何度も繰り返すようだが、昨今の相場は当局の対策次第なのである。したがって、相場の方向を決めるのは、政治の動向と中央銀行の政策だ。相場が息切れしてくると、市場は対策を求めて催促の下げ相場となる。そして、それに対応する形で政策当局の対策がカウンターで出てくるということの繰り返しだ。しかし、その対応が小出しや目先の時間稼ぎ的なものだと、効果の持続性は限られる。

現在の市場は大規模な対策が迅速に打ち出されることを望んでいるが、事態が相当悪化しないと政治家は行動しないのが常である。昨日は日米欧中銀が協調しドルの供給を拡大(流動性逼迫を回避)する方針を表明した。今回の流動性供給は12月9日のEU首脳会議で抜本的な対策で合意されなければユーロが崩壊するとの報道がされていることへの危機感があると思われる。

とりあえず新たな対策が出たことにより株価やクロス円は急騰した。似たような政策はパリバショックやリーマンショック後の2007年8月・2007年12月・2008年9月にも行われている。当時の相場を検証すると、銀行の資金繰りに対する応急処置に過ぎず、相場のトレンドを大きく変えるにはいたっていない。

ユーロ圏財務省会合やEU財務相会合から「ろくな話が聞こえてこない」にもかかわらずリスク・オンの相場となったのは、米感謝祭を通過しファンドの決算などの手仕舞いの季節が終わったからだ。ファンドは11月にはボーナスが決まっており、12月に損をするとボーナスを没収されかねないので、本来、12月はあまり動きたくない。儲かっている年は特にそうである。しかし、今年のファンド業界のパフォーマンスは低調なので、ファンド勢はクリスマス休暇返上で一発勝負に出ているところも多いと聞く。板(流動性)の薄いところを買い仕掛けに入ったのは主に「米系のファンド」という噂だ。

下の豪ドル/円のチャートをみると、先週後半に9日のRSIは過去の相場反転レベルである20に到達していた。売り飽き気分とファンドの手仕舞いが終わった自立反発局面が重なり、ファンド勢の短期的な買い仕掛けは功を奏したといえるだろう。ここ数日、筆者のところには、「何でこんなに上がっているのか?」との照会ばかりが多くて参ったが、相場の日柄的な自律反発局面に過ぎないと思っている。相場がリバウンドに向かっている中で、昨日は中国の預金準備率引き下げや中銀の協調行動があったため、先物主導でショート・カバー大会となってしまった。

豪ドル/円(日足) 9日RSIの20近辺はやはり買いの好機

上段:13日標準偏差ボラティリティ(赤)
   26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド2σ(青)
下段:9日RSI(赤)


(出所:石原順)

とりあえず、今週の買い戻しの動きによって、多くのテクニカルが示唆していた「売り」トレンドは消滅した。この相場のリバウンドは通常1~3週間続く。その期間が持ち代稼ぎ相場と言えそうだ。

豪ドル/円(日足) 売りトレンドは消滅、調整相場となっている

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足) 13-21日移動平均バンド


(出所:石原順)

ユーロ/円(日足) 13-21日移動平均バンド


(出所:石原順)

ポンド/円(日足) 13-21日移動平均バンド


(出所:石原順)

ユーロ/ドル(日足) 13-21日移動平均バンド


(出所:石原順)

当分の間、ユーロ圏を巡る政治主導の相場が続く。催促相場とそれに対応する政策で、下げと上げを繰り返す堂々巡りの相場がしばらく続きそうだ。2010年11月から2011年6月までの8カ月間の相場は比較的簡単であった。QE2の期間だったからだ。よく考えてみると、イタリア・スペイン・フランスまで巻き込んだ昨今のユーロ圏崩壊危機は今年7月上旬のギリシャ問題の再燃から始まっている。何故、ギリシャ問題は再燃したのか? それは米国のQE2が6月で終わったからだ。危機の相場は「QE TALKS」であり、量的緩和政策と株価がものを言うのである。

NYダウ(週足)と米国の量的緩和政策 欧州クラッシュに備えてQE3を温存


(出所:石原順)

最大の景気対策は株高である。米国も英国も金融機関の中身は相当悪い。しかし、欧州の金融機関のような破綻リスクにはさらされていない。それは比較感の問題だが、他国と比べて米・英の株価インデックスが高いからだ。何故、高いのか? 米・英は日本や欧州と違って、現在も比較的大胆な量的緩和政策を行っているからである。相場が本格的なリスク資産ラリーとなるには、米国のQE3、あるいは欧州や中国からのバズーカ砲的政策を待たねばなるまい。