世の中、ユーロ危機の報道でいっぱいである。週刊誌、ワイドショーまでが毎週のようにユーロ危機を煽っている。最近はユーロ圏のソブリン危機が飛び火して、「日本国債の暴落説」や「日本の財政破綻」、「円高が反転して中長期的には大円安時代・大インフレ時代が到来する」との観測記事も多い。

週刊誌の記事やワイドショーの報道が、相場の実践で役に立つことはあまりない。相場はタイミングが全てであり、大円安の前には大円高が到来し、インフレの前にはデフレが極まるのが常である。ポジションを長期保有目当てで取る場合は、中途半端なところで相場に参入すると大けがをすることが多く、筆者もこれまで散々悲惨な目にあっている。相場は行き着くところまでいかないと止まらないものだ。

仮に現在の大円高相場が大円安に転換すると仮定した場合、我々はどこでポジションをとればいいのであろうか? 相場の天井や大底をピンポイントでとらえるのは難しい。時間を正確に予測するなどという行為は「神の領域」であり、凡人の出来ることではない。筆者はそのような予測をして失敗するよりも、「相場についていく」方法を選択する。

相場についていく方法は簡単である。円相場に大きな転換が起こる場合、数十円、すくなくとも10円~20円は動くだろう。どこが円高・円安の分かれ目にあるのかを明確に示唆してくれるのがドル/円の20カ月移動平均線である。月足の終値で20カ月移動平均線を相場が上回れば、相場が大きな円安相場に発展する可能性がある。20カ月移動平均線は12月8日現在、81円70銭付近での推移となっている。加えて相場が円安基調を維持するには、円安転換の大きな抵抗となっている一目均衡表<週足の雲>を上抜く必要があるだろう。20カ月移動平均線を相場が上抜いてきたら中長期の円安を考えればよい。それまでは円高時代だ。

ドル/円(月足) 1984年~2011年 20カ月移動平均線(赤)

黄色=円高時代・緑色=円安時代


(出所:石原順)

ドル/円(月足) 1992年~2011年 20カ月移動平均線(赤)

月足終値で20カ月移動平均線を越えると相場は転換?


(出所:石原順)

ドル/円(週足) 1989年~2011年

一目均衡表の雲が相場の支持と抵抗になりやすい


(出所:石原順)

ドル/円(週足) 週足均衡表 2008年6月~2011年12月


(出所:楽天証券マーケットスピード)

インフレについても誤解が多い記事が目につく。「中途半端なインフレ」は株安を招くが、国家破綻などの「ハイパーインフレ」では株がインフレヘッジの有効な商品となる。筆者が実際に経験したアルゼンチンやトルコの危機でインフレヘッジとなったのは株である。

ジンバブエの株価・賃金・物価

ハイパーインフレに強いのは実は株である。不動産もハイパーインフレには連動せず、給料は全く連動しない。


(出所:日本経済研究センター、日経ヴェリタス)

さて、現在の相場のマーケットテーマはユーロ圏の問題である。本日のECB理事会や明日の欧州首脳会議を巡る情報が錯綜し、様々な噂や憶測が飛び交っている。新聞にいろいろ書いてあるのでここでは書かないが、欧州首脳会議については中身をあれこれ詮索しても仕方がないだろう。結果が出てから動けばよい。

今月、来日した複数のファンド運用担当者の話を聞いたところでは、彼らがユーロ相場で重視しているのは、「イタリア国債の金利とイタリア国債の償還スケジュール」だけである。現在、ユーロが危機相場であるにもかかわらず緩慢な動きとなっているのは、イタリア国債金利が急激に下がったためである。イタリアの金利上昇を抑えれば、とりあえずユーロ危機は一服する。

イタリア10年国債金利(日足) 当局による必死の対策とPKOで金利急低下

赤=危険ゾーン・黄色=注意ゾーン・緑=安全ゾーン


(出所:石原順)

ユーロ/ドル(日足) 13-21日移動平均バンド(青)


(出所:楽天証券マーケットスピード)

ユーロ/円(日足) 13-21日移動平均バンド(青)


(出所:楽天証券マーケットスピード)

リーマン危機後のEU首脳会議は既に20回を越えているが、時間稼ぎと堂々巡りの議論が続いているだけである。EUの政治家の尻に火がつくのは、イタリア国債が巨額の償還に直面する来年であろう。

ユーロの危機は危機国の大規模償還の前に起こる。ユーロ売りがどの時期に起こるのかを当てるのは困難だが、PIIGSの国債償還スケジュールが一つの参考となるだろう。イタリアが大量の国債償還(来年2~4月に1,500億ユーロ規模償還)を迎える来春がユーロの大きな転換点となりそうだ。

イタリアの財務省は現在350億ユーロの現金を持っているため、2月までの償還は問題ないと言われている。しかし、2月以降にイタリアがデフォルトを回避するためには、なんらかの国際協調や景気浮揚策が必要となるだろう。おそらく来春には何らかのパニック相場が演出されるだろう。ここで追い詰められたECBがQE1、米国がQE3を発動すれば、相場の景色は一変する。ファンド勢はそれを待っている。

PIIGSの国債償還スケジュール(縦軸単位:10億ユーロ)

問題は規模の大きいイタリアとスペインである。


(出所:石原順)