先に信頼を棄損したのは西側

 先日、国内大手メディアで、「今、消費国は原油高で困難に直面している。しかし、産油国は増産をせず、原油価格を下げようとしない。これは消費国との信頼を棄損する行為だ」という趣旨の記事を目にしました。筆者は逆の面もあると考えています。

 2021年1月、バイデン氏は大統領就任直後、米国のパリ協定復帰を決定しました。その後、G7首脳会議や気候変動サミットなどで、積極的に化石燃料の消費を減らすことを高らかに宣言し、同盟国もそれに強く同調しました。こうした動きは「脱炭素」「化石燃料否定」のムードを一段と加速させました。

 これにより、「モノ言う株主」は投資先の企業にESG(環境=E:Environment、社会=S:Social、ガバナンス=G:Governance)を強く求めるようになり、投資家はESGに準拠しない企業を選ばなくなり、世界の名だたる自動車会社は電気自動車(EV)に転向する方針を示しはじめました。学校では、こうした動きは社会善であると教えるようになりました。

「化石燃料=悪」「化石燃料=不要」のような言われ方が目立つようになったのも、このころからです。2020年の米大統領選でバイデン氏が勝利したことを受けて、「石油の時代は終わった」と発言し、これから明るい未来が到来することを示唆したアナリストもいました。

 このおよそ1年半、「化石燃料=悪」「化石燃料=不要」というムードを醸成した消費国は、産油国との信頼を棄損していなかったでしょうか。産油国の産業を衰退させるきっかけとなり得る「化石燃料否定」が、消費国のビジネスを活性化させるきっかけとなる様を、産油国はどのような目で見ていたでしょうか。

 産油国の目に「信頼の棄損」と映った可能性は大いにあるでしょう。バイデン氏が大統領選で勝利した2020年が「脱炭素元年」であったとすれば、先に信頼を棄損したのは、消費国だったことになります。前回述べたとおり、「団結」を是とする西側が、産油国との「分断」のきっかけをつくったわけです。(この点も西側のパラドックスの一つ)