中国経済に漂う悪いムード。習近平国家主席に求められる発信と行動

 今後の見通しですが、6月の消費が大きく鈍化したといった現状から、やはり需要面を支えるための景気支援策が打ち出されていく見込みだと思います。例えば、下半期、中国人民銀行は引き続き小刻みな利下げを念頭に、政策を打ち出していくものと思われます。

 もう一つ実例を挙げると、6月29日、李強首相が国務院常務会議を主催し「住宅消費を促すための若干の措置」を審議、採択しました。それから間もない7月18日、中央政府は、商務部など13の省庁に跨る形で同措置を発表、商務部は記者会見で「住宅消費を促すことで、内需拡大に注力する」と主張しています。

 具体的には、住宅環境に関わる分野、例えば家電、家具、およびリフォームなどが対象となっており、地方政府や関連企業に、国民がこれらの分野に積極的にお金を使うような仕組みを実行していくように促しています。その過程で、中国政府自身が国家戦略の観点から掲げてきたデジタル、グリーン、スマート、イノベーションといった要素を存分に盛り込むようにという「欲張り」な一面も見せています。

 中国経済の回復のために、消費を促進し、需要を喚起することは疑いなく必要でしょう。3月に首相に就任した李強氏は市場原理や企業動向をよく理解しているとされます。地に足の着いた、国民目線の政策を打ち出そうと奔走しているのも分かります。実際、政策を審議してから公開するまでのスピード感も相当なものです。国務院は仕事をしていると思います。

 一方、上記の住宅消費促進策を含め、私の中国の知人たちにどう思うかを聞いてみても、前向きなコメントはほとんどありません。「政府の自作自演」、「企業にとっては何のメリットもない」、「それで一体何が変わるの?」といった回答ばかりで、実際、中国の実業家や消費者の受け止め方はそんなところでしょう。

 6月下旬の中国出張を終えて、改めて思いますが、昨今の中国社会は雰囲気が非常に良くないです。起業しよう、投資しよう、消費しようと思えるようなムードが漂っていない。政府が本気で栄養分を市場に放出するのだとすれば、小手先の支援策、刺激策ではなく、市場経済を巡る雰囲気がガラッと変わるような言動、発信をしていく必要があると思います。

 例えば、市場や民間からあまりポジティブに見られてこなかった習近平国家主席自身が、市場経済や民間企業を支援するような発言をする、不動産、戸籍といった分野で劇的な規制緩和をする、欧米や日本との外交関係の改善に自ら動く、といった政策を打ち出すことができれば、悪いムードは変わっていくのかもしれません。