜在的な希薄化リスクを考慮すれば、株価の割安感も乏しく、中長期での積極的な投資対象にはなりにくいでしょう。

 ただ、短期的には、柏崎刈羽原子力発電所7号機(新潟県柏崎市)の再稼働期待は手掛かり材料になるとみられます。7号機が再稼働となれば、早い段階で6号機の再稼働期待にもつながるとみられます。また、東京周辺の利便性の高さから、展開エリアにはデータセンターの建設なども活発化していく余地が大きく、電力需要の拡大期待なども高まりやすい状況にあるといえます。

中部電力(9502・東証プライム)

 自己資本比率が36.4%と業界内では高い点が特徴となります(次位は関西電力の25.2%)。浜岡原発(静岡県御前崎市)の再稼働が見通せる状況となれば、ROE(自己資本利益率)向上に向けた資本政策の見直しなども期待できることになります。現状の株主還元策として、会社側では配当性向30%を目標としています。

 浜岡原発の審査に関しては、基準地震動はおおむね妥当との判断を受領し、基準津波についても大詰めの段階とみているようです。ほか、セクター内における年初からの株価の出遅れ感が意識されるほか、中期的には、EV(電気自動車)普及に伴う、トヨタグループ向けの電力需要拡大なども想定されるでしょう。

関西電力(9503・東証プライム)

 電力会社で最大の原発7基体制が確立されており、安定した稼働状況にもなっています。コスト競争力の強みから、中期的な電力需要の増加局面においての収益拡大期待も相対的に高いと考えられます。

 関西エリアは電力供給力の高さや大都市に近いことなどから、データセンターの立地条件として適しているとも指摘されています。今後、電力需要が期待以上に膨らんでいく可能性などもあるでしょう。

 また、同社では現在、株主還元方針などに定量目標がありません。次回の中期経営計画ではROE目標なども設定される可能性があり、それに伴う株主還元余地の拡大も今後の株価上昇要因になると判断されます。

中国電力(9504・東証プライム)

 もともと島根原発2号機(松江市)を2024年8月に再稼働する計画でしたが、安全対策工事の長期化から、再稼働時期を12月に延期しています。再稼働の確度が高まることによって、株価の見直しの動きも強まってくるでしょう。

 2025年3月期の減配計画も株価下落によって十分に織り込まれたとみられます。会社側では、現在審査中の3号機も、2028年度をめどに安全対策工事を完了させ、2030年度までの稼働を目指すことを明らかにしています。

 4月30日に発表した経営計画では、2026年3月期末の自己資本比率15%以上(2024年3月期末14.6%)を目指すとし、達成以降は、現在の配当性向10%を引き上げる方針としています。

北陸電力(9505・東証プライム)

 1月の能登半島地震の影響によって、志賀原発2号機(石川県志賀町)の再稼働時期には不透明感がより強まる状況となってしまっています。東日本大震災以降の株価の戻りは、東京電力HDに次いで出遅れている状況にありますが、株価の本格上昇に向けた材料には目先やや欠けるものとみられます。

 電力セクターの中では、北陸地方の豊富な水資源を生かし、水力発電の比率が高いことが特徴になります。2024年3月期は発電電力量の23.8%を占めています。石炭価格など火力発電の燃料費上昇局面などでは、相対的なディフェンシブ性に注目が向かう状況もありそうです。

東北電力(9506・東証プライム)

 現在停止中の原子力発電所の中では、同社の女川原発2号機(宮城県女川町)の再稼働が最も早いタイミングになるとみられています。会社側では9月中の再稼働を予定しているもようです。

 また、もともとエリア的に成長期待などは高まりにくい状況でしたが、ここにきて、東日本での需要増加に対するメリットを期待する声も高まってきているようです。東京電力HDが管轄する関東エリアでは、データセンターの新増設がなされるなど、今後の需要拡大期待が高い状況です。

 同エリアとは、同じ周波数で系統がつながっているため、同社にとっても、エリア外での電力販売を増やすことで、需要の拡大が望める可能性が高まっています。

四国電力(9507・東証プライム)

 伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の安定した稼働状況が続く中、設備投資もピークアウトしていることで、利益水準の回復、さらにはキャッシュフローの創出力が高まっている点が注目できます。2025年3月期は前期比10円増の40円配当計画ですが、2026年3月期にも段階的な増配が期待されます。

 会社側では4月に、中期経営計画最終年度の2026年3月期目標を、経常利益350億円以上から400億円以上に、ROEを7%程度から8%程度にそれぞれ引き上げています。次期中計におけるROE水準などへの期待も高まりやすそうです。西日本の電力需要増加に伴う他社販売量の増加なども想定されます。

九州電力(9508・東証プライム)

 TSMCを中心とした半導体工場の投資計画増大を背景に、九州エリアにおける電力需要の増加ポテンシャルは非常に高いと注目されます。TSMCでは熊本第2工場を2024年末までに着工し、2027年10~12月の出荷開始を目指しています。

 また、熊本県知事は、第3工場も県内に誘致したい意向を示しています。原発も4基全てが再稼働しており(川内1号機は検査中で8月29日再開予定)、収益面でのインパクトに対する期待も高いとみられます。

 ほか、株価上昇にもかかわらず、セクター内では相対的に配当利回り水準が高くなっています。中期計画で掲げた50円配当復帰も2025年3月期中に達成可能となっています。

北海道電力(9509・東証プライム)

 2024年に入ってからの株価上昇率はセクター内で最も高い水準となっています。ただ、東日本大震災前水準までの回復後は達成感から調整しており、押し目買いの好機とも捉えられます。

 ラピダス新工場などの半導体工場やデータセンターの新設による電力需要の増加期待は他のエリアと比較しても高く、さらに泊原発の再稼働なども今後の期待材料として控えています。

 ラピダス工場の量産開始は2027年とみられており、泊原発3号機の再稼働(2027年終盤~2028年見込み)は間に合わない可能性もありますが、会社側では当初は既存の電源で供給力は確保できるとしています。安全対策投資負担増は目先のリスク要因です。

沖縄電力(9511・東証プライム)

 沖縄本島を含む38の有人の島々に電力を供給しており、他社との送電線の連系などはありません。また、原子力・水力発電所を保有しておらず、化石燃料に頼る電源構成となっています。

 2024年3月期は6年ぶりの増収増益となり、2025年3月期は電力業界で唯一の増益見通しとなっています。中期計画として、2026年3月期経常利益120億円以上、ROE5%以上を目指しています。株主還元としてはDOE(株主資本配当率)2.0%以上を目指しています。