4-6月期GDP成長率は6.3%増、前期比では0.8%増と低迷

 中国経済に関する明るいニュースがなかなか聞こえてきません。

 中国国家統計局が7月17日に発表した統計結果によれば、今年4-6月期のGDP(国内総生産)実質成長率は前年同期比で6.3%増となり、1-3月期の4.5%増からは加速したものの、季節調整済み前期比の伸びは0.8%増にとどまりました。いずれも市場予想を下回る結果となり、マーケット関係者は落胆したもようです。

 その証拠に、米国の主要金融機関は、2023年の中国経済に対する成長予測を軒並み見直しています。シティーグループとJPモルガンが従来の5.5%増から5.0%増に、モルガンスタンレーは5.7%増から5.0%増に下方修正しました。

 同日、記者会見を開いた国家統計局の付凌暉報道官は、2023年上半期のGDP成長率が前年同期比5.5%増という数字は、2022年通年の3.0%増、2023年1-3月期の4.5%増よりも高く、かつ3年続いたコロナ禍における平均成長率である4.5%増よりも高いと指摘。また、5.5%増という経済成長の速度は世界規模で見ても「比較的速い」と強調しました。新華社など、中国の官製メディアの報道を見ても、先走っているのは「上半期5.5%増」という数字で、中国政府が2023年の通年目標に掲げている「5.0%前後」の達成は可能であるというメッセージを国内外の市場関係者らに発信したい姿勢が如実に見て取れます。

 付報道官は記者会見で、次のようにも指摘しています。

「今年に入ってからというもの、世界経済は復興の活力に欠け、世界規模でのインフレは高止まりしている。先進国による利上げの他国、他地域への波及も懸念要素である。このような厳しい外部環境の下、我が国の経済が主要先進国よりも明らかに成長している現状は、中国経済が持つ強靭(きょうじん)性を示している」

1.中国経済の回復が遅れている原因は中国国内だけにあるのではない
2.世界経済が低迷する中でも、中国経済は確かな回復基調にある
3.中国経済が根源的に備えるファンダメンタルズはしっかりしている

 という3点を訴えたいのだと理解しました。

消費の伸びは鈍化。気になる不動産市場と若年層の失業率

 4-6月期のGDP実質成長率と同時に発表された、各種経済指標を見てみましょう。

  2023年6月 2023年5月 2023年4月
工業生産 4.4% 3.5% 5.6%
小売売上高 3.1% 12.7% 18.4%
固定資産投資(1-6月) 3.8% 4.0%
(1-5月)
4.7%
(1-4月)
不動産開発投資(1-6月) ▲7.9% ▲7.2%
(1-5月)
▲6.2%
(1-4月)
調査失業率(除く農村部) 5.2% 5.2% 5.2%
同25~59歳 4.1% 4.1% 4.2%
同16~24歳 21.3% 20.8% 20.4%
中国国家統計局の発表を基に筆者作成。数字は前年同月比。▲はマイナス

 6月の数字を見ると、工業生産は5月に比べて若干改善していますが、小売売上高、すなわち消費の伸び率が明らかに鈍化している現状が見て取れます。固定資産投資、不動産開発投資も悪化の傾向が見て取れますし、ここ最近話題になっている「中国若年層の失業率」は過去最高の21.3%を記録しました。

 ポストコロナ時代に突入し、企業の投資欲、工場の生産欲、国民の消費欲などが放出されることで、経済をダイナミックに回していきたいところなのでしょうが、世界経済の低迷など弱い外需に加え、国内需要が戻ってきていない不都合な真実が浮き彫りになっているのが見て取れます。

 低迷する不動産市場と若年層の失業率に関して、国家統計局の付報道官は17日の記者会見で次のように説明しています。

「足元、不動産を巡る新規の着工面積は下がっており、竣工面積は増えている。施工面積は全体的に下がっている。今後だが、不動産開発投資は引き続き低レベルで運行していく見込みである」

「6月、若年層の失業率は21.3%となり、先月よりも高くなった。来月の状況だが、大学卒業生や若者が集中的に労働市場に流入してくるため、失業率はさらに上がる見込みである」

 要するに、不動産市場も若年層の失業率も、来月以降も低迷、悪化するという見通しを国家統計局が持っているということです。付報道官は、この二つの分野に関して、状況が変われば、数値は改善するという見込みも同時に示していますが、少なくとも現時点では不透明ですし、下半期も、楽観視できない厳しい状況が続くと見るべきでしょう。

中国経済に漂う悪いムード。習近平国家主席に求められる発信と行動

 今後の見通しですが、6月の消費が大きく鈍化したといった現状から、やはり需要面を支えるための景気支援策が打ち出されていく見込みだと思います。例えば、下半期、中国人民銀行は引き続き小刻みな利下げを念頭に、政策を打ち出していくものと思われます。

 もう一つ実例を挙げると、6月29日、李強首相が国務院常務会議を主催し「住宅消費を促すための若干の措置」を審議、採択しました。それから間もない7月18日、中央政府は、商務部など13の省庁に跨る形で同措置を発表、商務部は記者会見で「住宅消費を促すことで、内需拡大に注力する」と主張しています。

 具体的には、住宅環境に関わる分野、例えば家電、家具、およびリフォームなどが対象となっており、地方政府や関連企業に、国民がこれらの分野に積極的にお金を使うような仕組みを実行していくように促しています。その過程で、中国政府自身が国家戦略の観点から掲げてきたデジタル、グリーン、スマート、イノベーションといった要素を存分に盛り込むようにという「欲張り」な一面も見せています。

 中国経済の回復のために、消費を促進し、需要を喚起することは疑いなく必要でしょう。3月に首相に就任した李強氏は市場原理や企業動向をよく理解しているとされます。地に足の着いた、国民目線の政策を打ち出そうと奔走しているのも分かります。実際、政策を審議してから公開するまでのスピード感も相当なものです。国務院は仕事をしていると思います。

 一方、上記の住宅消費促進策を含め、私の中国の知人たちにどう思うかを聞いてみても、前向きなコメントはほとんどありません。「政府の自作自演」、「企業にとっては何のメリットもない」、「それで一体何が変わるの?」といった回答ばかりで、実際、中国の実業家や消費者の受け止め方はそんなところでしょう。

 6月下旬の中国出張を終えて、改めて思いますが、昨今の中国社会は雰囲気が非常に良くないです。起業しよう、投資しよう、消費しようと思えるようなムードが漂っていない。政府が本気で栄養分を市場に放出するのだとすれば、小手先の支援策、刺激策ではなく、市場経済を巡る雰囲気がガラッと変わるような言動、発信をしていく必要があると思います。

 例えば、市場や民間からあまりポジティブに見られてこなかった習近平国家主席自身が、市場経済や民間企業を支援するような発言をする、不動産、戸籍といった分野で劇的な規制緩和をする、欧米や日本との外交関係の改善に自ら動く、といった政策を打ち出すことができれば、悪いムードは変わっていくのかもしれません。